第10話 歓迎会②
川はユーリヤの森から
「ここが川よ」
「確かに沢より深そうね。普段は皆ここで遊んでいるの?」
川は沢よりも広く深い。ただ流れは沢と同じくゆったりとしている。
「そうね。魚とか釣ったりしているわ」
水色の川面をよく見ると黒い影が流れに沿ってくねくねと泳いでいます。
「ミウはよく魔石や砂金を集めたりしているわ」
セイラがカエデに教えます。それにカエデは目をきらきらさせて、
「魔石! 砂金!」
「魔石は親の手伝い。砂金は……趣味よ」
「へえ、砂金ってどれくらい貯まったの?」
「全然よ」
私達は岸辺近くにシートを敷いて持ち寄ったお菓子を食べます。
私はクッキーを、セイラはシュークリーム、ネネカはポテトチップス。
「さあて、私は何かしら?」
カエデはバスケットから箱を出します。
「ん? 何か……軽い?」
訝しみながらカエデは箱を開けます。
「……」
紙切れが1枚入っていました。
『後でお楽しみに』
「…………どういうことよ! 後って何よ!? 後って!?」
カエデは苛立ち、クシャクシャと髪をかきあげます。
私達はその
「ほら、皆で分けあって食べよ」
「いいの?」
「一人でこんなに食べれないし」
それにこの後があるので食べ過ぎには注意です。きっとヴィレッタさんもそれを考えて何も入れなかったのでしょう。
私達は分けあってお菓子を食べます。
「ごめんね。私だけ何もなくて。あ、クッキーおいしい」
◇ ◇ ◇
お菓子を食べ終えて私達は
隠れお嬢様のカエデには手掴みで魚を獲るのは無理かと考えていたのですが、意外にも大丈夫だったのです。
ちなみに獲った魚はリリースです。
カエデは濡れても構わないからバスケットに魚を入れようと目論んでいました。何も入れなかったヴィレッタさんへと意趣返しだそうです。それを私とセイラが説得させ止めました。
「
カエデが魚を両手で掴み頭上に掲げます。
「はぁあ、すごいね。もう5匹目でしょ。私なんてまだ1匹だよぅ」
セイラが感心して言います。
「なんかコツってあるの?」
「う~ん、進行方向に立って捕まえる……かな?」
「やってみる!」
カエデは自信なく言うのですが、セイラは助言を聞き、張り切って魚獲りを始めます。
「よし、私ももういっちょやるか」
カエデはふうと息を吐いて、川面を見つめます。
私にはカエデが少しだけ顔がほんのり赤くなっているように見えます。
「ねえカエデ、もしかして疲れていない?」
「ん!? そんなことないかな」
とカエデは言うものの、頻繁に深い呼吸をします。
「少し休みなよ」
「大丈夫よ」
そこでネネカがカエデの額に手を当てます。
「ひゃっ! ちょっとネネカ、急に何よ。冷たいじゃない」
「ん、熱い」
「ほら、休んで」
「ええー! まだ大丈夫よ」
「いいから、いいから」
私はカエデの腕を引っ張り岸辺へと移動させる。
「ほらそこの岩場に座って」
「はーい」
少し不服そうだがカエデはきちんと言うことを聞いて岩場に座り休憩を取ってくれます。
私も隣に座り、休憩する。
そして魚獲りをするセイラとネネカを見ます。
セイラは熱が入っているのか目が真剣です。
それを察してか魚はすばやく動き、セイラの手から
「むうぅ!」
対するネネカはのんびりと川面を見つめています。そして時折川へと腕を伸ばし、魚を獲ります。
「ええー!? なんでー?」
セイラはありえないという顔をします。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、次へ行こっか」
と私が告げると、カエデも「そうね」と言って岩場から腰を上げます。
「……」
セイラは悔しくてまだ続けたいとう表情です。
「セイラって意外と熱が入りやすいのね」
カエデが意外という顔で言います。
「別に熱が入りやすいというわけではないよ。ただ、あとちょっとって時はもう少しやりたいって感じ」
全然ちょっとって感じではないんだけど。魚も3匹しか獲れてないし。しかもその内の1匹は掴んだ瞬間逃げられちゃったし。
「で、次はどこに?」
カエデはタオルで足を拭きつつ聞きます。
「集会所よ」
「そこって始めに……」
「ごめんね。そこは最後にって決めてたの」
「どうして?」
「行ってみると分かるよ」
「?」
◇ ◇ ◇
『ようこそユーリヤの森へ!』
集会所に入ると皆の一斉の掛け声と共にクラッカーが鳴りました。
「ひゃわわっ!」
先頭に入ったカエデは悲鳴を上げます。
「ななな、何?」
「入って入って」
私はカエデの背中を押して中へと入れます。
集会所には子供から大人まで沢山の人がいます。子供たちが役目を終えたクラッカーを持ち、大人たちは手をパチパチと叩いております。
その中からヴィレッタさんが前に出てきて、
「さあ、お嬢様こちらへ」
とカエデを貴賓席へと促します。貴賓席にはカエデのご両親がすでに座っていました。カエデは母親の隣に座り、
「え? お父様にお母様どうしてここに? それにこれってどういうこと?」
「お嬢様、後ろを見てください」
ヴィレッタさんに言われてカエデは後ろを振り向きます。後ろは壁で白の横断幕が掛けられています。その横断幕には『ヴィオレ家歓迎会』と書かれています。
「歓迎会? それって……」
カエデが周囲を見ます。今、集会所には大人から子供までの人が揃っています。ここにいるのはユーリヤの森に住む人達と村長とティアです。皆は貴賓席の方を向いています。
そしてカエデは「私の?」と自身を指差します。
それに皆が無言で頷きます。
「そうです。お嬢様のです」
正確にはヴィオレ家ですが。
「皆知ってたの?」
カエデが私達に聞きます。
「ごめんね。ビックリさせようってことになってたから」
「ビックリよ、もう。しかし歓迎会なんて」
「森に新たな住人が来ると歓迎会をするきまりなの」
出る人が来る人より多いからね。だから転居してくる人は珍しいのです。確か私が生まれてから森への転居者がカエデで二人目だもんね。
「ていうかカエデってお嬢様なの?」
というセイラの問いに、
「違うわ」
「でも、そっちの人が……」
セイラはカエデの隣にいるヴィレッタに視線を向ける。
「ヴィレッタはうちのメイドなの。だからよ」
「そうなんだ。お嬢様だとティアと被ってたね」
「別に被ってもよろしくってよ」
そこで咳払いが。
窺うと長老でした。
「そろそろ乾杯の音頭をとっても?」
「あ、はい」
「ではみなさん、お手元を」
大人はグラスを子供はコップを掲げます。後から来た私達はセリーヌさんからジュースの入ったコップを受け取ります。
「えー、この度我がユーリヤの森に新たな友人ヴィオレ家が加わりました。ヴィオレ家は以前、オルトロンの町で暮らしていました。それが此度数ある森の中からこのユーリヤの森を選んで下されました。とてもうれしい限りです。長老として礼を言わさせて頂きます。どうか皆様方、これからもヴィオレ家と仲良くやっていきましょう。では、皆様方、乾杯」
『かんぱーい!』
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