第6話 案内②

「11点先取。1ゴール1点。ただしスリーポイントは3点」

 審判役の男の子が説明します。


 カエデに村と森を案内するだけだったのにチノ達とバスケ勝負にする羽目になるとは。

 向こうはチノをいれて3人でこっちは5人全員。数はこっちが上。しかし、運動が得意な子はいない。


 セイラは意外と運動能力があるけど男の子が苦手だからゲームではほぼ戦力外。ネネカとティナは運動が苦手。私は普通……だと思う。


 問題はカエデだ。前回滝の時によく見てはいなかったがセイラと同じように男の子を助けに向かったほどだから、ある程度運動能力はありそう。


「ハンデだ。そっちからでいいぞ」


 チノがボールをセイラに投げます。

 キャッチしたセイラは「え? え?」と戸惑う。


「試合開始!」


 審判役の男の子が宣言して試合が始まりました。


 向こうの男の子がボールを持っているセイラに駆け寄ります。


「きゃっ!」


 セイラはボールをネネカに。ネネカはすぐにティナに。

 もう一人の男の子がティナに向かいます。


「えと、えと……えい!」


 ティナは私にボールを投げます。

 しかし、それをチノがカット。そしてチノは奪ったボールをドリブルさせてゴールへ向かう。


 セイラからチノを避け、ネネカは腕を広げるもチノはすり抜け、レイアップシュートで点を入れます。


「ごめんなさい」

「ドンマイ。ティナ」


 しかし、ドリブルはしてもらいたいものだ。


 ネネカがコート外からボールをセイラにパスして試合再開。セイラはまたすぐにティナにパス。ティナもまた私にパスしようとしましたがチノがいるので後ろのネネカにパス。


 そこでピピーと審判が笛を鳴らしました。


「バックパス!」

「バ、バックパス? なんですの?」

「バスケでは後ろにはパスしてはいけない」


 とネネカが説明をする。


「そうなのですか。すみません。わたくしバスケはあまり経験なくて」

「気にしなくてもいいよ。私もだし」


 実は私もバスケについてあまり知らないのです。それに元々バスケはゴールがないと遊べませんので、授業でぐらいしかここでバスケをしたことがちょっとあるくらいなのです。バックパスも今、知ったくらいです。


「んじゃあ、多少はハンデでやるよ。ルール緩和してもいいぞ~」


 とチノが馬鹿にしたように言います。


 むかっとして「いらないわよ」と言いかけたところをネネカに止められました。


「バックパスあり、トラベリングなし、ダブルドリブルありで」

「それもうバスケじゃねえよ!」

「それくらいしないと無理」

「……ちょっと待ってろ」


 とチノは男の子達と相談を始めました。


「どうする?」

「いやあ、あれくらい必要じゃない?」

「まともなのってミウくらいじゃん」


 なんか色々言われています。

 そして、

「分かった。バックパスあり、トラベリングなし、ダブルドリブルありでいいぞ」

「じゃあそれで」


 そして試合は再開。

 試合が止まったところからスタート。

 ティナが私にボールをパスします。


 しかし、ボールが私にくると分かってたのでチノがすぐに私からボールを捕ります。


「へっへー」


 チノはドリブルで一気にゴールに近付きます。


 またレイアップシュートかというところでカエデが流れるようにボールを奪い、遠くにいるセイラにパスします。


「あわっ!」

「セイラ行って!」

「う、うん」


 セイラはドリブルもせずにゴールに向かいます。反則なのですがルール緩和してるので問題はありません。


「えい!」


 セイラはゴールに向かってボールを投げます。ボールは弧を描き、ゴールネットを通過。


「嘘だろ」

「やりましたわ!」


 ティナが腕を上げて喜ぶ。


『おおおお!』

 観戦していた男の子達からも歓声が。


 私達は集まってハイタッチ。

 そしてチノチームからのボールで始まります。


 男の子がチノにボールをパス。

 私はチノからボールを取ろうと近付きます。

 それをチノが仲間にボール投げます。それをチノがカット。


 そしてボールを拾い、ドリブルでゴールへ。そのカエデを男の子がディフェンスで防ごうとしますが、それをドリブルで無理矢理抜けます。無理矢理抜けたためにゴールポストの真下に。


 駄目だ。ここからでは撃てない。パスをしないと。


 私はゴールに近付きますがチノにマークされます。セイラはもう一人の男の子にマークされています。ならあとはティナとネネカです。


 二人はこちらへ向かってくるのですが、カエデはパスをするのではなく、真下から抜けて後ろ向きで鮮やかにシュートを放ったのです。

 ボールは一度リングに当たりましたが上にバウンドして、ネットへと吸い込まれました。


「は、入った!」

「なっ!」


 私もチノも他の子達も驚きの声を上げました。


「すごい! さっきもだけどカエデ、バスケ上手ね」


 セイラは両手でカエデにタッチしながら言います。


「まあ、人並み程度よ」


 とカエデは言いますが、かなり上手いのでは?


「さ、次がくるわ」


  ◇ ◇ ◇


 それからチノ達とカエデが上手いと知るや、厳重にカエデをマークします。


 それでもマークから抜け出したり、こちら側のルールが緩和されたことによることで、なんと勝ったのです。


「お前、上手すぎだろ!」


 チノがカエデを褒め称えます。


「どうも」


 カエデは膝に手を付き、肩で息をしています。顔も赤いです。


「もう1回勝負だ。次はハンデなしだ」

「いや、もう無理。ていうか村を案内しないとだし」


 私は特に活躍はしなかったけど、それでも2回も試合はできない。体が熱くて苦しい。


「そんなのいつだっていいだろ」

「いいわけないでしょ」


 まったく本当にしつこい。


「なあ、もう1回!」


 次にチノが私ではなく、カエデに頼み込みます。


「ごめん。私、体力の限界」


 カエデは無理だと手を振ります。


「むうぅ~」

「わたくし達は帰りますがあなた達はどうしますの?」

「まだやるよ。物足りねえし」


 チノチームの男の子二人は汗だくですが、観戦していた子供達は遊びたく仕方がないようです。


「早くやろーよ」

 と観戦していた男の子が言うと、チノが「おう」と応えます。


 ほんと、どんだけ体力が有り余ってるのか。


「帰る時は受付にちゃんと言うのですわよ」

「分かってるよ」


  ◇ ◇ ◇


 体育館を出たところでティナが、


「案内するだけでしたのに要らぬ労力を消費しましたわ」

「そうだね。どこか休憩しよ」


 額の汗を拭いてカエデが言います。


「それではどこへ向かいましょうか?」

「図書室。あそこなら座って休める」


 ネネカの提案を受け私達は図書室に向かいました。

 図書室は文化会館の2階にあります。

 蔵書は少ないですがテーブルと椅子は沢山あります。

 私達は本を読むこともなくテーブルに突っ伏します。


「あら、皆、どうしたの?」


 司書のお婆さんが心配して聞きます。


「体育館でバスケをして、ちょっと疲れて」

「あらあらそうなの。なら司書室にくる? そこならお茶を出せるわ」

「行きますわ」

 とティナが即答しました。


 そして私達は司書室へ入りました。

 ソファーに座り、出されたお茶を飲んで一息つきました。


 しばらくして先に体力を回復させたネネカがこの村の郷土資料を持ってきました。


「ここに村のことがたくさん書かれている」


 といっても資料自体は薄い。

 まあ、小さい村だから仕方がない。


 資料は村の歴史というよりか村の施設についてのことが書かれていました。

 ネネカが声に出して読みます。


 資料後半辺りでティナが、

「ここでおじいさまがこの村の村長として手腕をふるったのですわ」

「ん? ティナの家って昔からあったんじゃないの?」


 カエデが聞きます。


「おじいさまの代からですわ。町に住んでいたおじいさまが村長として引っ越してきたのですわ」

「へえ、だからティナってお嬢様っぽいんだ」

「あら、お嬢様だなんて」


 オホホホとまんざらでもなくティナは笑う。


「にしてもカエデは町からきたのにあんまりお嬢様ぽくないけど」

「ミウ、町出身だからってお嬢様ではないんだよ」

「でも最初会ったときはほんの少しお嬢様ぽかったけど」

「あら、そうかしら」


 とカエデは茶目っ気に笑う。


  ◇ ◇ ◇


 文化会館を出た頃には空は真っでした。


「それじゃあね」

「またですわ」


 ティナとは文化会館前で別れ、私達は自宅のある森へと帰りました。


 この中では私がカエデの家から近いらしく帰りに二人っきりになりました。


 二人っきりになってすぐカエデは、

「もう駄目だ」

 と言って大木にもたれました。


「どうしたの?」


 心配して顔色を見るとカエデ苦しそうな表情をしていました。


「まじ体力の限界。ごめんだけどミウの家に行ってもいいかな?」

「どうして? 肩なら貸すよ。家、もうすぐでしょ」

「そうじゃなくてミウのお母さんに診てもらいたいの?」


 そう言えば前の時も母が医者と共に診察していました。


「分かった」


 私はカエデに肩を貸しました。

 家に着いてカエデをリビングのソファーに横にさせて、私は母の工房へと向かいました。


「お母さん、カエデがしんどそうなの」

「症状は?」

「疲れているのかな? この前と同じで顔が真っ赤。苦しそうにしている」

「分かったわ」


 母は仕事を中断していくつか魔石を持って工房を出ました。


 リビングのソファーでぐったりしているカエデの額に母はガラス玉のような透明な魔石を当てます。

 すると魔石は紫色に変色します。


 次にピンク色の魔石をカエデの額に当てると魔石は強いピンク色の光を放ちます。

 そして光が消えて、母が、


「これでひとまず大丈夫ね」

「すみません」

「気にしないで」


 と言って母は優しくカエデの額を撫でます。


「さっきも言ったけど『ひとまず』だから。明日になっても体調が悪かったら医者に診てもらって」

「はい」


  ◇ ◇ ◇


 カエデは一人でも帰れると言っていましたが念のためにと私が付き添うことになりました。


 空はもう夜のとばりが下りています。ランタンがないと危ないです。


「体どこか悪いの?」

「うん。普段の生活には支障はないんだけど、激しい運動をしたりするとたまにね」

「え!? じゃあなんでバスケを?」

「そんな激しく動かなければ平気かなって。でも駄目だったね」


 アハハとカエデは笑います。その笑みも無理矢理作った感じがして見てて心苦しいです。


 前方方向に小さな灯りが現れました。近付くと灯りは大きくなりました。そして道には小石が少なくなり、木々もまた少なくなりました。


 その灯りはカエデの家の灯りでした。1階の窓から灯りがこぼれています。


「ここでいいよ」

「でも……」


 家まではほんの少し遠い。ランタンなしではここから暗い道が続きます。


「もう大丈夫だから」


 と言ってカエデは小走りで家に向かいます。


 カエデの背は暗闇の中に消えます。

 しばらくしてもう一つの四角い灯りが生まれます。

 ドアの灯りでしょう。


 私の耳に小さく「ありがとー」と聞こえました。

 返答として「じゃあねー」と言ってランタンをゆっくり上げて振ります。


 ドアの灯りが消えるのを確かめてから私はきびすを返し、帰路へと足を進めました。

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