第5話 案内①

 妖精世界にも学校はあります。でも人間社会と違い学校は12歳になってからとなっています。


 それまでの間は12歳未満の子たちは月曜日と木曜日の週2で青空教室で授業を受けるのです。青空教室を受ける子の年齢は8歳から11歳となっています。クラス分けは8・9歳と10・11歳の2つに分けられています。


 場所は村にある広場です。机と椅子、黒板があるだけです。雨の日は村の役場で勉強です。


「今日はみなさんに新しいご学友を紹介したいと思います」


 授業の始めに転入生の紹介から始めました。

 クレア先生の隣には髪色が赤茶色の転入生がいます。


「どーも、カエデ・フォン・ヴィオレです。この度、オルトロンの町からユーリヤの森に引っ越してきました。よろしくお願いしまーす」

 と自己紹介して、頭を下げた。


 そう。転入生はカエデだったのです。


 引っ越してきたと言っていたので、青空教室にくるのではとは考えていたので私達は別段に驚きは致しませんでした。


「ではカエデちゃん、そこの空いている席に座って」

「はーい」


  ◇ ◇ ◇


 授業の後、カエデの周囲に生徒たちが集まった。


「ねえ、どうしてユーリヤの森に引っ越してきたの?」

「まだタウン派? それともフォレスト派?」

「それより町で暮らすってどんなの?」

「町のどこで暮らしてたの?」

 と生徒たちは矢継ぎ早に質問します。


「えっと、ええと」


 どれから答えようかカエデは迷ってるようです。すると私と目が合いました。


「仕方ない」


 私は溜め息を吐いて立ち上がりカエデのもとへ向かいました。


「ほら皆、矢継ぎ早に質問したら困るでしょ」

「何よミウ」


 そんなヴィレッジ派の子の抗議を無視して、

「カエデ、もう体は平気なの?」

「うん。おかげさまで」

「あれ? 二人って知り合いなの?」

「先日ちょっとね」

「俺達が助けたんだぞ」


 そう言うのはチノです。


「何よおかげって。


 私がそう言うとチノは鼻を鳴らしてそっぽを向きます。


「ほら皆、順番に質問」

「それじゃあ私から」


 とフォレスト派の子が手を上げます。


  ◇ ◇ ◇


 質問の後、私達は村を案内することにしました。村を案内するのは私とセイラ、ネネカ、そしてティナです。


 後でユーリヤの森も案内するので私とセイラ、ネネカだけで十分だったのですがティナが、「村を案内するのでしたら村長の娘である私の務めですわ」と言うので一緒に案内をする運びとなったのです。


「ではまずわたくしの家からで」

「いやいや、まずは足しげく通うところでしょ。なんでティナの家なのよ」

「でも知っておいて損はなくってよ」


 しかし、知っておいて得があるとも思えないのだけど。


「ん、あそこの丘の上にあるのがティナの家」


 ネネカが丘の上の屋敷を指差してざっくり教える。


「へえー大きいのね」

「でしょ。村長たるもの威厳が大事ですから」


 ティナは満足気の顔をして胸を張って言う。


「それじゃあ噴水広場に行こっか」

 と私は提案する。


「え!? わたくしの家は?」

「場所分かったし。次、行きましょ」

「お茶を用意致しますわよ!」

「ごめんね。また今度で」

「むう~」


 ティナは不満なのか頬を膨らませます。


  ◇ ◇ ◇


「噴水というか池? いや、堀かな?」


 カエデが顎に手をやり、噴水を見つめます。


「気持ちは分かるけど、本当に噴水なのよ」


 縁は円の形をしていて、大きさは直径5メートル。中央には台座に天使の像が3つ。その3つの天使は壺を抱えています。


「でも噴水なら水が湧いていたり、流れたりとかあるんじゃない?」


 その問いにティナが、

「魔法を使って水を踊らせますのよ」

 と説明をする。


「踊らせる?」

「水を沸き上がらせると縁から溢れ出てしまうでしょ。ですので中の水を使って水を昇らせたりくねらせたりとさせるのですわ」

「でも今は何もないよ」

「時間が決まっていますのよ。朝7時と夕方17時ですわ」

「誰がやるの?」


 そのカエデの質問にティナは待ってましたと言わんばかりの表情をする。そしてティナが口を開き、

「村長」

 しかし、その言葉はティナからではなかった。


「ネネカ! どうして言うのですか?」

「ん? 言わないから知らないのかと思って」

「知ってますわよ! 自分のおじい様のことですもの」


 もーもーとネネカは憤慨する。それにセイラがまあまあとティナを落ち着かせようとする。


  ◇ ◇ ◇


 次に訪れたのは文化会館だった。村の中では村役場の次くらいに大きい建物です。


「ここは文化会館ですわ。図書室とお遊戯部屋等がありますの。でも何よりもすばらしいのは体育館があることですわ」


 初めて村にきた森の子達なら驚くのだが、やはり町にいたカエデにはあまり驚くようなものではないようで平然としていた。


「そうなんだ。村にあるって珍しいよね」

「でしょでしょ。お父様が立案したのですわ」

「中見てみよっか」


 とカエデは体育館に入ろうとする。それをティナが慌てて止める。


「駄目ですわ。普段は使用できないようになってますの」

「そうなの?」

「使用には前もって申請しないといけませんの」

「あれ? でも誰か使用している」


 とセイラが言うので私達は耳を済ませると確かにボールを弾ませる音がします。


「本当だね。何しているんだろ?」

「そんな? 申請は聞いてませんわ」

「いやどうしてティナが申請を知っているのさ?」

「そ、それは……そんなことより一体誰が?」


 あ、はぐらかしたな。

 ティナを先頭に私達は文化会館に入ります。

 受付には年配の女性がいて、ティナは尋ねます。


「ねえ今日は誰も使っていないのではなかったの?」

「ええ。今日はレザードさんから娘が転入生を体育館に連れてくるくらいしか聞いていないわ」

「じゃあ誰が?」

「? だから転入生じゃないの?」

「転入生は私でーす」


 カエデが手を上げる。


「あら? 転入生は貴女なの。ええと、それじゃあ……」


 受付の女性は首を傾げて体育館に繋がる両開きの扉を見ます。


 ティナは扉に向かい、「誰ですの?」と言っておもいっきり扉を開けます。


 中では子供たちがバスケットボールをしていました。


「チーノー!」


 ティナは紅一点のチノを見つけて大声を上げます。

 子供たちはバスケを中断します。


「なんだよ。あとから来て」

「後から? 何言ってますの? 何勝手使っててますの?」

「勝手じゃねえよ。お前、転入生のために申請してたんだろ?」

「ええ! 転入生に紹介するためにね!」


 なるほどね。カエデに紹介するためにあらかじめに申請してたのね。


「なら問題ないだろ?」

「貴女は転入生ではないでしょうが!」


 ビシッと! ティナはチノに向け人差指を差す。


「紹介するなら俺達も使ってもいいじゃないかよ。同じクラスなんだし」

「あんた達は何もしてないでしょうが!」

「だからここの紹介するって。よし、バスケするか」

「なんでよー!?」

「まあまあティナ。落ち着いてよ」

「どーどーどー」


 私とネネカはティナをなだめるのだけどティナはまだチノ達に目くじらを立てている。


「で、どうする転入生? バスケするか? そっちチームとこっちチームでさ」

「ううん。ノーサンキュー」

「んだよ。負けるのが怖いのか?」


 チノが挑発するような笑みを向けます。


「体力のある男達に勝てるとは思わないわ」


 子供だから大した差はないのですが私達の中で運動が得意な子はいません。むしろ苦手が多いです。


「じゃあこっち3人、そっちは全員でいいぜ」

「いや、それでも全員男だと負けるって」

「俺も入るから」

「うん?」


 カエデは意味がわからないと首をひねります。

 もしかしてカエデはチノが女の子と知らないのでは?


 私はセイラにアイコンタクトを送ります。

 セイラは話していないという意味で首を振り、次にネネカにアイコンタクトを送ります。

 そのネネカも静かに首を振ります。


 ティナは今日会ったばかりなので話してなさそう。

 妙な沈黙に気付いたカエデは「なあに?」という顔をしています。


「……カエデ、その、チノは女の子だよ」

「…………まじで!?」


 カエデは目を見開いて驚き、そしてチノの体を上から下までじろじろ見つめます。特に股間辺りを強く。


「女の子!?」

「そうだよ! 分かるだろ!」


 チノは顔を真っ赤にして声を荒らげます。


「いやいや、いやいや、だって俺口調だし。なんか男の子ぽいし」

「うるせー、勝負だ、この野郎!」

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