第4話 ピクニック④
沢から少し北上した所に滝があります。
そんなに高くはないし水量も少ないのですが子供には危険だから滝壺には近付いてはいけないことになっています。
「ほお~、これはまたすごいね~」
カエデが口を開けて驚く。そして滝に近付こうとするので、私は慌てて、
「中に入ったら駄目だよ。全体的には浅いけど中心は深いから」
「わかってるよ。靴履いたまま入らないよ」
いや、すでに入ってるから。浅いとこなのかくるぶしにも達していません。
「あ! 鳥だ!」
カエデが崖近くの木を指して言います。その木の枝には大型の鳥が止まっています。
「あれはクルナダだ。攻撃しなければ問題ない」
とネネカが答えます。
私はセイラに向き、
「クルナダを刺激しないように写真を撮ろう」
「うん」
セイラは頷き、カメラを構えて滝を撮ります。クルナダは私達に無関心のようで威嚇もなければ飛び交うこともなくじっと木の枝に止まっています。
「撮れた?」
「うん」
と、そこで悲鳴が走りました。私達は驚き、何かと思って振り向くと、
「ひゃあ! 冷たーい!」
カエデが靴と靴下を脱いで滝壺に足を入れていました。しかも先程より深いところで足首十センチくらい上でしょうか。
「ちょっとカエデ!」
「大丈夫よ」
と言って両手で水飛沫を私達にかける。
「ちょっ! やったなー」
私達も靴と靴下を脱いで滝壺に足を入れ、仕返しにとカエデに水飛沫をかけます。
「きゃー!」
◇ ◇ ◇
「あれ? これって魔石かしら?」
カエデが滝壺からオレンジ色の石を拾います。大きさは小石程度のものです。
「そうね」
「これって危ないのかしら?」
「ただの天然魔石だから問題ないでしょ」
「天然?」
「市場の魔石は加工されたものなの。天然だと余分なものが含まれているから大して効果はないのよ」
「それじゃあ持って帰っても平気ってことよね?」
「大丈夫だよ」
カエデは記念にと天然魔石をポケットに入れます。
「……ということは市場に売ってるのは人工魔石だっけ?」
「ううん、違う。人工魔石は大きいけど魔力量が少ない魔石に後から魔力を注いだもの。市場で売ってるのは天然魔石を加工したものだよ」
「へえ! ミウって魔石に詳しいのね。魔法も使えるしすごいわ」
「そ、そんなことないよ。母のおかげだよ」
私は手を振って言います。誉められるとむず痒くなります。
「お母さん?」
「ミウのお母さんは魔石の加工、精製の仕事をしているんだよ」
セイラが代わりに説明します。
「そうなの? 確かマエストロって言うのよね?」
「まあね」
◇ ◇ ◇
一通り遊んだ後、私達は帰ることにしました。
でも、その前に服は水で濡れています。なので私が魔法で服を乾かしています。
光の玉を作り、それを囲むように私達は服を乾かしています。
「暖かいね。これって最初に会ったとき、私に向けてた魔法だよね」
「うん。ただの光を発しているだけだけどね」
「そんなことないよ。こうして服を乾かしているじゃない」
そして服が乾き帰ろうとした時です。
チノ達が滝壺に現れたのです。
「なんでお前らここにいるんだよ」
「こっちのセリフだし」
「俺達ここ使うからさっさと出ていけよ」
言われなくても今から帰るところよと言おうとしたらカエデが、
「貴方何様なの?」
急に現れたカエデにチノは驚きます。さらに知らない人物なので少し狼狽えています。
「だ、誰だ?」
チノはそう言ってカエデを上から下まで見つめます。
「変な服装。タウン派か?」
「変とは失礼ね。これは立派なレディの服なんだから」
堂々とカエデは腰に手を当てて前に出ます。
「なんでコート着てないんだよ? それにその靴……何だ?」
確かにずっと気にはなっていました。
継ぎ接ぎのような靴です。ボロボロの靴というわけではありません。初めから継ぎ接ぎでできたようた靴です。それに紐も帯型です。
カエデは右膝を上げて、
「これはスニーカーよ」
スニーカー? なんでしょう?
チノ達も分からないらしく互いに「何?」という表情をしています。
「え? 分からない? ミウ達は?」
「ごめん。私もスニーカーなんて初めて聞いた」
「ふん、靴なんてどうでもいいし。俺達ここ使うから出ていきな」
そう言ってチノ達は滝壺へ向かいます。
「カエデ、帰るよ」
私は荷物を持ち、カエデの手を引きます。
「もう! 何なのあいつ!」
憤慨しているのかカエデの顔が赤い。
「いちいち気にしてたら駄目だよ」
チノ達はボールを使ってバレーを始めました。しかも滝に近いところです。あそこは深い所とあり危険な所です。
「ちょっと危ないわよ!」
カエデがチノ達に大声で注意します。
「うるせえー!」
しかし、チノ達はボールで遊びます。
「カエデ、行こ」
私はカエデを強く引っ張って帰り道へ向かいます。
「あれ、いいの?」
「仕方ないじゃない。それにあいつ等も泳げないわけでもないんだし」
と言ったそこで悲鳴が上がりました。
「何?」
私達は一斉に滝の方へ振り向きました。
滝の近くに溺れている子がいました。
滝が直下するポイントはぐいぐい下に押されるのですが、回りは外側へと流されるので問題はないはずです。
「あれ! クルナダが邪魔してる!」
ネネカが珍しく声を上げて指差します。
溺れている子の頭上高くに 2羽のクルナダが旋回しています。
そしてチノ達が溺れている子を助けようとするとその内の1羽が下降して邪魔します。
「ど、どうする?」
セイラが怖がりつつ聞きます。
「もちろん助けなきゃあ!」
カエデが答える。
「でもどうやって?」
「ミウ、攻撃魔法は?」
私は首を振り、
「駄目。加工魔石がなければ無理だよ」
そもそも加工魔石があっても倒せるかも分かりません。
「じゃあ、どうすれば?」
溺れている子は今にも水面に頭が全部入ろうとしています。
大人を呼んでいたらまにあいません。
「1つ考えがある」
「ネネカ何?」
「クルナダの1羽がチノ達を攻撃している間に反対側から溺れている子に近付いて助ける」
「でももう1羽が邪魔してきたら?」
「光の玉を当てる」
「? でもそれじゃあ倒せないし。追いやることもできないよ」
「倒す必要はない。あくまで目眩まし」
「分かったわ。その間に助けに行くのね」
カエデがポンと手を叩いて答える。
「うん。魔法は私とミウが」
「ネネカも魔法が使えるの?」
「ネネカはこう見えても優秀で魔法が使えるの」
「ミウ、こう見えてもは余計」
「よし、行こう」
セイラとカエデが溺れている子に近付いたところでクルナダの1羽がセイラ達に気付き、襲ってきます。そこへ私とネネカが魔法で光の玉をクルナダへと放ちます。
一発ではなく何度も光の玉を放ちます。
そしてセイラ達は見事溺れている子を助けました。
チノ達もそれを知って滝壺から出ました。
「セイラ! カエデ! こっちよ」
二人に向かって私は腕を大きく振ります。
クルナダも襲ってくる気配はなく、もう安全でしょう。
そして三人は無事岸に戻ってきました。
「怪我は?」
「大丈夫。死ぬかと思ったわ」
「わ、わたひも~」
三人は岸に膝をついて、ぜえぜえと息を吐きます。
「おうい! 大丈夫か?」
チノ達が私達の下へやって来ました。
「一体何があったのよ?」
「知らないよ。急に襲ってきたんだよ。なあ?」
周りの男の子達も「そ、そうだ」と言う。怪しすぎです。
「じゃあ、なんで襲ってきたのよ」
「だから知らねえーって」
そこでバタンと音が鳴り、そして小さい悲鳴が。
反射的に振り向くとカエデが倒れていました。そして悲鳴を上げたのはセイラでした。
「カエデ! カエデ! どうしたの?」
「うっ、……うぅ」
カエデは顔を真っ赤にして倒れていました。私が名前を呼んでも意識が朦朧としているのか返事がありません。
私達は口論を一旦後にしてカエデをお医者さんへと運ぶことにしました。体力のある男の子がカエデを背負い、私達はお医者さんのいるユーリヤの森へと急ぎます。
◇ ◇ ◇
お医者さんの下に着いて、カエデを診てもらいました。するとお医者さんはなぜか私に私の母を呼ぶように言いました。なぜ私の母なのでしょうか。
どういうわけかは分かりませんが、とりあへず私はその指示に従い母を呼びに行きました。
家に着いて母に説明すると、なぜか母はカエデの名を聞いて何があったのか理解したようにてきぱきと動き、あれこれと魔石を鞄に入れました。
◇ ◇ ◇
その後はというと私達子供たちは長老に事情を聞かれ、知っていることを話しました。
私とセイラとネネカは特にお咎めはありませんでしたが、チノ達は三日間の慈善活動を言い渡されました。滝近くで遊んでいたのだから当然でしょう。
それともう1つ、実はクルナダが襲いかかった原因はボールがぶつかったからだそうです。
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