第3話 ピクニック③
クッキーとサンドウィッチを食べた後、私達はバドミントンで遊んでいました。するとボールが飛んできてセイラの肩に当たってきたのです。
「きゃあ!」
「あ、わりぃ!」
そう言ってボールを拾いに来たのはチノでした。チノは良く言えば活発な女の子、悪く言えばガキ大将。
男の子っぽいのでセイラはチノを苦手としています。と言っても基本セイラは人見知りですから気の知れた相手以外には距離を取ります。
今もネネカの背に隠れています。
「ちょっと気を付けてよ!」
「なんだ。ミウかよ」
チノは私を見ると悪態をつきます。
「なんだとは何よ!」
「そんなとこでバドやってるのが悪いんだろ」
「はあ! 先にやってたのは私達よ!」
「はあぁ? こっちだし!」
互いに詰め寄り、にらみ合います。
「何してんだよ!」
「早くー!」
チノとボール遊びをしていた男の子たちがチノを呼びにきました。
「ふん!」
と鼻を鳴らしてチノはボールを持って男の子たちの方へ向かいました。
そしてボール遊びを再開。どうやらドッジボールらしいです。
私達は気を取り直してバドミントンを再開しました。
けれど、
「ぎゃっ!」
私の頭にボールがぶつかりました。
「おーい! ボール、ボール」
遠くでチノが手を振っています。
謝りもせず、ボールを投げ寄越せという態度に腹が立ちます。
私はおもいっきりボールを投げてやるとチノは余裕で受け取ります。そして私ににやけた笑みを向けます。
「ムカウザ!」
◇ ◇ ◇
「どうする?」
私はセイラたちに聞きます。このままだとまたボールが飛んできそうです。
「じゃあ、離れる?」
セイラが弱々しく言います。
向こうが離れるべきなので少し腹が立ちます。
「バドミントンやめよう」
と言うのはネネカ。
「やめるって。何するの?」
「カメラ。自然を撮ろう」
「それいいね」
セイラが明るく賛成の声を上げます。
「それじゃあ、バド……痛っ」
また私の後頭部にボールが当たります。
「おーい! ボール、ボール!」
私はカチンとしてボールをあらぬ方向へと投げてやります。
「ボケ! どこに投げてんだよ!」
「知るかぁー!」
◇ ◇ ◇
私達はバドミントンをやめて代わりにカメラを持って森へと向かいました。
もちろんバスケットやバドミントンのラケットの入ったケースを持ってです。広場に置いておくといたずらされるか、持って帰られちゃうかもしれないからです。
「で、何撮る?」
カメラを持っているセイラに尋ねます。
「木とか岩とか道しかないね」
「沢に行く?」
ここからすぐ近くに沢があります。さらに沢を北上すると滝があります。
「それじゃあ沢に行こっか」
私とセイラが沢へと足を向けますがネネカは別の方向を見てました。
「どうしたの?」
「ん、なんでもない」
◇ ◇ ◇
沢へ向かう途中で大きな岩があり、それをカメラで撮りました。
「ネネカ、どうしたの?」
ネネカは私達が通ってきた道に顔を向けていました。
「なんでもない。撮れた?」
「撮れたよ」
そして私達は再度沢へ足を向けます。
道を歩いていると後ろのネネカが、
「追いかけられている」
『え!?』
私とセイラは来た道を見つめます。
「……だ、誰もいないよぉ」
セイラが震えた声で言います。
確かに後ろには誰もいません。
「たぶん隠れた」
もし私達をつけ狙うやつとすれば……。
「チノかな?」
「それは
私達は後ろを気にしながらまた歩きます。セイラは怯えて肩を縮めながら歩きます。
角を曲がり、少し進んでからネネカが合図を出します。
「今!」
私達は一斉に振り向きました。
すると影は驚いて手近な木に隠れます。
「出てきなさい。出てこないと魔法を放つよ」
しかし、相手が出てこないので私は両手を前に出します。
「ミ、ミウ! ダメだよ。森では魔法を使ってはいけないんだよ」
「大丈夫!」
私の突きだした両手の前に光の玉が生まれます。実はこれ攻撃性のない暗闇時に使う光の玉です。
「さあ! 早く出てきなさい! 3……2……」
「ま、ま、待って! 待って!」
白いワンピースの女の子が木の後ろから現れました。攻撃意志がないように両手を挙げています。
出てきたのはチノではありませんでした。
全然知らない子です。
森の中なのにコートを着ていません。森は危険なのでルーンが刻まれたコートを着るのが普通です。しかもコートの下の服が肩や脚が剥き出しのワンピースなんてもってのほかです。
魔力を抑えると魔法の光は弱まって消えます。
「で、誰? どうして
「ごごご、ごめんね! 道に迷っちゃってさ」
アハハと女の子は笑います。
「で、誰貴女?」
「私はカエデ。つい最近森に引っ越ししてきたの。それで散歩したら迷っちゃってさ」
「森ってどこの?」
「ユーリヤの森よ」
「そこなら私達と同じよ。森は向こうよ」
私はユーリヤの森がある方角を指します。
「……できれば案内を……」
カエデという少女は森のある方角と私達を見てもじもじと指をいじる。
「どうする?」
後ろを向き、セイラとネネカに聞きます。
「沢はどうするの?」
「一緒に連れて行けばいい」
私は頷いた後、カエデに向き直った。
「私達はちょっと沢に用があって行くんだけど。森の案内は後になるけど一緒に来る?」
「オッケーよ。ここらへんのことも色々知りたかったし。私、カエデよろしく」
「私、ミウ」
「ネネカ」
「セ、セイラなの」
こうして四人で沢に向かうことになった。
◇ ◇ ◇
「ねえねえ、沢ってなあに?」
私の後ろを歩くカエデが聞きます。
「知らないでついて来たの?」
「いやあ、一人にはなりたくなかったので」
エヘヘと後頭部をかきながら楓は答えます。
私が呆れて驚いていると代わりにネネカが説明をしました。
「砂利のある水面の低い川」
カエデはその説明を聞いて、しばらく考え、
「ああ! あれね。それで沢で何をするの?」
「写真を撮るの」
写真って分かるかな? カメラって答えるべきだったかな?
しかし、カエデはこれにすぐ反応した。
「写真! 貴女、カメラ持ってるの?」
「私でなくてセイラが」
と私はセイラに手の平を向けます。
セイラはこくこくと頷きます。
「私も持ってるの。貴女はどんなの?」
「えっと、……黒い……の」
セイラ、それじゃあ伝わらないよ。
「黒い?」
「沢に着いてたら見せるから。セイラもバスケットを開けて見せようしなくてもいいから」
◇ ◇ ◇
沢に着いてセイラはバスケットから黒色のカメラを取り出します。
「へえ、それかあ」
「はわっ!」
カエデがカメラを見ながらセイラの回りをうろうろします。それをセイラはおろおろと怯えています。
「ねえ、貴女もカメラを持ってるって言ってたけど」
「ええ、正確には父が持っているのだけど」
「もしかしてタウンから引っ越して来たの?」
「そうよ。どうして?」
「カメラのこと知ってるし、持ってるってことはそうかなって」
その他にも服装や言葉遣いもお嬢様っぽい。
「それじゃあセイラも」
セイラはぶるぶると首を振ります。
「セイラの父は研究家」
ネネカがセイラの代わりに答えます。
「何の研究?」
カエデがまっすぐした目をセイラに向けます。
「……に、人間社会の」
「へえー! すごいのね」
と親を褒められてセイラは照れて俯きます。
「さあセイラ、写真。ほらカエデ、邪魔よ」
「うん」
セイラは川に向けてカメラを構え、シャッターボタンを押します。
カシャ!
私はカエデに寄って、
「ねえカエデ、お願いがあるだけど」
「なあに?」
「私達三人で写りたいからシャッターボタンを押してほしいの」
「いいわよそれくらい。容易いことよ」
セイラはカエデにカメラを渡します。シャッターボタンについて聞かないということはさっき話は本当でカエデも使ったことがあるのだろう。
「それじゃあ撮るので寄って寄って。……良し。1足す1は?」
『2』
カシャ!
「はい! バッチリ撮れたよー」
と言ってカエデはセイラにカメラを返します。
「つ、次は私が撮るよ」
「え?」
キョトンとする楓に私は手招きする。
「ほら、こっち、こっち」
「あ、うん」
カエデを私とネネカで挟んで写真を撮ります。
「1足す1は?」
『2』
カシャ!
写真を撮った後、照れているのかカエデの顔が少し赤かった。
「次、行こっか?」
私の発言にカエデが、
「あれ? 戻らないの?」
「うん。ちょっと川を北上して滝に向かうの。そこで写真撮って終わりよ」
「滝!」
滝と聞いてカエデは目をキラキラさせます。
「へえー、私、滝を見るの初めてよ。どんなのかしら」
私は肩を竦めて、
「期待はしないで。滝と言っても小さいから」
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