第8話 車窓から



梅沢うめざわ市行きの電車に飛び乗ってから、携帯を開いた。

しばらくメールは送っていない。

届くのだろうか?

メアド変わったりしていないだろうか?

そんな不安に駆られながらも、メールを送る。


『お久しぶりです。菜花さん。小針です。お忙しいところだとは思うんですけど、今日、仕事が終わってからお時間をもらえませんか?』


まだ勤務中だ。

メールなんて送ったって見るかどうかもわからないのに。

そう思って車窓に視線を向ける。


途中までは、あおい市に通う高校生達で混み合っているが、三十分もすると、学生はいなくなる。

やはり、電車で通うと言っても、三十分が限界か。

ここから先の地域に住む高校生達は、逆に梅沢うめざわ市の学校に通うのだろう。


見慣れない風景や地名に視線をやりながら、ぼんやりと揺られていると、ふと携帯が光った。

小針は慌てて確認する。


『小針くん、こんにちは。お久しぶりです。お元気でしたか? 今日は、日勤なので定時で終わる予定ですが。時間があるかと言うのは、どう言う意味でしょうか?』


返信がきたのは嬉しいが、相変わらずの他人行儀か。

小針は嬉しいような、悲しいような気持ちになりつつ、メールを作成する。


『今、梅沢に向かっています。どうしても菜花さんに会ってお話ししたいのです。忙しいですか? 無理にとは……』


「いやいや。無理にとは、なんて、なに遠慮してんだよ。そんなんだからダメなんだ」


小針はメールを作り直す。


『今、梅沢に向かっています。どうしても菜花さんに会ってお話ししたいのです。少しでも結構なので会ってくれませんか。いや、ぜひお会いしたいのです』


「送信」


小針はメールを送付する。

と、今回はすぐに返信が来た。


『わかりました。何時に着きますか? 駅に向かいます』


「やった」


夕暮れ時の外を眺めて、小針は逸る気持ちを押さえつけた。

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