第6話 どこにもいない



本当にばか。

心底呆れてしまうとはこのことだ。

ベランダで膝を抱えて座り込んでいる小針は大きくため息を吐いた。


ポロポロと涙を流す彼の顔が忘れられないのだ。

なんで?

なんであんなに泣く?

泣きたいのはおれの方。

だけど、菜花なばながどうして傷ついてしまったのか理解できない。


置いていかれのはおれだぞ?

だけど、切ない顔をしていたのは菜花だ。

いつ本庁に戻るとか聞いていない。

あれから、携帯はもう鳴らない。

呆れられたのだろう。

不甲斐ない自分に。

きっと嫌われた。

情けない。

何だか涙が出そうだった。



––––––––––––––––––––––––––––––––––



部活を終えて、大橋は佐野と一緒に図書館に足を運んだ。

そして、衝撃的な事実を志田の口から聞かされたのだ。


「菜花さん、もういないんですか?」


「そうなのよ」


彼女は眉間にシワを寄せて、困った顔をした。


「こっちも困っちゃって。県からの出向とはいえ、即戦力だからね。当てにしていたんだけど。年度途中での異動なんて珍しいからねぇ。それだけ、県庁も人手不足なんでしょうけどね。こっちも困っている訳」


大橋と佐野は顔を見合わせた。


「あら、それにしても。小針くんは? ちっとも顔見せなくなっちゃったわね。やっぱり菜花くん狙いだったってわけか」


志田はケラケラと笑う。

彼女は一体、どこまで知っているというのだろうか。


「あの。菜花さんは小針のこと、何かいっていませんでしたか」


大橋の問いに、志田はふと真剣な表情を浮かべた。


「それそれ。私も相談したいな」


彼女はそういうと、大橋と佐野を見つめた。

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