第5話 コンクール始まります。
県コンクールは
地元開催のコンクールは、地元参加の合唱団が駆り出されることになっている。
中学生から社会人まで。
社会人は仕事もあるので、協力できる人たちで参加していくことになるが、中学生活と高校生は半分強制参加だ。
各学校に当日お手伝いの割り振りがされ、自分たちの出番以外の時間はほとんどがそれに費やされることになる。
土曜日の午後に本番があるものの、当日の午前中はメンバー全員があちこちの業務を担う。
ステージ裏の手伝い。
演奏中、人が出入りしないようにドアの開閉係。
パンフレット販売場所などである。
生徒たちが出払っているせいで、暇になっている顧問の瀬野は、ぶらぶらとホワイエを歩く。
そして、ドア係をしている自生徒たちに声をかけてからかっている。
それを横目に見て、大橋は大きくため息を吐いた。
彼は、このフロアのドア係の総括だ。
その隣には、
「おい。小針の心配より、自分のソロの心配しろよ」
「そんなこと言わないでよ。わかってるって」
「まあ、朝練までしてしっかりと歌い込んでいるから。安心して歌え」
「……それもそうなんだけど。かんとくのことも心配だけど、ソロも心配だし……うう。気分悪くなってきた」
「そうなると思ったから、おれがサブでつけられているんだろう? トイレ行ってきていいぞ」
「冷たいんだから。白ちゃん」
大橋は口元を押さえながらホワイエを横切って、トイレに繋がる廊下を曲がる。
と。
そこに小針が座っていた。
「わ、びっくりした」
「すまん。サボっているわけではないのだが……」
「どうしたの?」
「別に……」
「
「……」
絶対に聴きにきてくれるって言っていたのを大橋は思い出すが、それ以上に小針の落ち込みがひどい。
ということは、「絶対」がなくなってしまったということなのか。
「菜花さんは、そんな人じゃないと思うけど」
「……お前にも心配かけるな」
「別に。かんとくのくせに生意気だ」
大橋はそういうと、小針の頬を突く。
「やめろよ」
「みんな、かんとくが落ち込んでいると不安になるよ。こんなかんとくだって、部長には代わりないし。みんなかんとくを信頼しているんだからね」
「……すまない」
「メガホンなんてなくたっていいじゃない」
大橋はトイレに行くことも忘れ、小針の腕を引っ張る。
「よし、やろう! おれたちのスタートだろう?」
「そ、そうだな……」
小針は乗らない気持ちをなんとか盛り上げようと、自分の気持ちに気合を入れて大橋の後ろをついて行った。
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