第3話 図書館デート
翌日。
なんだか少し後ろめたい気持ちを胸に、小針は市立図書館の自動ドアを潜った。
今日は一人だ。
大橋と一緒だと何だか調子が狂うからだ。
一度訪れているからか、前よりも緊張は和らいでいる。
ドキドキしながらカウンターに顔を出すと、そこには
「あら。この前の」
彼女は小針を見て愛想よく顔を上げた。
「あの。こんにちは」
「予約した本でしょう?ちょっと待ってね」
彼女はウキウキした感じで、カウンターを出て行く。
菜花はいないようだ。
ほっとしたような、残念なようだ。
複雑な心境で立ち尽くしていると、志田が書架の間から姿を表す。
顔を上げて、彼女を見た瞬間。
彼女は菜花の腕を引っ張ってきたところであると理解し、恥ずかしい気持ちになった。
彼はいたのか。
「ほら。菜花くんのお客さんでしょ?」
彼女はそう言うと、どんと菜花を小針に押し付けてから踵を返す。
「私、ちょっと地下に行ってくるね〜」
鼻歌を歌いながら、立ち去る彼女はどういう意図があるのだろうか。
小針の気持ちを理解するような立場の人でもないはずなのだが……。
「こんにちは」
倒れ込みそうになった菜花を思わず支えてしまったおかげで、小針は硬直している。
菜花はおろおろと身体を起こした。
「すみません。小針くん。志田さんって乱暴なんです」
「い、いいえ。こんにちは。菜花さん」
ガチガチの小針を見て、彼は困った顔をした。
「嫌でしたね。こんなおじさんに抱きつかれる格好になっちゃって」
「お、おじさんなんかじゃありませんよ……」
「そうかな。小針くんたち高校生がすごく羨ましく見えますよ」
彼はそう言うと、カウンターからバーコードリーダーを引っ張り出して貸し出し処理を行ってくれた。
「お待たせしました。どうぞ」
菜花から手渡された本を大事に受け取ってみると、なんだか嬉しい気持ちになった。
やっと出会えたね。
そういう気持ちだろうか。
「菜花さんはどんな高校生だったんですか」
「おれですか?」
他のお客さんが見当たらないのをいいことに、小針はそっと尋ねる。
これで終わりにしたくなかったのだ。
菜花は「そうですね」と考え込んでから続けた。
「大人しい学生でした。読書が好きで、友達と遊ぶよりも本を読んでいることが多かったですね。文章を書くのも好きでしたから、文学部に所属して、えせ文豪気取りでしたよ」
「凄いですね。文系だ」
「ええ。根っからの文系ですね」
彼は笑う。
「小針くんはどうですか」
「おれはどちらかと言えば、理数系ですかね」
「そうですか。それなのに、本が好きだなんて。尊敬します」
「あ……」
ボロが出る。
本当は活字なんて苦手。
「そうだ。この本を是非読んでみたいという小針くんにお勧めの本があるのですが……。どうしようかな。押し売りみたいになりそうだし。少し迷っていたところでした」
「え?」
そこにちょうどのタイミングで志田が戻ってくる。
どこかにカメラでも着いているのではないかと思われるくらい、すごいタイミングセンスだ。
「志田さん、少し小針くんに見せたい本があるのでカウンターを離れてもいいでしょうか」
「いいよ〜。今日は暇だしね。ごゆっくりどうぞ。図書館デート」
なんだかいちいち突っかかる言い方をする女性だと思った。
しかし、菜花は大して気にしていない様子で、「こっちです」と小針を促す。
こんなことになるなんて。
何だか緊張する。
最初に出会った時みたいに、菜花の
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