<四章:勇者の秘密> 【06】
【06】
お互い大人なので、最初は冷静に意見を交わしていた。
が、あまりにも平行線が続いたので意見に熱が入る。ちょっとでも熱が入ったら、後はもう膨らむだけであった。
「正論ばかり並べてそれでも魔王ですか!」
「魔王が正しいこと言っちゃダメって誰が決めたのよ!」
「あたしが決めました! 今決めました! 大体魔王様は、言うことが素朴過ぎるんです! 堅実な案ばかりなんです! 村娘ですか! 魔王っぽい破天荒な意見の一つでも言ったらどうなんですか!」
「勝手なイメージ押し付けないでよね! よそはよそ! うちはうち! 私という魔王は謙虚堅実で行くのです! あなた参謀でしょ! 今更なによ!」
「今更もどちら様もありません! むしろ、今更だからイライラしてきましたが!」
「あーもー! 意味わかんない! その眼鏡は伊達!?」
「それこそ勝手なイメージですよね!」
「あのーちょっといいっスか?」
『なに!?』
あたしと魔王様は、声を揃えて声の方へ向く。
「い、いえ、お二人共忙しいみたいっスね。下で待ってても誰も来ないので何かあったのかなって………出直すっス!」
巨大なワニ男、モサさんがいた。彼は踵を返そうとして、
「ちょっと待ちなさい」
「はい、ちょっと待つであります」
「え゛」
不思議な力でモサさんの尻尾は引っ張られ、あたし達の前に引きずられる。
「ちょうどいいわ。モサくんに決めてもらいましょう」
「そうでありますね。年齢的に似たようなもんでしょう。たぶん恐らく」
「え? え?」
巨体に似合わないオドオドした態度で、彼はあたしと魔王様を見る。
「モサくん、正直に答えなさい。私と眼鏡ちゃん、ママにしたいのはどっち!」
「えぇ」
モサさんは困惑していた。
致し方ないことだ。
「モサさんも嫌ですよね。魔王様みたいに、子供の夢を否定するようなママは」
「否定はしてないでしょ! 大変なのが目に見えてるから、その危険から離してあげてるの!」
「そこが要らぬお世話なんです! 彼の力なら難しくてもやり遂げます! 例え失敗しても挑戦させてあげたいのが親心でしょうが!」
「失敗が取り返しのつかないことになるから止めているんでしょ! しょッ!!」
「まだ失敗してないのに決めつけないでください! いッッ!」
「あ、あのー」
『はい!』
正座したモサさんが手を挙げて質問する。
「なんでカラミアさんは縛られてるんスか?」
『今は関係ない!』
「は、はいっス」
縛られたカラミアさんより大事なことがある。
「聞きなさいモサくん。眼鏡ちゃんはね、“子供が夢に挑戦する”という言葉で思考停止しているの、考えなしに肯定しているの。挑戦させてあげたいのはわかるけど、場合によっては死に至る危険性もあるのに!」
「彼は死にません! できることをできると信じて何が悪いのですか!」
「悪いわよ! 保護者なら身の安全は一番に考えなきゃ!」
「いらない心配だって、何度も何度も言っていますが!」
「その意見が見当違いだって、私も何度も言っているけど!」
まーた平行線だ。
そんなわけで、
「モサさん、決めてください。ま、あたしでしょうが」
「ほら、モサくん決めなさい。ま、私に決まっているけど」
「一個だけ聞いていいっスか?」
『何?』
また、あたしと魔王様の声がハモる。
「そ、その、『彼』というのはたぶん新人幹部なんだろうと察したっス。お二人は彼に意見を聞いてから口論している………いや、もちろん聞いた後で口論しているに決まっているっスよね! なんかすいません!」
「え、言ってないわよ。だから平行線で困っているのよ」
「そうでありますね」
魔王様とあたしは目を合わせ頷く。
「本人の意思が一番っス。お二人が言い争うのはその後っス!」
『え~』
「『え~』って、なんなんスか!」
モサさんが怒る。
「だってほら、ね。眼鏡ちゃん」
「はい、二人共違うって言われたら傷付くのであります」
「だよねー」
「彼に話回してからジブンに言って欲しいっス! こんな押し付け母性困るっス!」
「そこは、モサくんで予行練習的な?」
「そうでありますね。丁度いい感じでありますし」
「ジブン、割とショックっス。そういう比較はよくないっス!」
確かに、言われてみて失敗だったと気付く。
「申し訳ありません、モサさん」
「ごめんね、モサくん」
「畏まられて謝られたら、それはそれで困るっス」
それはそうとして、ちょっと気になる。
「で、モサくん。正直な話、私と眼鏡ちゃんどっちが良い? ママ的な。保護者的な。姉的でも可よ!」
あ、魔王様聞いてしまうんだ。
「………………しょ、正直な感想を言った方がいいっスか?」
モサさんは巨体を震わせていた。
「当たり前であります」
まあ、あたしだろうけど。
「そうよそうよ」
魔王様は興味津々である。ちょっと罪悪感で胸が痛い。
モサさんは、天井をしばらく見た後、歯を見せて笑いながら答えた。
「二人共ないっスね」
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