<四章:勇者の秘密> 【03】


【03】


 まずは手頃なところから、

「スケール様、こちらが新しい幹部候補の………………勇者さんです」

 骨を幹部専用の運動場に呼び出した。ちなみに、運動場は前の破壊のせいでまだ補修工事中である。

「勇者だ」

「ええっ」

 骨は困惑していた。幹部には前日、『勇者と思い込んでいるモンスター』が幹部候補としてくると説明していたのだが。

「勇者、なのか?」

「勇者だ」

 スケール様がジロジロと勇者さんを見る。

 勇者さんには、他の幹部を紹介すると伝えた。いや、普通に紹介すると伝えてしまった。特に疑うこともなく、彼はあたしについてきた。少しあたしを信用し過ぎな気がする。

「子供だよな」

「ボクは子供じゃない」

「坊主、歳はいくつだ?」

「15歳だ!」

「子供じゃないか」

 あれ?

「勇者さん、確か10歳では?」

 魔王様から10歳と聞いたが。

「じゃ! 10歳だ!」

 じゃ、て。

 やっぱり年齢詐称している?

「眼鏡、こんな子供を幹部とは魔王様は何を考えている? それともお前の策か? 趣味か?」

「まあまあ、スケール様。彼はとても強いし将来有望なんで一度お手合わせを」

「えー子供だろ。子供相手に俺本気出せないぞ。だって子供だろぉぉ」

「勇者さん、やっちゃってください」

「てあ!」

 勇者さんが剣を振るう。

「おっと」

 衝撃で突風が吹いた。

 スケール様は剣を片手で受け止めた。流石は幹部だ。

「坊主、良い太刀筋だ。しかし、まだまだ幼い。筋肉がまるで足りていない! 毎日鍛えているか! 筋トレは大事だぞ!」

 骨が何を言うのか。

「彼は毎日オーバーワーク気味で鍛えています」

「それはそれでよくないな! って」

 スケール様の腕にヒビが走る。

「ん? 思ったよりも強くないか? 何だこの重さ。腕力と違う気が、ぐぇっ」

「あ、ごめん」

 スケール様は叩き潰され砕けた。

 勇者さんは、砕けた骨を見て頭を下げる。

「坊主、問題ない」

 砕けた骨は一瞬で再生した。

「伊達で『不死』を名乗ってはいない。少し興味が湧いた。力を試してやる。全力でかかって来い!」

「うおおおおおお!」

 可愛らしく叫ぶ勇者。声とは裏腹に、振るう剣圧は巨壁のようだ。

「あ、これはちょっとマズッ」

 バッコーン、と骨は吹っ飛ばされた。補修中の壁を突き破って城の外に消えた。

「勝った!」

「勝ちましたね」

 あたしは勇者さんと手を合わせた。さ、次の幹部だ。



「ほう、我が友スケールを倒したか、勇者よ!」

 クリムゾンガンブラッド様はノリノリだった。

「あんまり強くなかった」

「奴の“強み”はタフさである。砕け、潰れ、磨り潰されても死なぬ。我が本気で攻撃しても、殺しきることはできないだろう」

「すごいな!」

 確かに凄い力だ。しかし、個の戦闘能力はあまり高くない。なので、スケール様は他の方とよく組んで戦うのだとか。

「よし、勇者を名乗る子よ。我がいっちょ揉んでやるのだ!」

「おう!」

 この二人、息が合う。精神年齢が同じくらいなのだろう。10歳(詐称)と精神年齢が同じ幹部には一抹の不安を覚えるけど。

「あ、クリムゾンガンブラッド様。工事中なのでビームは禁止であります」

「我ビーム撃たないと只の卵じゃん。赤くて大きい普通の卵じゃん!」

「駄目なものは駄目であります。最近、色々と破壊し過ぎて方々から苦情がきていますので」

「えー! えー!」

 赤くて大きい卵が床を転がる。止めなさい子供が真似するでしょうが。

「我、やる気のーなった」

「そうですか」

「我のやる気を復活させたくば、眼鏡よ、我を抱きかかえ、胸に埋め、ナデナデするのだ。さすれば、勇者を名乗る者を幹部に推してやらんでも――――――」

「ふん!」

「どぉぉぉぉぉぉ!」

 勇者さんの一振りでセクハラ卵は吹っ飛んでいった。

「お姉ちゃんに変なこというな」

 キュン。

 抱き締めて、めっちゃナデナデしたい。あ、いけない。仕事を忘れるところだ。

「あら~面白そうな子じゃな~い」

 と、天井から声がした。

 降りてきたのは、下半身が蛇のほぼ裸体の女性。長い黒髪と蒼白の肌を持つ蛇女。カラミアさんだった。

「………………」

 勇者さんは、ニップレスをつけた巨乳に釘付けだった。

 いけない。一番危険な相手が来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る