<四章:勇者の秘密> 【01】


【01】


 色々あり、あたしは三日間の休暇を貰っていた。

「魔王様、帰還しました」

「おかえり眼鏡ちゃん、休日はどうだった?」

「満喫しました。たまには、思い切って遠くに行くのも良いですね」

「そうそう、本読んでるだけの休日じゃ体に毒よ。そういえば、どこに行ったんだっけ? 聞いてなかったわ」

「余所の国へ」

「へ?」

「敵対してる“あっちの国”に行きました」

「危なくない? 大丈夫だったの?」

「そこそこ大丈夫でありました。勇者さんに護衛してもらっていたので」

「ん? んん?」

「ハイキング中に盗賊に襲われたのは驚きました。勇者さんの敵ではなかったですが」

「待って眼鏡ちゃん、勇者くんとハイキング行ったの?」

「はい」

「デートじゃん!」

「デートではありません。休日を利用した敵情視察であります」

「眼鏡ちゃん休日に働くとか絶対しないでしょ!」

「当たり前――――――いえ、まあ、そうでない日もたまには」

「待って待ってー色々おかしわよ。休日は三日よね、まさかその間ずっと勇者くんと?」

「まあ、勇者さんの家でご厄介になっていました」

「お泊りデートじゃん!」

「家といっても、オンボロ小屋でありますよ。あまりにも酷いので自分が設計し直して、勇者さんに建てさせました」

「大工じゃん!」

「え、はい」

 大工である。いや、あたしは魔王様の参謀兼幹部である。

「その、愛の巣で二人は何を?」

「魔王様落ち着いてください。勇者さんは子供でありますよ? 同衾しても手は出さないであります」

「そ、そうよね。少し取り乱しちゃった。………………あれ? 気になる言葉が一つ」

「こちらお土産であります」

 あたしは籠一杯のパンを差し出す。

「パンよね」

「パンであります。中々美味しいかと」

 お行儀悪く、魔王様はパンを一つ齧る。

「うーまあまあね」

 舌の肥えた方だ。幹部の一人が作った食べ物なのに。

「眼鏡ちゃん、ハイキングの次はどんなデートコースを?」

「デートじゃないですってば」

「ドキドキワクワクな体験をしたんでしょ! 言いなさい!」

「してません。畑を手伝ったり、山菜を採りに行ったり、保存食を作ったり、ご近所の老夫婦に挨拶したり、まあ田舎生活でありますね」

「お嫁さんか!」

「自分、野良仕事は苦手だと思っていたのですが、土いじり楽しかったであります。勇者さんが肉体労働を全てやってくれるのも楽な理由ですが」

「もう夫婦じゃん!」

「魔王様、落ち着いてください。自分、魔王様と違って子供には全く興味はございません。………………でも10年くらいしたら、えふんえへん」

 咳払いして言葉をごまかす。

「ん!? 眼鏡ちゃん今なんて言った! 何て言ったの!」

「いえ、何も全然」

「白々しい!」

 まあまあ、と魔王様をなだめて本題にはいる。

「勇者さんと三日間過ごしまして、彼のことを調べ上げました。その報告をします」

「聞きましょう」

 言いましょう。

「家族はなし。身元を証明できる品もなし。彼の剣は『フレイムスグレイン』ですが、あちらの国の古い冒険譚に一文だけ登場しています。ですが、何をしたのかよくわからない冒険者の持ち物で、それ以上は何もわかりません。そもそも、剣の銘は削られており本物かどうかも不明であります」

「ただの剣じゃないのは確かね」

 油断していたとはいえ、魔王様をぶっ飛ばした剣だ。ただの剣でないのは確か。

「ご近所の老夫婦の話では、彼は三年ほど前に村の近くで発見されたそうです。大怪我を負っており、傷の後遺症からか自分の名前すら忘れていたそうで」

「記憶喪失ってこと?」

「ですね。回復したあとは、夫婦の物置小屋に住みながら、畑仕事、狩り、村の雑務や、盗賊退治、遠くの街まで村の民芸品を売りに行ったりと真面目に働いています」

「真面目ね」

 真面目過ぎる。子供がやる仕事量ではない。

「彼が『勇者』を名乗るようになったのは、一年前。彼のいう『王様』なる人物と出会ってからであります」

「その『王様』って、あちらの国の王様?」

「トットリオン様から情報があります」

「トットって誰だっけ?」

「姿が毎回変わる『蟻集のモンスター』で幹部の」

「ああ、はいはい、思い出したわ」

「『王様』なる人物の正体でありますが、トットリオン様によると『勇者』だそうです」

「………………え?」

 トットリオン様は彼の村にいた。潰したいパン屋が彼の村にあるのだから当たり前だ。

 そして、トットリオン様は丁寧に仕事をしつつ情報も集め、勇者が村の近くにいると小耳に挟んだ。偶然、村の少年と、知らない四人組が話し合っているのを見かけた。盗賊の手引きかと勘繰ったが、村の少年の仕事ぶりは真面目で、盗賊退治をしているのも知っていた。手引する理由はない。

 ただならぬ雰囲気だった。

 四人組は少年に対して高圧的で、暴力も振るっていた。

 少年は四人組のリーダーらしき青年を『王様』と呼んでいた。

 少年が去った後、リーダーは他の者に『勇者』と呼ばれていた。

 これらの情報をまとめると、

「王様で勇者なのか、王様が勇者なのか、もしくは王様を騙る勇者なのか、はたまた両方を騙る曲者なのか、まだ情報は定かではありませんが、一つだけ可能性の高いことが」

「眼鏡ちゃん、嘘でしょ」

 あたしは少し安心していた。

「自分達が『勇者』と呼ぶ少年は、偽物でしょう」


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