<三章:幹部大改造計画> 【03】
【03】
「はい、今日はここまでであります」
「わかった」
「続きは明日で」
「うん」
「これ、今日の勉強したご褒美とお土産です」
「ありがとう!」
勇者にクッキーとサンドウィッチを渡した。
「魔王! またな!」
「は~い」
魔王様は手を振る。
今日も勇者は、破壊した壁から帰って行く。本日破壊された巨人はくず鉄みたいなもので作られていた。今まで破壊され巨人の中で一番デキが悪い。補修作業も遅いし、パースも狂っていた。しかも、傾いて立っていた。見ると不安を覚える姿だった。
ちなみに巨人の作成は幹部の一人『芸術のモンスター』、ポッカラ様の仕事だ。彼、最近たるんでいるんじゃないだろうか?
勇者が帰り、ちょっとした沈黙の後、
「眼鏡ちゃんって、そういう風に笑うのね」
「笑う?」
魔王様が変なことを言った。
「夫を送り出す新妻スマイルだったわ」
「何を言うのですか」
あたしは笑ってはいない。というか、ここで産まれてこの方笑った記憶はない。
「今度録画しておくから、絶対笑ってたってば」
「録画しておいてください。絶対笑ってないですが」
「眼鏡ちゃんって稀によく笑うわよ」
「そんな馬鹿な」
別人と勘違いしているのではないのか?
「さて、勇者くんとの良好な関係、先の幹部会での発言、その他諸々の最近の眼鏡ちゃんの働きぶりを見て、私は決めました。眼鏡ちゃんを昇進させてあげます!」
「え、ありがとうございます」
やったぜ。
「丁度ね、幹部の一つに空きがあって、空きってか一人フラフラしてどーしようもない奴がいるから、そいつクビにして眼鏡ちゃんに幹部をやってもらいます」
「嫌です」
「何で!?」
「何でって、魔王様の参謀という仕事に併せて幹部の仕事までやらされたら過労で倒れます」
「今だって似たようなもんでしょ?」
「立場には責任が生じるのであります」
参謀だから許されていたことが、幹部兼任だと許されないことになる。責任って言葉はホント嫌だ嫌々。そこに気を張っていたら絶対疲れる。
「えー幹部やってよーやってよー眼鏡ちゃんやってよー」
「子供みたいにお願いされても嫌なものは嫌であります」
「席置くだけでもいいからさー」
「それが駄目なんですってば」
責任が生まれる。
「私だけの意見じゃないのよ。カラミアとクリムゾンガンブラッド、スケールも推してるの」
「何故に?」
幹部三人から推されたら断りにくい。
「男二人は知らんけど、カラミアはネチネチと『うちより魅力のある眼鏡ちゃんは絶対幹部をやるべき、脱ぐべきよ絶対』って言ってたわ」
「わー私怨で支援されたであります」
大体、卵と骨のせいだ。
幹部になったら、あいつらを畑の肥料にする権限もらえないかな?
「極力仕事は増やさないから、ホント立場だけでいいから、ねっねっ?」
魔王様は、今度は可愛くお願いしてきた。そういうことされると、ちょっと聞いてあげたくなる。
「仕事、増えないでありますか?」
「増えない増えない。そもそも眼鏡ちゃんは幹部以上の仕事をしているし、これ以上は求めないから、あとね、お給料も上げちゃいます」
「ほほう、おいくらで?」
「何と前の1.1倍です!」
「………………はーん」
魔王様って微妙にケチだなぁ。
「うっ反応悪い。それじゃ、1.13倍!」
「………………」
「あ、眼鏡ちゃんの眼鏡が光った。今の光り方は不機嫌な光り方だ」
「へー」
あたしって不機嫌だと眼鏡が光るのか、初めて知った。
「うぐ、1.2倍で何とか手を」
「合わせて土地ください」
「領土!?」
「海から離れた場所、かつ湿地ではなく、程よく日差しがあって四季もあり、土地が肥えているような」
「我が国にそんな土地はございません」
「酷い国ですよね」
「私その国の支配者ね」
「流石に言葉が過ぎました。謝罪します」
「では、謝罪ついでに幹部よろしく」
罰ゲームみたいに幹部にされた。
「拒否できませんか?」
「拒否はできません!」
一旦、保留して後で断ろう。
魔王様は胸の谷間からメモを取り出す。
「眼鏡ちゃんを幹部にするにあたって『知識を伝えるモンスター』じゃ、名前が弱いから私と他の幹部で色々名前を考えておきました」
あ、悪い予感。
「まず、最初の案。『魔性の太もも』って、どう?」
「魔王様の案ですね」
「だって寝心地抜群だったんだもの、ポッカラに似た物を作れないか相談中よ」
人の太ももを勝手に作らないでほしい。
「次の案は『安い男を魅了する女』」
「完全にカラミアさんですね。ちょっと怖くなってきました」
根に持たれてる。
「スケールや、クリムゾンガンブラッドの戯言なんて無視すればいいのね。もしかして、どっちかに惚れていたりするのかしら」
「ないですね」
性欲ダダ洩れの骨と卵に魅力を感じる女はいない。
「次は………えー『魔乳眼鏡』とか」
「卵か骨でありますね。幹部になったら、あいつらを落とし穴に落とす権利をください」
「スケールね。罰として三日間カカシとして畑に挿しています」
ナイスですが、そもそも伝えないでください。
「次が『ブッロロブロッッブーロロ』ね。これはエッチ過ぎるから伝えるのは迷ったわ」
「すいません、ブロブ様が言った以外、何もわかりません」
「じゃ、伝えないでおく」
それはそれで気になる。
「次のは『眼鏡サラマンダー』ね」
「たぶんモサさんでしょうが、意味がわかりません」
「私も意味はわからなかったけど、自由な発想は大事なので修正しないで伝えました」
確かに大事だと思います。
「次が………………怒らないでね? 先に言っておくけどクリムゾンガンブラッドよ」
「はい」
聞く前からこめかみがヒクヒクする。
「えー『土下座したらヤらせてくれそうな幹部ナンバー1』です」
「魔王様、奴にはどんな罰を?」
「製鉄区画の溶鉱炉に沈めたわ」
「ナイスです。冷やして固めてどこかに投棄しましょう」
「それはまた別の話として、どう? どれがいい?」
「正直、全部クソでありますね」
「私のも!?」
ノーコメント。
「それじゃーさ、眼鏡ちゃんは何か案はある?」
「一つあります。『覇王眼鏡』というのが」
覇王という響きが好き。
「なに私より偉そうな名前つけようとしているの、駄目よ」
「では『覇乳眼鏡』でも」
「だから、私よりは控えなさい。さりげなく胸を強調しないで」
確かに、魔王様より強そうな名前だと先に攻撃される。
「個人的には『知識を伝えるモンスター』が気に入っているのですけど」
脳髄の奥にある知識を、この世界に伝える。それがあたしである。あたしにしかできないことである。
プライドもあるのだ。
「そーよねー『眼鏡ちゃん』でいっか………実は勇者くんにも聞いたのよ」
「ほう」
勇者に聞くことなのか疑問だが、それはそれとして聞きたい。
「デデデデデデッ、ドドン。発表します。『クッキーお姉ちゃん』です」
「自分は今日から『クッキーお姉ちゃん』です」
「え、そこ笑うとこ? 私、冗談で言ったのだけど」
「そういう冗談は言いませんけど」
「………マジで『クッキーお姉ちゃん』で?」
「はい」
「いやいやいやいや、せめてクッキーモンスターにして!」
「それは絶対駄目であります」
権利的な意味で。
「お願いだから変えて! 参謀兼幹部が『クッキーお姉ちゃん』って意味がわからないわ」
「意味がわからな過ぎて、逆に恐ろしくないですか?」
「色んな意味で今恐ろしいわよ。お願い! せめてアレンジして! このままは流石に無理!」
「それじゃ――――――」
後日、幹部が集結する(罰を受けている二名はいない)。
玉座の魔王様が皆に言った。
「先日、皆に伝えた通り、参謀の眼鏡ちゃんには幹部を兼任してもらうことになりました」
拍手が響く。
「皆の意見を参考にし………………眼鏡ちゃんは『知識を伝えるモンスター』改め」
続きは自分で言ってどーぞ、と魔王様。
「自分は『魔性の眼鏡お姉ちゃん』となりました。幹部の皆様方、魔王様、今後ともよろしくお願いいたします」
『………………』
幹部からは沈黙が帰ってきた。
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