<三章:幹部大改造計画> 【02】


【02】


 お次は、スライムのブロブ様である。

「ブロブくん。ちょっと言いにくいというか、私はそこまで問題とは思わないのだけど………………苦情が届いてね」

「ブロッ?」

 正直、この方のことはよくわからない。他の方は普通に話しているが、あたしはスライムとのコミュニケーション方法を知らない。

「君、移動する時に体の一部が………床に、ねぇ、ほら」

 言いにくそうだ。

「ブロブ、お前移動する時に体の一部が床に残るのだ。ベタベタで掃除も大変だし、我のように空中移動することを勧める」

 卵が横から言う。

「俺もブロブの粘液を踏んで転んだことがある」

 そりゃ骨は滑りやすいでしょうね。

「ジブンは特に問題ないっス!」

 大きいワニ人間は気にしないようだ。

「うちは下半身にベトベトがつくから、ちょっと困るかしら」

 カラミアさんは、困った感じで笑う。あたしは、この人の笑い方が好きだ。目を閉じて笑顔になるのがポイントだ。

「………………」

 ブロブ様は無言で震えていた。

 なんとなく傷付いているのは理解した。

「だが、嫌いな匂いではないのだ」

 卵がフォローをいれてきた。

「うむ、フローラルだな」

 骨も続く。

 いや待て、卵も骨も鼻はないだろ。

「あ、ジブンあの匂いだけは正直キツイっス。花の蜜を煮詰めたような甘ったるい匂いでクラクラして感覚が鈍―――――――ハッ、でも大丈夫っス!」

 いや、モサさん。結構大丈夫じゃない意見ですね。

「うちも嫌いな匂いじゃないわ」

 カラミアさんは何かを思い浮かべる。

「実はね、瓶に溜めてトイレの芳香剤に使っているの」

 それはある意味酷い。

「それは盲点である。最強の我でも芳香剤には盲点であった。なるほどぉー」

「トイレの消臭にも使えるのか! ブロブお前にそんな使い道が!」

 卵と骨も続く。

 いや、お二人は排泄したりしないでしょ。しませんよね?

「………………」

 ブロブさんの体が所々尖ったりへこんだりする。怒りと悲しみを表現なのだろうか?

「眼鏡ちゃんはどう思う?」

「え、どうって」

 こんな状況で意見を求められたくない。しかし、これも仕事だ。

「ブロブ様の匂いは特に気になりません」

 何の花かわからないが、花っぽい匂いだ。別に嫌いではない。たった今、トイレの芳香剤のイメージで固定されてしまったけど。

「でも、床のベトベトは困りますよね。この城、狭い通路も多いので避けようがないですし。ここは一つ、移動は台車などを使っては?」

「眼鏡ちゃん、ナイスアイディア」

 魔王様はお喜びになる。そろそろ、鎖を外してほしい。胸に食い込んで痛い。

「そういうわけだから、ブロブくん。これから移動する時は台車を使ってね」

「………ブロッ!?」

 ショックを受けたようなブロブ様は、小さくなってプルプル震えた後、

「ブロォォォォォォォ!」

 泣きながら魔王の間から出て行った。

 スライムでも泣くのだと初めて知った。

「………………はい、じゃ次、てか最後」

 魔王様は切り替えた。

「幹部最大の問題点。カラミア、あんたよ」

「あらあら~」

 わざとらしくカラミアさんは驚く。

「何かしらぁ、うち悪いことは何もしてないけど」

「カラミア、あんたのその恰好が悪い」

「恰好?」

 魔王様は、カラミアさんの見事な胸を指す。あたしのだらしない胸とは違う、見事な球体と張り。ワンポイントのピンク色も実に美しい。

 ここまで完璧な胸は、あたしの人生で二度とお目にかかれないであろう。お金を払いたいくらいだ。

「胸を隠しなさい!」

「えー」

「『えー』じゃないわよ! 服を着て隠しなさい! 全裸とか子供の情操教育に悪いの!」

 うん、確かに勇者さんには目の毒かも。

 カラミアさんは頬を赤らめて反論する。

「魔王様、服とか恥ずかしいですわ」

「そこ!?」

 毛皮や羽毛や鱗を“服”と定義しなければ、この国の着衣率はかなり低い。

「幹部としては魔王様の提案に反対である」

「俺も同意見だ」

 卵と骨は露骨に反対してきた。

「我、カラミアの乳が隠されたら能力は半減する」

「俺も同意見だ! 内から溢れ出る本能や情動が失せる! それは弱さに繋がる!」

「あんたら性器もないのに」

 魔王様の鋭いツッコミ。

「我の封印された殻の奥底に眠る性器が見たいと?」

「俺は体こそ骨だが、心にはいつも性器を持っている」

 このアホ男共。

「ジブン、カラミアさんの下半身には興奮しますが、上半身には全く興味ないっス!」

 モサさん、それはそれで問題です。

「むしろ」

 カラミアさんは蛇のような長い舌を一瞬出して言う。

「魔王様と眼鏡ちゃんも脱いだら?」

『………………』

 絶句する魔王様とあたし。

『幹部としては、カラミアの提案に賛成である』

 卵と骨は声を揃えた。

「我、魔王様の裸なら1.2倍の力、眼鏡の裸なら2倍の力が出せる」

「俺も同意見だ」

 どうしようもない卵と骨だ。

「ちょっと待って、何で私より眼鏡ちゃんの裸の方が強いの?」

 そこは流して欲しかった。

「我、カラミアや、魔王様のようなパーフェクトボディも良いのだが、だがッ! 眼鏡のだらしない体の方が興奮する」

「俺も同意見だ。下半身の太さもポイント高い。何よりも、魔王様は裸でも堂々としているだろうが、眼鏡は絶対に嫌々恥ずかしそうにするので、その背徳感が良いッッ!」

 マジこいつら、粉末にして畑に撒いてやろうか。

「ポチっと」

 魔王様は玉座の肘掛けにあるスイッチを押した。

「ぬぉぉぉぉぉ!」

 床の一部がパカっと開いて骨が落下していった。

「ポチ」

「われぇぇぇぇ!」

 卵の下も開いて鎖と一緒に落ちる。

「あ、我飛べるのだった。しかし空気読んで落ちるのだ」

「さっさと落ちろ!」

 魔王様に看板を投げつけられ、卵は穴に落ちていった。

 二人の幹部を飲み込んだ後、床の穴は閉じる。魔王の間に、こんな仕掛けがあったとは。

「あのー魔王様」

 モサさんは、すまなそうに口を開いた。

「ジブンも何か着た方がいいっスかね?」

「君はマフラー巻いているからいいわよ」

「了解っス!」

「魔王様」

「何よ、カラミア」

 カラミアさんは、見たことのない悔しそうな顔をしていた。

「胸、隠しますわ」

「あ、はい」

 こうして、勇者さんに悪影響を及ぼす乳は隠れた。

 そして、我が国の女性の間では、乳首を隠すニップレスが流行したのだった。

 それを見ながら、

「これはこれで、ありよりのありである」

「うむ」

 卵と骨が何か言っていた。

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