<一章:勇者と魔王の相互作用> 【02】


【02】


 二日後。

「ちびっ子勇者、昨日は来ませんでしたね」

「ど、どうしたんだろう」

 魔王様は本気で心配していた。

 長年続いているという勇者と魔王の関係が揺らいでいる。問題にならなければよいが、もう既に問題な気もする。

「結局のところ、魔王様はあの勇者をどうしたいのでありますか?」

「成長を見守りたい?」

「お母さんですか」

 魔王が勇者に母心を持たないでほしい。

「流石にそれは半分冗談として」

「半分冗談なら、半分本気では?」

「アハハハハ」

 魔王様は笑って誤魔化し、編み物をする手を動かす。

「ところで魔王様。最近、編み物に凝っていますね」

「モサくんのプレゼント用にね」

「モサくんとは、モササウス小侯爵のことでありますか? 幹部の」

「そうよ。彼もうすぐ誕生日だから『何か欲しい?』って聞いたら『あ、いや自分そんな高い物とかはいらないっス。気持ちがこもっているなら何でもいいっスよ!』って言うから、編み物でマフラーでもと」

「誕生日プレゼントに、上司の手作りマフラー」

「ハンドバッグとかも編めるけど、そっちの方が良いかしら? 男の子だけど」

「そういう問題ではありませんね」

「眼鏡ちゃん。安心して、あなたの分も用意するから」

 ベール越しでもドヤ顔が感じられた。

「いらないであります」

「遠慮しなくてもいいから、いいから、なんか適当なの編んどくね!」

「あ、はい」

 本気でいらないが、面倒なので流した。

 と、先日設置した警報が鳴る。壁の塗装をしていた青銅の巨人が、全力ダッシュで逃げ出した。あたしは耳栓をつけて鉄傘を広げる。

 大爆発が起こった。

「魔王!」

 勇者が現れた。

 壁がまた破壊された。巨人は逃げ遅れて破壊された。

「決着をつけるぞ! だけどその前にこれを食え!」

 勇者は、抱えていた大きなズタ袋を差し出す。危険物だとマズいので、あたしが中身を確認。

「勇者さん、これは?」

「キノコだ!」

 それは見ればわかる。

「毒ガスを出すということは、お腹の調子が悪いということだ。このキノコを食べれば、お腹の調子がよくなると聞いたのだ!」

「美味しそうでありますね」

 シイタケっぽいキノコだ。毒はなさそうである。

「これ食えば体調が悪くなって薬草を食べても毒ガスは出さないな! 大丈夫だな!」

「うぐっ」

 魔王様が胸を抑えていた。良心や、自尊心にダメージを負ったようだ。

 いや、色々とツッコミどころが多すぎて何から言ってよいのか困る。

「勇者さん、あなた魔王様を倒したいのでありますよね?」

「当たり前だ」

「それなのに、魔王様が体調を崩したら、また草を食わせて回復させるつもりですか? キノコと一緒に」

「そうだけど」

 さも当たり前に言う。

「勇者さん、それはおかしいかと」

「おかしいのはお前だ。怪我したり弱ったりした魔王と決着をつけてどうするんだ! バーカ!」

「馬鹿はお前だ」

「何だと!?」

「しまった。口に出してしまった」

「二人共、私の為に喧嘩しないで!」

 魔王様が悲劇のヒロインみたいな口調で言う。

「うん、喧嘩はよくないな。謝る。ごめんなさい」

 勇者は素直だった。

「眼鏡ちゃんもほら!」

「えー」

「『えー』じゃないでしょ! あなた勇者くんより年上でしょ?」

「眼鏡お前いくつだよ!」

 ………………。

「17歳であります」

「ちょっと眼鏡ちゃん! すごいサバ読んだでしょ!」

「ボクの倍生きてるのか! すごいな!」

「勇者くん信じないで!」

 よし逃げよう。

「では自分は、魔王様が毒ガスださないように、キノコ料理を作ります。勇者さんも食べるのであります」

「食う!」

「うぐ、上手く逃げた」

 キノコはバターで炒めてオムレツにした。お土産のクッキーを持って、勇者は満面の笑みで帰って行った。

 あれ? 

 何か忘れている気がする。

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