第14話 仲間割れ
篠塚亮子にしてみれば、団体が殺人まで犯してしまうとは思っていなかった。
遠距離恋愛の恋人と別れたくない一心で加担した。
それでも、遠距離恋愛の恋人黒田敦は、彼女をみかぎった。
黒田敦は、警視庁捜査1課の新人刑事で、小室の同期生である。
となれば、篠塚亮子が警視庁の事務職員である必要がなくなる。
黒田敦は、自分とヘイト団体の関係を知られないために篠塚亮子を利用した。
黒田敦恋しさに、京都から出てきた女心を踏みにじった。
それでも、まだ黒田の気を引きたくてヘイト団体に入った。
京都と東京の情報をWで取得できる存在になり、団体幹部にまで上り詰めた。
塚田秀明につぐ、東京支部のナンバー2。
副支部長になった。
そうなってから、黒田敦はあわてた。
ところが、そんな折、本村志織殺害事件が起こった。
指図したのは塚田秀明だった。
『刑事さん、その紙袋は俺の
です。』
篠塚亮子を連行しようとする小林に黒田が声をかけた。
『この紙袋を自分のだと主張
することが、どういうこと
かは、わかっていますよ
ね、黒田君。』
振り向きもせずに軽く言いはなった。
篠塚亮子は、驚いて振り返った。
『敦・・・
なんであなたがここに。』
『アホなこと聞くもんやあり
ません篠塚さん。
あなたのことを心配して来
てくれはったんでしょう。』
図星ではあるが、それを表に出さないことが、この2人の不器用なところ。
結局、2人共捜査1課に連行された。
紙袋は、佐武が鑑定を始めている。
紙袋に着いていた指紋は、黒田敦はもちろん、加山美香という女性のもの。
京都府警察本部売店の職員である。
当然、加山美香も捜査1課に呼ばれた。
加山美香は、ヘイト団体のメンバーではない。
黒田敦の恋人でもない。
たしかに、篠塚亮子は、この2人を疑っているフリをしていた。
しかし、紙袋のこと以外に、ほとんど接点はなかった。
このことは、木田警部以下京都府警察捜査1課の捜査の結果明らかになっている。
加山美香、篠塚亮子とは、高校時代からの親友。
黒田敦は、ただそれだけの伝を頼って加山美香に紙袋を預けた。
黒田に中は見ないように言われた実直な加山美香は、すぐさま篠塚亮子に連絡した。
篠塚亮子にも、中は見ないように言われて、店の片隅で預かっていた。
ただそれだけの関係。
『小林警部補さん。
美香は、何も知らないん
です。
関係ありませんよ。』
小林、そんなことはわかっている。
『証拠品を隠していたこと
に、変わりありません。』
もちろん、証拠品と知らずに預かっていただけでは、大きな罪になどなりはしない。
ただ、今回は殺人事件の証拠品である。
事件の経緯が、ある程度、判明するまでは、証人でもある。
『彼女を早く釈放させたけ
れば、あんたが、早く自供
することやね。』
黒田敦と篠塚亮子の供述内容が一致して、その上事実が確認されれば、加山美香など留め置く必要はなくなる。
それを聞いた篠塚亮子は、最初から最後まで、ペラペラと喋り始めた。
加山美香を助けたい一心で、篠塚亮子が自供を始めたと聞かされた黒田敦も、少しずつ話し始めた。
紙袋の中には、大きなサバイバルナイフ。
かなりの量の血痕。
グリップの指紋は、かなりの人数のもの。
それらの証拠品を重ねて、さすがに塚田秀明にも逮捕状が出た。
塚田はもちろん、否認しているが。
警視庁捜査1課の捜査員達は、森川警部の指揮の下、地道な捜査を続けていた。
本村志織の死体遺棄現場に使われた神田明神では、全面的な協力が得られ、すべての防犯カメラの映像確認を手伝ってくれた。
死体遺棄を指示している塚田が、はっきり写っていた。
サバイバルナイフは、塚田が用意した物だった。
個人経営の刃物店で購入していたことが判明した。
塚田秀明は、サバイバルマニアで、刃物店には何回も何年も出入りしていた。
アホなのか、警察を嘗めていたのか。
購入者名簿、つまりカスタマーガードに、写真付でストックされていた。
塚田の自宅はもとより、団体東京支部の家宅捜索が行われた。
本村志織と西牟田三次の殺害の凶器は出てこない。
出てくるわけはないとわかっていてしらを切った。
悪党にしては、かなり往生際が悪い。
森川警部にしてみれば、ずさんな犯人のずさんな隠蔽工作ほどわかりやすいものはない。
この期に及んで、まだ黒田と篠塚が自供するとは思ってもいない。
塚田は、人間の喜怒哀楽をナメ切っていた。
黒田と篠塚の供述が、一つ一つ確認されて、塚田の教唆が動かしがたいものになった。
誤魔化しきれない証拠品をいくつも突き付けられて、ようやく観念した。
黒田と篠塚については、京都地検の拘置所に収監されて、塚田だけは東京での収監になった。
塚田は、よほど強権的な団体運営をしていたのだろう。
面会者はおろか、差し入れする者もいなかった。
京都魔界伝説殺人事件・平将門 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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