第13話 手練手管
勘太郎達広域捜査部隊は、完全にヘイト団体を欺いた。
なぜか、篠塚亮子の携帯電話を押収しようとしなかった。
篠塚亮子は、いつ取り上げられるかと気が気ではなかった。
しかし、結局最後まで取り上げられなかった。
勘太郎達の頭には、会議室に入る時に携帯電話を身につけている警察職員などいないという固定観念があるようだ。
だから、調べられもしなかった。
篠塚亮子にしてみれば、シメシメである。
敏腕のなんのと言われていても、こんな程度なのだと勘太郎を侮った。
しかし、これは勘太郎の罠である。
小林と佐武に幸太郎と小室は、勘太郎に指示された通りに動いただけだった。
しゃべった内容まで勘太郎の筋書き通りだった。
篠塚亮子は、まんまと勘太郎の罠にはまった。
会議室のトイレに入って、ヘイト団体東京にいる塚田秀明という男に連絡を入れた。
『どうやら、私のことはバレ
たようです。
捜査1課の捜査会議に荒木
田佐内が現れて、私が写っ
ている写真を何枚も。』
そこまで、一気にしゃべると。
篠塚亮子は、相手の呼吸しか聞いていないことに気がついた。
『もしもし・・・
塚田さん・・・
聞いてはりますか。』
塚田という相手は、返事をしなかった。
さすがに、したたかな男のようだった。
ところが・・・
篠塚亮子が、あさはかな行動に出た。
『塚田さん・・・
塚田さん・・・』
何回も、塚田の名前を呼んだ。
とうとう、塚田がキレた。
『あんたはバカか・・・
盗聴されてないのか。
相手は、あの真鍋勘太郎
だぞ。
そんなに生ぬるいわけねぇ
だろうが。』
もちろん、篠塚亮子だってそこまでバカではない。
電話前に、かなり入念に盗聴器を探した。
電話口で怒鳴っても、話し相手以外には聞こえないのだが、会議室には丸聞こえ。
篠塚亮子は、便器・便座・水タンク考えられるあらゆる場所に盗聴器がないか探している。
見つけられるものなら、見つけてみろと言わんばかりの勘太郎の物腰には、捜査員達ですらわけがわからない。
篠塚亮子がいくら探しても、どこにも盗聴器はなかった。
しかし、実際に篠塚と塚田の会話は筒抜けしていた。
盗聴器は、篠塚亮子のブラウスの襟に貼り付けられていた。
超小型・超軽量で、約1時間で剥がれて落ちるようになっていた。
京都府警察科学捜査研究所が開発中の秘密兵器である。
篠塚亮子が会議室を出ようとして止めた時に佐武が隙を見て貼り付けた。
小林だと、篠塚も警戒しただろう。
佐武は、技術者と思われていることが隠れ蓑になった。
すべて、勘太郎の読みと筋書き通りに事が運んでしまった。
佐武が篠塚亮子のブラウスの襟に貼り付けた盗聴器は、会議室の後ろの席の通路で、回収された。
篠塚亮子がヘイト団体のスパイ活動をしていたことは明らかなのだが、勘太郎は逮捕しようとしなかった。
篠塚亮子は、気味が悪くて帰宅できない。
『今、逮捕しても、公務員守
秘義務違反やからなぁ。
本村志織と西牟田三次の連
続殺人と結びつける証拠が
薄い。
泳がせて、証拠隠滅の現場
を押さえたい。』
という勘太郎の罠。
数日後、京都府警察本部売店に篠塚亮子が現れた。
数メートル後ろに、小林と佐武、売店の出入口には木田警部以下、捜査1課の私服刑事が待ち構えている。
そんなこととは知らない篠塚亮子は、目的の行動に出た。
ショーケースの上の小物商品を落とした。
『ごめんなさい。』
あわててしゃがもうとした篠塚亮子の目の前で、いち早く小林がしゃがみ込んでいた。
拾い上げた物品が2個。
ビニール袋に包まれた手袋と紙袋。
小林が紙袋を開けて、顔色を変えた。
『何やこれ。』
小林の叫び声で、木田達は緊張して、篠塚亮子を待ち受けた。
下を向いていた小林が顔を上げて驚いた。
『篠塚さんですやん。
警視庁の篠塚亮子さんです
よね。
なんでここに。』
そこに佐武が合流して。
『野暮なこと聞くなコバ。
篠塚さんが京都出身てこと
忘れたんか。』
篠塚亮子も、この時点で気付くべきだった。
売店の外には、京都府警察捜査1課の捜査員がウヨウヨいることに。
篠塚亮子は、逃げた。
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