第12話 誤算
篠塚亮子は、歯ぎしりしていた。
荒木田がそんなに早く任意同行されるとは思ってもいなかった。
ましてや、荒木田の任意同行がヘイト団体を欺くための偽装だなどとは頭の片隅にもない。
当然である。
作戦は、鶴薗警部補、新藤幸太郎、小室刑事どころではなく森川警部ですら知らされていなかった。
もちろん、京都組も知らされていない。
完全に勘太郎と荒木田の隠密行動であった。
ヘイト団体では、自分達が正しい活動をしていると勘違いしているため。
まさか、警察が外国人を擁護するとは思ってもいなかった。
日本が民主主義国家であり、
差別は法律で禁じられていることを忘れている。
それ以上に、殺人は、どんな国のどんな宗教や法律でも許されないことを忘れている。
したがって、どんなに上手に隠しても、どこかが綻んでくるものだ。
ましてや、始まりの人種差別が悪いことと思っていない団体では、人種差別から外国人を擁護する政治家などは、敵以外の何者でもない。
しかし、平和憲法下の日本では人種差別は憲法違反でしかない。
それでも、彼等は殺人を犯した。
本村志織等殺害しても、彼等の活動に何の影響も与えないだろう。
かえって日本人の反感をかうだけだ。
西牟田三次殺害にいたっては、脈絡までつながっていない。
単に、荒木田佐内に警察の目を向けさせるためなら、いくらなんでも乱暴過ぎて、さすがに足がつくことくらいは、どんな鈍感な人間でもわかりそうなものである。
『やっぱり、僕が在日三世や
からですかね。』
荒木田は呟いたが、これには、勘太郎が怒り出した。
『アホ言え・・・
お前は、日本人の小学校で
日本人の中学校を卒業して
るやないか。
しかも、国籍は日本を選ん
どるやないか。
ハングル書けへんやろう。
読めへんやろう。
喋れへんやろう。
単に、お爺ちゃんお婆ちゃ
んが北朝鮮から来ただけで、
育ちも何も日本人丸出しや
ないか。
俺と何が違うねん。
そら、俺はイケメンで
お前は・・・。』
変なところで話しを止めた。
『そ・そんなところで
黙らんといて下さいよ。』
荒木田は、ホワイトボードに証拠写真を貼りながら笑った。
証拠写真が数枚貼られた時、会議室の後ろの扉から出て行こうとした篠塚亮子に、小林が気付いて立ちはだかった。
その一瞬の隙に、佐武が扉を閉めてしまった。
ここで、篠塚亮子を逃がすわけにはいかない。
小林と佐武の動きを見て、幸太郎と小室が近づいた。
『申し訳ありません。
今日は、退室禁止になって
ます。
おトイレでしたら、あちら
の会議室トイレをお使い下
さい。』
会議室には、1つだけトイレがあるが、窓とかはない。
したがって、トイレの窓から逃げるというようなことはできない。
篠塚亮子は、まさか捜査の手が自分に及んでいようとは、思ってもみなかった。
自分がヘイト団体のメンバーであることは、自分以外に知らないはずであった。
ましてや、近づいていた鶴薗・新藤・小室は、京都に行ったはずだった。
団体の京都本部からは、何の連絡も入っていなかった。
勘太郎達一行は、京都を出るのに、出町柳駅から京阪電車に乗った。
萌と乙女座の女の子にミニオンのコスプレをさせて、休日を利用してUSJに遊びに行くように装った。
他の荷物は、宅配便で警察庁に送って。
大阪淀屋橋駅で大阪メトロ御堂筋線に乗り換えて、新大阪から新幹線に乗るという偽装を行っていた。
鶴薗・新藤・小室・小林・佐武ですら遊びに行くものと思っていた。
ご丁寧に、出町柳には糸魚川が乙女座弁当を届けに来るという演出まであった。
乙女座の女の子には、東京で萌と遊ばせて、糸魚川と高島美野里が向かえに来た。
さすがに、そんな手の込んだ偽装を警察がするとは、誰も考えられなかった。
いや、やっている鶴薗・新藤・小室・小林・佐武ですら遊びに行くものと思っていた。
いつもなら、マイクロバスを手配する勘太郎がなぜ今回に限って京阪電車を使うのかという程度の疑問しか持たなかった。
淀屋橋から南に向かうと思っていたのに、北千里行きに乗るように言われて、ようやく偽装行動に気がついた。
『ッたく・・・
お前は、なんちゅうデカイ
スケールの偽装行動を考え
るねん。』
大親友の佐武ですら呆れた。
そんなだから、篠塚亮子やヘイト団体にわかるわけなどなかった。
ヘイト団体では、一応各駅や各インターチェンジには、見張りを手配していたが、いくらなんでも、京阪電車で京都から脱出するという方法には、思いつかなかった。
京阪電車で、一旦大阪に向かうということは、逆方向に向かうという偽装になるが、新幹線に乗り換える偽装をするなら、阪急電車の方が近い。
まさに、とんちんかんな動きで京都を出たのである。
京都の団体メンバーは、現在も、勘太郎達は京都にいると思っていることだろう。
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