第11話 協力

荒木田佐内。

フリーライター歴20年の大ベテランである。

パパラッチ歴も20年と言っていい。

その荒木田が、警察に追跡されていることに気づかないはずはない。

もちろん、どんな形でどんな服装でなどわかりはしないのだが。

警察に見張られていることくらいは察しがつくはずである。

それなのに、自分の活動拠点をさらけ出した。

勘太郎は、それを考え始めて立ち上がった。

もちろん、京都府警察隠密部隊には、荒木田の追跡を続ける指示をしている。

しかし、荒木田が東京行きののぞみ号に乗車したと報告が入った。

『荒木田が危ない。』

勘太郎の呟きに、全員が立ち上がった。

本村志織殺害と西牟田三次殺害の罪を荒木田に擦り付けようとしたと考えると。

荒木田も消されると考えるのが自然。

しかし、西牟田三次殺害の当日は、荒木田が東京にいたことはわかっている。

指紋の謎は残っているが、とにもかくにも荒木田の安全を確保しなければならない。

勘太郎は、荒木田の東京事務所に電話してみた。

『ハイ・・・

 荒木田取材事務所。』

荒木田本人が電話に出た。

『良かった・・・

 ご無事でしたか。』

勘太郎は、思わず本音が漏れた。

その時点で、荒木田は誰からの電話かわかった。

『真鍋警視正ですね。

 警察庁広域捜査室の。

 私からのシグナル。

 受け取って頂けたんで

 すね。』

『申し訳ない・・・

 遅くなりました。』

勘太郎が電話をかけている間に、数人の刑事が荒木田の東京事務所に向かっている。

荒木田東京事務所付近に、ヘイト団体メンバーがいないことを確認して、荒木田の身柄の安全を確保する体制に入った。

荒木田の周りを数人の刑事が取り囲むように外出して警察庁に向かうと荒木田もようやく落ち着いた。

警察庁広域捜査室の応接室では、勘太郎、森川警部、鶴薗警部補、新藤幸太郎、小室刑事に京都府警察の佐武鑑識副課長と小林警部補が待ち構えている。

荒木田にしてみれば、これ以上安心な場所はない。

『ホントは、逮捕されて安全

 になろうかと考えたんです

 よね。

 でも、それじゃ、すぐに釈

 放される可能性がないとは

 言えない。

 だから、こんなまどろっこ

 しいやり方になってしまい

 ました。

 それで僕がお願いした物は

 ありましたか。』

荒木田は事務所に来た刑事に、持ち出したい物のリストを渡していた。

『荒木田佐内だな。

 本村志織さん・西牟田三次

 さん殺害事件の重要参考人

 としてご同行お願いし

 ます。』

『わかりました。

 けど、僕は犯人じゃありま

 せんよ。』

『みんなそう言うんですよね、

 みんな。』

お決まりのやり取りを演技しながら、荒木田が、勘太郎に提出したい証拠品のメモを刑事に渡していた。

荒木田は、取材事務所にパーティションで仕切りをして簡易ベッドで寝泊まりしていた。

その居住空間にまで刑事に入らせて、証拠品を持ち出させた。

勘太郎とは打ち合わせも何もないのに、考えが理解できていた。

京都祇園の乙女座で、荒木田は、勘太郎宛に証拠写真を添えて、手紙を書いて糸魚川を通じて渡していたのだ。

勘太郎の電話は、作戦を開始する合図だった。

後は、荒木田のアドリブである。

『なかなか面白い作戦で、い

 い演技だったよ。』

勘太郎は、笑っている。

『もし、手紙を読んでもらえ

 てなかったら。

 そう思って不安になりまし

 たよ。』

荒木田が肩をすくめながら言った。

そうこうするうちにも警視庁の段ボール箱が運ばれてくる。

警察庁の留置場の監視員室に荒木田の生活用品を運び込んでいる。

警視庁と違って、容疑者を泊めることの少ない警察庁の留置場は、部屋数も少なく、守り易い。

後は、24時間体制で荒木田を監視している演技が始まる。

荒木田は監視員室と留置場の1室を借りて、プレゼン資料の準備をしていた。

荒木田を収容したフロアーは、留置場として、風呂場もあり、監視員室にはトイレもある。

簡単なキッチンもあるので、完全に隔離しても買い物の代行さえできれば生活には困らない。

そこで、完全隔離して。

フロアーには、エレベーターも止まらないようにして、非常階段の扉にも施錠した。

荒木田のいる生活空間だけ、完全隔離の完全密室化してしまった。

荒木田の身辺警護に当たる刑事も、森川警部直属の精鋭ばかりを選んだ。

ヘイト団体では、手も足も出せない。

警視庁捜査1課の発表では、あくまでも自殺の恐れがあることにしているが。

荒木田が無実だと知っている団体では、近く釈放されると思っているはずだ。

『荒木田の無実を証明する証

 拠品を必死で探しているこ

 とでしょうよ。

 荒木田に罪を被せることだ

 けを狙っていた奴らや。

 荒木田の無実を示す証拠品

 は処分したと思っているや

 ろうなぁ。

 それを今さら、探さなあか

 んようになって慌てとるや

 ろうなぁ。』

小林は、呆気にとられている。

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