第10話 意外

篠塚亮子・・・

28歳、美人で物腰が柔らかいので、警視庁捜査1課の人気者である。

最近は、新藤幸太郎に近づいていた。

それが、新藤が小室を連れて出張しても動かなかったのに、鶴薗が出張すると動いた。

もちろん、鶴薗のデスクだけでなく。

幸太郎のデスクも小室のデスクにも雑巾をかけている。

幸太郎と小室のデスクに比べると、鶴薗のデスクだけ異様に丁寧に。

さすがに森川は不審に思った。

しかし、男と女のデリケートな問題に巻き込まれないように静観することにしていた。

しかし、その事無かれが幸いした。

勘太郎は、鶴薗と幸太郎と小室と共に、秘密裏に東京に帰った。

今回は、佐武と小林もいっしょに。

鶴薗からの定時連絡で勘太郎一行が警察庁広域捜査室に入ったことを知って、森川警部が警察庁にやって来た。

『篠塚亮子は、京都のヘイト

 団体の幹部です。

 本村代議士は、ヘイト反対

 の最先鋒。

 本村志織は、父親のとばっ

 ちりを受けたんでしょう。

 西牟田三次は、京都のヘイ

 ト団体本部をパパラッチし

 ていた。』

勘太郎の言葉に一同驚愕した。

テーブルに数枚の写真を並べて勘太郎は話しを続けた。

勘太郎は、西牟田の撮影写真に何度も何度でも篠塚亮子が写り込んでいることを不審に思い、篠塚亮子を調べて驚いたという。

京都のヘイト団体の本部に入って行く写真や東京支部に入って行く写真が山ほどある。

そこで、出入りするメンバーらしき人に確認した。

『今、入った女性。

 警察の方ですよね。

 何か探りに来たんでしょ

 うか。』

篠塚亮子が警視庁にいることをあえてばらすことで、メンバーは勘太郎を仲間と勘違いした。

『何を言うてるの。

 あの方は、支部長の秘書や

 んか。

 反対に、警視庁に潜り込ん

 で警察の動きを探ってはる

 んやと思うよ。

 それより、あんた。

 ヘタなこと言うてたら、起

 こられるで。

 気ぃつけや。』

ご丁寧に、勘太郎の身の安全まで心配してくれた。

『幸太郎に近づいたんは、幸

 太郎は俺といっしょに遊ぶ

 ことがあるさかい。

 警察庁の動きが少しでもわ

 からんかという程度やろう。

 鶴薗さんは、俺の密命でも

 受けていると思われたんで

 しょう。』

そこまで聞くと、森川以下警視庁捜査1課のメンバーは激昂した。

しかし、勘太郎は、それをなだめた。

『なぜですか警視正。

 あの女、つまりはスパイで

 すよね。

 許せません。』

鶴薗と幸太郎は怒り狂っている。

『気持ちは、わかりますが、

 今は少し落ち着いて。

 敵の目的も全体像も掴めて

 ません。

 本村代議士が、何かを隠し

 てはるうちは、本村志織さ

 んの殺害動機がわかりま

 せん。

 それがわからんことには、

 西牟田三次の殺害につなが

 らへんのです。

 そやから、今は辛抱して下

 さい。』

一行は、ここまで話してようやく勘太郎の落ち着きを理解した。

勘太郎は、篠塚亮子の単独犯行などとは思っていない。

また、ヘイト団体がこぞっての犯行とも思ってはいない。

いかなる理由をつけようが、殺人が正当化されないことくらいヘイト団体でも知っている。

なぜ幹部の篠塚亮子が動いたのか。

荒木田佐内は、団体とは関係がない。

なぜ荒木田の指紋が西牟田三次のカメラに。

まだ謎がいくつもある。

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