第8話 源平合戦の地
東大路通りから五条通りで左折して国道1号線の坂を追い越し車線で登っていくタクシー。
東山トンネルを抜けると右手にホテルが見えてくる。
そのホテル前を通過してすぐの信号付三叉路を右折。
『どうなっとんねん。
あいつのヤサは、山科ちゃ
うんか。』
小林の予想は、山科だったようだ。
山科には、フリーライターなどという職業の連中が隠れ家に使うには都合の良い建物が、実に多い。
タクシーの動きも山科に向かっていた。
タクシーは、清水焼団地を通り抜けて南下している。
『盲点突いて、醍醐か六地蔵
かもな。』
木田がため息をつきながら言った時、タクシーが阪神高速伏見トンネル山科出口の交差点を左折した。
『大石神社にも行かんかぁ。
いよいよ醍醐六地蔵の線に
なってきたなぁ。』
阪神高速伏見トンネル山科出口からの道は、かなり幅広くてスピードが出る。
もちろん、高速道路ではないので、速度制限は50キロだが。
取り締まりをする場所も、覆面パトカーが隠れている場所も、いつも同じなので、知っている連中は飛ばす。
あっという間に、山科区役所の前に到達してしまった。
タクシーは止まらず、京都外環状道路の交差点を右折。
『山科説は消えたな。』
木田が楽しそうに言った時。
タクシーが、道路沿いの店の駐車場に入った。
隠密部隊が、尾行車でGPS発信器の磁石のスイッチを切ったのだろう。
画面に追跡中止の文字が出て、隠密部隊から無線連絡がきた。
『対象者・・・
ラーメン横綱に入りま
した。
しばらく待機します。』
まさか、ラーメンのためにわざわざ祇園から醍醐までタクシーで行けるほどの収入があるとも思えない。
勘太郎達も、隠密部隊からの次の連絡までのんびりすることにできる。
『餃子、運ばれてきました。
ピリ辛餃子の方ですねぇ。
2人前です。
ビンビールもきました。』
小室がクスクス笑っている。
『さすが関西ですねぇ。
状況レポートまで面白いん
ですねぇ。』
そんなわけではない。
単に、隠密部隊の無線係のシャレだった。
『ラーメンきました。
大盛りです。』
小室は、ついに笑い転げてしまった。
『ここで、食って飲んで。
それから横綱の大盛りと餃
子2人前かい。
どんだけ大食いやねん。』
佐武が、目を白黒させている。
荒木田は、乙女座で普通に食事をしていた。
横綱ラーメンは、普通サイズでもけっこう大きい。
しかも、豚骨醤油の濃厚スープ。
食の細い女性なら、普通サイズでも、かなりお腹いっぱいになるだろう。
乙女座で1人前のセット料理を完食して。
ラーメン大盛りは、とてつもない大食漢である。
そのせいかどうかは判断が難しいが。
やはり、相当の時間を費やして、小一時間してようやく完食して何やら電話をかけ始めた。
読唇術を得意とする隊員が、荒木田の唇の動きを読んで。
『報告します。
タクシーを呼んでます。
先程と同じタクシー会社
です。』
佐武の了解の声を待たずに、隠密部隊が動いた。
タクシーが到着してしまったのだ。
さすがに、荒木田もあわてて立ち上がって会計に向かった。
運転手が会計に、荒木田の呼び出しを頼んでいる間の一瞬の隙をついてまたまたタクシーのリアバンパーにGPS発信器が放り込まれ、追跡が始まった。
すぐ近くの駅で客待ちをしていたようだ。
ラーメン横綱を出たタクシーは、全員の予想を裏切って外環状道路を南下して六地蔵交差点を左折してしまった。
『いくらなんでも、市外の予
想はできひんなぁ。』
本間が首をかしげた。
『荒木田の得意分野。
自衛隊ですか。』
小林が手を打った。
『いや。
宇治まで行く。
荒木田は、元々歴史雑誌の
ルポライターや。』
皆一斉に勘太郎を見た。
『いつもながら、いつの間に
か調べとるなぁ。
コバ、早うこのレベルに
なれ。』
木田は、唸ったが。
小林には、とばっちりだ。
タクシーは、勘太郎の予想通り黄檗駅前を通過して宇治方面に向かっている。
『宇治橋渡るか渡らへんか。
もう、わけわからへん。』
小林がボヤいた。
『たぶん渡らへん。
旅番組のロケは大概宇治橋
東詰から始まる。』
勘太郎の予想でしかない。
勘太郎は、萌が出演した旅番組のロケに荒木田が来ていたことを思い出していた。
荒木田を乗せたタクシーは、勘太郎の予想的中で三室戸寺近くのアパートで止まった。
隠密部隊から報告が入ってくる。
『対象者・・・
アパートの2階に上がるよ
ぅです。
アパートは仁科荘という看
板で、2階建。
1階2階とも5部屋。
対象者、1番左側の部屋に
入りました。』
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