第6話 東京在住

指紋の主は、なかなかわからない。

全日本警察官剣道大会は、木田の優勝で終わった。

表彰式が終わって、警察庁の勘太郎の執務室に戻った木田。

『なんちゅう贅沢な部屋や。

 ぜんぜんお前らしくないや

 んけ。』

勘太郎は、しばしば徹夜になることがあるので、ある程度の快適さは、追求して部屋を作ったが、どうしても執務室としては。

部屋には、勘太郎と木田に森川警部と鶴薗警部補に加えて新藤幸太郎に小室刑事まで参加していた。

そこへ、京都の佐武から電話。

『勘太郎・・・

 西牟田のカメラに付着して

 た指紋な。

 荒木田左内って奴や。』

そこまで聞いて、小室刑事が手帳を探し始めた。

『あったあった・・・

 ありました。

 報告します・・・

 荒木田左内は、京都出身の

 フリーカメラマンです。

 現在は、東京の大田市在住

 です。

 主に、本村志織さんのパパ

 ラッチ写真を撮っていたよ

 うです。

 本村志織さんや西牟田三次

 さんとの接点は、今のとこ

 ろわかってません。』

当たり前である。

荒木田には、それぞれアリバイがあった。

それ以上は、いかに警察官と言えども、そう簡単には調べられない。

こうなると、祝賀会どころではなくなるのが警察官。

『アリバイがあった荒木田の

 指紋がなんで西牟田のカメ

 ラに着いてんねん。

 京都出身って、京都のど

 こや。』

様々な疑問が湧いてくる。

『本村志織の事件と西牟田三

 次の事件、それにキーマン

 の荒木田左内か。

 まったく無関係とは思えま

 せんね。

 森川警部と木田警部の連名

 になりますけど。

 これ、書きますか。』

勘太郎が、2人の前に1枚の紙を差し出した。

『広域捜査室開設申請書』』

という表記。

これを出しておけば、お互いに捜査に入る時に断りを入れる必要がなくなる。

つまり、警視庁の刑事が、京都で、京都府警察の刑事が東京で、捜査ができるということになる。

本村志織殺人事件と西牟田三次殺人事件の2件についてのみになるが、情報共有化や連携が楽になる。

広域捜査室の室長は、とりあえず鶴薗警部補を指名。

『なぜですか。

 なぜ僕がそんな大役を。

 京都の警部補さんは。』

鶴薗警部補は、出世欲だとか功名心だとかが元々薄い。

命令を坦々とこなすことは素晴らしい力を発揮するのだが。

その辺りが、森川の悩みであった。

『残念ですが。

 京都の警部補は、まだ就任

 して1ヵ月の小林です。

 経験不足もいいとこです

 ので。』

勘太郎が、ようやく気付いたように。

『なんと、そうですね。

 小林が警部補なんですね。

 経験不足どころか、まだ階

 級章が金ピカですやん。

 挨拶周りもまだ終わってへ

 んでしょう。

 ここは、やっぱり鶴薗さん

 に一肌脱いでもらわんと

 ねぇ。』

それでもまだ固辞したい鶴薗。

『ならば、いっそ私から命令

 でも発令しましょうが。』

勘太郎以下、全員があわてて立ち上がり直立不動姿勢をとったので、小室は、わけもわからずに、しゃっちょこばるしかなかった。

勘太郎の号令。

『真鍋勘一刑事局長に敬礼。』

小室は、さすがに青ざめた。

日本の警察官全員のトップである。

本来なら、小室どころか新藤でも顔を見られることはないほど雲の上の存在。

そんな人物がいきなり現れる会議に自分がいることが信じられない。

『新藤先輩・・・

 何なんですか・・・

 刑事局長が気軽に現れる。

 そんな無茶苦茶な。』

小室は、思わずひそひそ話で幸太郎に質問せずにはいられなかった。

『たしかに、本来ならあり得

 ないだろうな。

 勘太郎先輩に、ついていく

 ようになると、当たり前に

 なるよ。

 なんせ、勘太郎先輩は刑事

 局長の息子だからな。』

小室は、変に納得してしまった。

真鍋勘一刑事局長が、電話の受話器を上げて、何やら電話をかけている。

『よぉ・・・

 久し振りやなぁ・・・

 京都の西牟田三次殺人事件

 と警視庁の本村志織殺人事

 件にな・・・

 共通点が出たんは、知って

 るか。

 さすがサブちゃんや。

 たった今、勘太郎の提案

 で、木田君と森川君がタッ

 グを組んだ。

 とりあえずは、鶴薗警部補

 に室長やらせる。

 それでえぇな。』

相手は、京都府警察本部刑事部長の本間である。

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