第5話 広域捜査

『鶴薗警部補は、おられま

 すか。

 明日は、お手柔らかに。

 少し、道場の端をお借りで

 きますか。』

翌日、全日本警察官剣道大会が日本武道館で行われるので、各県代表選手が東京に集まっていた。

京都代表は、13年連続で木田が努めている。

そして只今、12連覇中。

今年、13連覇に挑む。

東京の代表は、初出場の鶴薗警部補で、最初から勝てるとは思っていなかった。

他府県の代表達も、練習のために、道場を借りに来ている。

木田が鶴薗と現れると、皆一様に手を止めて、2人の素振りを見学した。

木田が鶴薗を道場に連れ込んだと聞いて、警視庁剣道クラブのメンバーが集まってきた。

もちろん、捜査1課のメンバーも集まっている。

2人が素振りを終えて、対峙して蹲踞したとたん、道場がざわめいた。

『すげぇ・・・。』

『あんな化け物に勝てるわけない。』

等々、呻き声になってしまった。

それほど木田の実力が飛び抜けていた。

誰もが、練習相手することすら怖がる始末。

『あはは・・・

 皆さん、お気になさらない

 で下さい。

 いつものことですので。』

木田は、もう慣れっこになってしまっている。

どこに行っても、打ち合い稽古は、できなくなっていた。

『今のところ、私の打ち合い

 稽古の相手をしてくれる

 のは、彼くらいのもんです

 ので。』

木田が指差した先に勘太郎がいた。

『先輩、お待たせしました。』

勘太郎は軽く挨拶して、木田と鶴薗を挟んで、3人並んで素振りを始めた。

『鶴薗さん・・・

 警視庁代表としては、1回

 戦敗退は避けてもらいたい

 ですなぁ。』

木田の言葉に頑張って応えようとしていた鶴薗が、5分ももたずに崩れ落ちた。

『木田さんが凄いのは、最初

 からわかってましたので、

 なんとか耐えることもでき

 ましたが。

 警視正があれほどとは。』

そう言って、目をつむってしまった。

やがて、2人が対峙して蹲踞すると、道場が凍りついてしまった。

『真鍋警視正って射撃の名手

 のはずだよなぁ・・・。』

『だよな・・・

 射撃競技ならオリンピック

 の金メダルなんだし。

 世界一だろう。

 しかし、剣まであんな。

 一時期だったとはいえ、あ

 んな化け物が京都に揃って

 いたなんて、恐ろしい。』

あちらこちらから聞こえてくる。

木田と勘太郎が、蹲踞を終えて互いに正眼の構えになると。

『キャア・・・

 お2人ともきれい。

 なんて美しいんでしょう。』

女性達が声を上げた。

しかし、正眼の構えは、あくまでも戦闘準備の構え。

2人の気合いの声と共に打ち合いが始まると、綺麗なんぞと甘いことは、言えなくなってしまった。

あまりに速く、あまりに激しく、あまりに強く、竹刀の音が道場に響き渡る。

他府県の代表選手達は、あっけにとられている。

ひとしきり打ち合い、

2人で、街に出て行ってしまった。

『実はなぁ・・・

 西牟田のカメラから。

 西牟田のと違う指紋が、

 出たんや。

 指紋の主が誰かは、今もサ

 ブちゃんが探してくる

 とる。』

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