第3話 東京なのに

『先生・・・

 警察庁の真鍋です。

 先生のお嬢さん、たしか志

 織さんでしたね。

 今、どちらに。』

森川には、嫌な予感がしはじめていた。

『なんですって・・・

 先程、千代田区の神田明神

 さんの境内で、お嬢さんの

 運転免許証を持った若い女

 性の、ご遺体が発見されま

 して・・・

 万が一と思いまして。

 ご連絡を。

 ハイ・・・

 お願いします。』

そう言って、森川警部に。

『本村志織さんの、お父様と

 思われる方に、確認をお願

 いしました。

 できればご遺体を、本

 庁に。』

勘太郎の様子から、嫌な予感が当たったことを悟った森川は、鑑識に、被害者を、警視庁に運ぶ指示をした。

『真鍋警視正・・・

 被害者のお父様は、かなり

 の大物ですね。』

さすがに森川、ピンときている。

『自民党の京都選出の衆議院

 議員。

 本村佐一郎先生です。』

次の内閣は、確実と言われる大物議員である。

『新藤と小室は、この場に残

 って警視正のお手伝を。

 鑑識さんは、引き続き作業

 お願いします。

 捜査1課は、本庁に帰還

 する。』

『真鍋警視正・・・

 申し訳ありません。

 現場の指示、管理、お願い

 します。』

勘太郎、もちろんそのつもりだった。

下手にこれ以上、首を突っ込むと、また京都に行くことになりかねないと思っていた。

本村志織の住所は、京都神田明神の前である。

できれば平将門の怨霊に、責任を押し付けてしまいたい。

ましてや、大物政治家の絡んだ事件など、ややこしくて邪魔くさいことこの上ない。

森川警部の嫌な予感も、勘太郎のややこしくて邪魔くさいことこの上ないというものと同じであった。

しかし、勘太郎と森川警部の思いむなしく、被害者は本村佐一郎の長女、志織であった。

警視庁の霊安室フロアの待合所では、警視庁長官・刑事局長・森川捜査1課長らが並んでいる。

本村志織の遺体確認には、鶴薗警部補が案内した。

当然のことで、いかに大物政治家であっても、人の親。

手塩にかけて育てた愛娘を殺されたのである。

半狂乱になって当然。

とはいえ、さすがに本村佐一郎は超一流の政治家であった。

最初5分ほど泣き叫んでいたが、すっと立ち上がるとスタスタと待合所に歩いて。

真鍋勘一刑事局長の手を握った。

『今回は、ご子息にお世話に

 なりました。

 くれぐれも早い犯人検挙を

 お願いします。

 そのためには、協力は惜し

 みません。』

愛娘の遺体確認の場であっても、マスコミの目は意識にあるようだった。

一方、勘太郎は現場での指示を終え萌との待ち合わせ場所に向かっていた。

金魚の糞が着いているが。

『新藤先輩・・・

 真鍋警視正の奥さんって、

 そんなに美人なんですか。』

幸太郎は、萌に会えるとワクワクしている。

そこで、小室に美人だ綺麗だと言っていた。

『おぅ。

 凄い美人だぞ。』

勘太郎の金魚の糞は2人だが。

萌は、人だかりになっていた。

危険ということで、交通整理の警察官が出ている。

新藤と小室も気がついていなかったが。

3人の後ろに鑑識警官隊と事件現場警官隊がついてきていた。

『万丗橋署の皆さん。

 お疲れ様です。

 人混みの原因、引き取りま

 すので。

 申し訳ありませんでした。』

勘太郎が交通整理の警察官に挨拶していると、白いトヨタセルシオが横に止まって。

運転手が飛び下りて。

直立不動姿勢で、敬礼。

『お迎えにきました。

 真鍋警視正・・・。

 奥様も、マネージャーさん

 もどうぞ・・・。

 新藤刑事・小室刑事・鑑識

 警官隊の皆さん、現場警官

 隊の皆さん、警視庁ワゴン

 車を連れてきてますのでど

 うぞ。

 警視庁捜査1課長、森川警

 部からのご依頼です。』

もう慣れたもので、萌のマネージャーが後部座席のドアを開けた。

乗り込む萌を見て、小室は、ひっくり返りそうになった。

『し・し・新藤先輩・・・

 高島萌ですよ。

 まさか、真鍋警視正の奥さ

 んって。』

車に乗り込む時に立ち止まった萌が3人を見て。

『あら・・・

 幸太郎君、お久し振り。

 また、家の勘太郎が面倒か

 けたのかしら。』

万丗橋警察署の交通警官隊は、警視正と聞いて、飛び上がって、ガチガチに固まって気お付けの姿勢で、最敬礼してしまった。

警官隊の様子を見て、人だかりの野次馬も、ただ事ではないと感付いた。

野次馬が騒ぎ出したので。

勘太郎はセルシオに乗り込むことにした。

『この方は、真鍋警視正。

 高島萌さんのご主人です。

 先程、この先で起こった殺

 人現場の捜査に立ち会って

 下さってました。

 高島萌さんは、完全なプラ

 イベートです。』

幸太郎の説明で、万丗橋警察署の交通警官隊は納得したが、野次馬は、まだ騒いでいる。

『あんな若僧に。

 あんたら情けない。』

『皆さん。

 日本の警察は、階級でガチ

 ガチです。

 上から、警視総監・警視監・

 警視長・警視正となってお

 ります。

 あの方は日本の警察官28

 万人のトップ4のお1人

 です。

 しかも、昨年までの3年間

 、連続で検挙率100%を

 誇った日本一の敏腕刑事や

 ったお方です。

 我々には、雲の上のスーパ

 ースターです。』

そこまで聞いて、さすがに野次馬も静かになった。

ただ、鋭い目付きでメモを取る写真週刊誌の記者が数人。

『記事にできそうか。

 うちは、難しそうだけど。

 ツーショットでも撮れてた

 ら良かった。

 お巡りさん。

 お2人の写真撮影会お願い

 しますよ。』

『バカなこと言わないで下

 さい。

 雲の上の人って言ったでし

 ょう。

 しかも、高島さんは、警察

 の人間ではありません。』

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