第24話 着 サーマル
無事サーマルに着いた。
途中でいくつかの魔物に出くわしたが、難なく殺した。身体的問題は発生していない。
精神的には疲労困憊だ。寝不足、慣れない環境、罪悪感。様々なものが俺をむしばんでいく。
ユイも出た時から顔つきが変わっているような気がする。なんか、殺人犯みたいなギラギラした目をしている。
ああ、なんか、あの弱かったユイはどこに行ってしまったのだろう。
数日前までは虫で泣き叫んでいたのに、今では内臓を踏みつぶしている。
環境が人を変えるというのはこのことだろうな。
東の町サーマルは中規模の町で主に商業で栄えていた。アルネーから輸入される品を城へと持ち運んでいく際の中継地点となる場所だ。
だが、アルネー陥落後は遠くに疎開する人も少なくはなかった。ただ、この世界で移動するというのは命がけの行為であるので残った人も多い。
町の周りは石造りの高い壁で囲まれている。だが、ところどころ崩れているところがある。多分、魔物がやったのだろう。
あんな力のある魔物に殴られたら俺たちでも死ぬのだろうか。
そう思うと不安が募るばかりだ。
「作戦はどうする?」
俺はスレイヤに尋ねる。
「作戦?正面突破でしょう」
「は?」
俺は怪訝そうな顔をする。
正面突破って一番危険じゃないか。
いや考え直せ。もしかしたら何か作戦があって正面突破と言っているのかもしれない。
下の何かを崩して一網打尽にするとか。何かは知らんけど。
「それで?」
「敵を倒す」
「どうやって?」
「剣で」
スレイヤはにやりと笑う。
まてぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!!
何なんだよ。無策じゃねえか!
しかも、どや顔してんじゃね。
何、拳で抵抗する21歳みたいな感じで言ってんだ。
こっちは、まだ17歳だ。
井上喜久子だ。バカ野郎!!!!
「さあ、それでいきましょう」
ユイが突っ走っていく。それに続いてスレイヤも走る。
ちょっと待てぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇ!!!
俺はすぐさまスレイヤに追いついて、反論する。
「大勢に囲まれたらどうするの」
「魔法で」
ああああ、しばきたくなってきた。
「大体作戦もなしにとっぱできると思ってんのか!」
スレイヤは不思議そうなに僕とユイの顔を見る。
「だって勇者様なのでしょ?」
いや確かに勇者だと思うけど。なんかいろいろな能力持っているけど。
使いこなせてる感じがあんまないんだよなぁ。
勝手に発動してる感じだし、急に出なくなったりとかしたら死ぬじゃん。
そんな思いとは裏腹にスレイヤは話を続ける。
「大丈夫です。あの凶悪な魔王を打ち滅ぼすとされているのです。魔王以外は全員雑魚みたいなものです。それにこんなところで手こずっていては魔王討伐なんて夢のまた夢です」
確かにそうかもしれないけど、後期開花型の勇者かもしれないじゃん。
そんな反論は一切受け付けてくれそうにないし、門まで後百メーターくらいしかないし、もう若干の敵がこちらに気づき始めている。
仕方がないやるしかない。こうなったら日本男児の意地を見せつけてやる。
大丈夫、二百年前まで刀持って歩いていた民族の末裔なんだ。
門まで五十メーターを切ったところでユイは突然止まり、右手を門の方に向け何かぶつぶつ言い始めた。俺はそれに気を取られて足を止めてしまう。
スレイヤは気にせずに走り続けている。
「我が名はユイ・インフェルノ・ブラッドフォールン・小鳥遊。神々よ。我が魔の力を解き放ち、幾億もの奇跡を我が右手に集約せよ。
いけ!!!
シャイニング・サイヤ・エクシティブマキナ!!!!!!」
ユイの右手から光の球が高速で射出され、スレイヤの右を通り過ぎ、門に直撃。すると巨大な扉は吹き飛び、周りの壁も瓦解する。門番をしていた魔物なども巻き込んでいく。
ユイは何も言わずに走り出す。
俺は呆れて何もいうことができずに佇んでいる。
なあ、お前。いつミドルネームかんがえたんだよ。
なろうケイ red-panda @red-panda
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