第21話 現状

 玉座にいって王様に状況を尋ねる。


「東の町サーマルは三日ほどで行ける距離だと聞いています。いくら何でも城から近すぎませんか?魔の手はいったいどこまで来ているんですか?今の状況はいったいどうなっているんですか?」


 俺は王様を問い詰める。


「状況か・・・・・・」


 王様は遠くのほうを見つめる。

 そして、話始める。


 「半年前、アルネー公国首都ケンブルが魔物の出現によって壊滅、占領された。なぜ出現したのかなどの詳細な情報は一切わからない。ただ、圧倒的戦力で一日も持たなかったらしい。

 アルネー公国を囲む、ライヤー帝国、マロッシュ聖皇国、そして我が国、オリマー王国が兵を出し合って、三国合同軍事作戦アーレース作戦が実行された。

 三方向からの同時作戦。

 各国、最低限の自衛するための兵力以外を投入した。

 これでとりあえず、アルネーの奪還には成功するはずだったのだ。

 一か月あれば終わるはずだったのだ。

 兵力ではこちらに有利があった。

 だが、予想以上に魔物の数が多かった。

 戦線は停滞し、兵は疲弊していき長期戦を余儀なくされた

 これだけだよ」


 王様の目は絶望していた。


「なんで、そんな単純な作戦にしたんだ?大体戦力もわからない相手に力押しは愚策としか考えられない」


 これぐらいなら俺でも考えれる。

 だから、一国の王がとる行動とは思えなかった。

 王様はゆっくりと話し始めた。


「魔物の出現率から算出した数の十倍の兵力を出した。その中にはガンゼフにも負けず劣らずのものもいた。

 だが、それを上回る魔物の数だった。

 多分、四国すべての魔物を合わせても、あそこまでの数になりえるとは思えない。

 それに魔物は首都ケンベルを一番最初に落としたという。

 どうやってやったかは見当もつかない。

 それだけの大軍を気づかれずに首都ケンベルまで移動できるはずがないのだ!!

 私は不意打ちで運悪く占領されたものだと思っていたんだ!!」



 王様は柄にもなく声を上げる。それはユイを問い詰めた時のように威厳のあるものではなかった。

 王様だって人なんだ。

 俺は雰囲気だけで人じゃない何か別の者なのだと思っていた。



「ほんとにほかの三国も兵力を割いたのか?裏切りとかはないのか?」

 

 俺は突っ込んだことを聞いた。

 何もわからない俺だけど。


「そんなことはない。作物が豊かに撮れるアルネー王国の領土がもらえるんだ。これほどおいしい話はない」


「おいしいって…・・・」


 ユイは軽蔑の眼差しを向ける。

 たしかに自国の利益ばかりを考え、被害のことなどを考えていない発言は軽蔑するにあたる。

 だが、自国を守らない王は王としては最低だ。

 それに、これで他の二国が裏切っていないことが証明された。

 



「私にはもう勇者に頼るほかにないんだ」




 震えた声が聞こえる。

 恐怖。

 不安。

 責任。

 命。

 すべてが伸し掛かってきて押し潰れそうなのだろう。

 だが、逃げられない。

 逃げちゃいけない立場なのだ。

 それに耐えていたのだろう。



「なんですぐに魔王を討伐に行かせなかったんだ?なんで、俺とユイに一週間の猶予があったんだ?なんでユイに勇者の使命を押し付けなかったんだ?」


 それが不思議だった。

 俺たちには短いけれど猶予があった。そのおかげて少しはこの世界になじめたと思う。ほんの少しだけだけど。

 そして、ユイに問うた。

 勇者として使命を全うするのかと。

 ここで拒絶していたらどうしていたのだろう。

 




「勇者だからって何でもできるわけじゃないと私は思っている。勇者だって人だ。神のような力を持っていようが人であることには変わりない。

 それに勇者が魔王になったという伝承も残っている。

 魔王と勇者は相反するものだがコインの裏表のように切り離せない存在だと考えたのだ。魔王と勇者は本質的な部分では同じなのではないかと。

 だから、私は見極める必要があった。

 この者たちは本当に勇者なのか。

 世界を託すべき存在なのか。」



 王様はまっすぐした眼差しをこちらに向ける。



「助けてくれ。勇者。魔物が襲ってきた日から寝れないんだ。頼む」


 王様は頭を下げる。

 一国の王のつむじが見れる日が来るとは思わなかった。


「わかった」


 俺は短く答えてドアのほうへと歩きだす。

 ユイは突然歩きだした俺を慌てて追いかける。

 かっこいいな、俺。

 ナルシスト全開だ。

 そして、ドアを開けた時に王様に話しかける。


「ドアこげてるのって俺が魔法暴発させただけで、魔物来てないから」


 そのまま外に出る。


「えっ!!」


 ドア越しに王様の驚いた声が聞こえる。

 さあ、魔物退治に行かなければな。

 これは訓練じゃない。

 本当の殺し合いだ。

 生きるか死ぬかの戦いだ。

 

 


 

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