第20話 旅立ちの日に
「東の町、サーマルが魔物の手に落ちた。勇者様、どうか救援を願いたい」
王室に来ていきなり言われた。
俺とユイとスレイヤは困惑している。
待て待て待て。
きのうやっとゴブリン、一匹を殺せただけだぞ。
しかも、その日の夕食、一切のどを通らなかったんだぞ。
ユイは、バクバク食べてたけど。
うん、女って強い。
シ□ッコも認めるわけだ。
「まだ、無理ですよ。訓練を受けてから数日しかたっていないんですから。正規兵を使った方がいいですよ」
俺は何とか言い逃れしようとする。
「だが、今、動かせる兵力だとサーマルを全滅させるくらいの敵に対して勝てない。かといって、全兵力を使うことはできない。ほかの拠点をほっぽり出して兵を差し向けると次はそこに攻められるかもしれない」
いやいや、そんないっぱい魔物いるようなところを俺たちだけでどうにかで切るわけないじゃん。戦〇無双のをやってるんじゃないぞ。
「なぜ、俺たちにそんな力があると思うんですか?」
これが疑問だ。
勇者だって最初から強いわけではないのはわかっているはずだ。
レベル一からスタートなんだ。
「勇者ケイがガンゼフを吹き飛ばしたそうだな」
「ええ」
俺は返事をする。
やばい、話が変な方向に行きそうだ。
「ガンゼフは、魔物から町一個を奪還した男だ。その男が衰えたとはいえ、そこらの兵士よりは五十倍強い。詠唱のない魔法で吹き飛ばせるということは、勇者ケイは兵士百人分に相当すると考える」
兵士百人分!!
バカじゃねぇのか!!
どっかのブリタニア人だって、戦略が戦術に負けることはないって言ってたし。
「どうかお願いします!!町を一刻も早く救ってください!!」
スレイヤは俺たちに深々と頭を下げる。
俺とユイは見合わせる。
四日前の俺ならすぐに断っていただろう。
スレイヤの過去。
これを聞いてしまったからには無視できない。
俺たちに力があるのか。
勇者。
それは本当に俺たちなのか?
「ユイ」
ユイはうなずく。
「わかりました。やります」
「ありがとう」
王様は短い返事をした。だが、そこにはしっかりとした感謝の気持ちが入っていた。
俺とユイとスレイヤは玉座を出た。
「すいません、無理を言ってしまって」
スレイヤは俺たちに謝ってきた。
「別に謝ることなんてないよ」
「謝らなくていいよ。で、俺たちで勝てそうなの?」
正直気になるところだ。
魔物とは二回しか戦闘したことがない。
しかもゴブリンという弱い魔物だけだ。
「ガンゼフ様を吹き飛ばしたというのであれば、間違いなく勝てます」
スレイヤは自信を持って言う。
あのオッサンってそんなにすごい人なの?
某やっちゃいました主人公と同じことしてるんじゃね?
最悪だ。
「まあ、勝てるんだったら問題ない」
そう思いたい。
旅支度を始める。
でっかいリュックサックが二つある。
これが旅行とかだったらいいのに。
秋葉とかだったらなぁ。
現実逃避をしている。
「スレイヤ、何を準備すればいい?」
旅なんてしたことがないのでスレイヤに聞く。
「サーマルは歩いて三日くらいなので、テントと食料、飲み物くらいでしょうか」
「三日!?なんでそんなに近いの?」
おかしい城からこんなに近いところが襲撃されるなんて!!
普通は末端の村や町が襲われていくだろう。
だが、三日という距離は近すぎる。
ここを攻められてもおかしくないじゃないか!!
「それは・・・・・・国王から説明があると思います」
「わかった」
とりあえず旅支度の準備を優先する。
まずは、食料を取りに行く。
こういうのはメイドの仕事だと思っていた。
それを遠回しに聞いてみると、自分で準備した方が何が入っているのか体感的にわかるからということだ。勘違いで入ってなかったとかだったら致命的になる。
干し肉をもらいリュックサックに詰める。
ほかにもテントやら飲み物やらを集める。
「これで一通りはそろった」
「そうだね」
なんか一仕事終えた感じだ。
「これであとは、追加の武器を入れるか、荷物を軽くして体力の消耗を抑えるか。色いろいろあります」
「そうだな」
「軽くするわ」
多分、異世界転生特典で体力は大幅アップしているだろう。だが、なんとなく信用できない。
「やくそういっぱいで宝箱開けられなくなったら嫌だし」
俺は冗談を言う。
「ふふふふ」
「?」
ユイは笑ってくれた。スレイヤは全然わかっていないようだ。
「モンスターも全部鳥山明デザインいいのに」
「それはそれで、倒せないだろ?」
「ふふふふ、確かに」
冗談を言い合って気を紛らわす。
不安な心をごまかす。
「これで準備万端だ」
「ちょっと待って」
ユイに何か意見があるようだ。
「お菓子とか非常食として入れといた方がよくない。あと、スマホもなんかに役に立つかもしれない」
確かに。
スマホは初日の時点で電源を落としてある。これで、何日持つかは分からない。それにアニメで携帯電話を使って敵にはったりをしているシーンがあった。それに使えるかもしれない。
お菓子は干し肉よりもカロリーが高いので、非常食としてはもってこいだろう。
だが、そんなことよりも旅の疲れを癒すということにも使える。
気力の回復というものも大切だと思う。
「そうだな」
俺たちの部屋に向かう。
焼け焦げたドアを開ける。
通学用カバンを取り出す。
お菓子やら筆記用具やらが入っている。
懐かしい。
まだ、異世界に来て一週間と立っていない。
遠い昔のように思える。
お菓子とスマホを取り出しカバンの中に入れる。
スレイヤは興味深そうに見ている。
「興味ある?」
俺は尋ねた。
「はい。その鉄の箱のようなものは何なのですか?」
スマホのことを言っているようだ。
「これはスマートフォンと言って、遠くにいる人と会話ができたりするものだよ」
俺はすごく端的に言う。
「すごい!!これなら偵察に役に立ちますね!!」
「まあ、今は使えないんだけど」
「そうなのですか」
スレイヤは少し残念そうだ。
そんな会話をしている間に準備が終わる。
あとは王様のところに行って状況を聞こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます