第17話 仲間、ゲットだぜ

 城に帰ると、俺とユイは玉座に呼ばれた。

 ユイはあそこにいい思い出がない。なんか学校の青い部屋に呼ばれるときの感覚。説教食らうのかな。ユイの顔色はよくない。

 行ってみると玉座に座る王様がいた。 

 顔を見る限り、怒っているようには見えない。

 よくよく考えると、ユイを問い詰めた時だって怒っていたわけではない。意思を知りたかっただけ。

 

「どうだった」


 王様は短く聞いてきた。


「俺たちのいた世界とは全然違いました」


「そうか。ところで、スレイヤはどうだった」


 ?

 なぜスレイヤのことを聞くのだろう。よくわからない。

 失礼があっては困るということだろうか。


「案内をしてくれました。とてもよくしてくれました」


 それっぽいことを言っておく。とりあえず、スレイヤの不利になるようなことなんて言いたくない。よくしてくれたのは本当だし。


「スレイヤを魔王討伐のパーティに入れるのはどうか?」


 王様は提案してきた。


「それはありがたいです。何分、常識がわからないとトラブルも増えますし、現地の人間を仲間にしたいところです」


「勇者ユイもそれでいいか」


 王様は委縮しているユイに話しかける。

 勇者と強調したのは、この前のことを認めているということだろう。さすが、一国のトップ。人を扱うのがうまい。 


「異論はありません」


「そうか、ではそうしよう」


 えっ、決定?

 本人の意思とかは関係ないの?死ぬかもしれないよ。


「ちょっと待ってください。本人の意思を聞きたいです」


「わかった。スレイヤを呼べ!!」


 王様は、従者たちに命令する。

 従者たちは即座に行動に移す。


「ちょっと待って。俺が聞きに行く」


 王は不思議そうな顔をする。


「わざわざ、勇者殿がそこまでしなくても」


「王様の前だと本心かどうかわからない」


「わかった」


 王は納得したようだ。

 俺とユイは王室を出る。

 城の長い廊下を歩く。

 ユイは、ふっとため息をつく。その気持ちはわかる。

 あの空気感は普通に会話していても緊張する。しゃべり方が変になる。


「ユイはスレイヤが仲間だといやか?」


 俺はさらりと尋ねる。あまり、しっかり聞くと嫌味っぽく聞こえてしまう。


「いや、むしろ、スレイヤが仲間がいい。今日一日楽しかったし」


 掃除をしているスレイヤを見つける。


「スレイヤ」


 スレイヤはこちらに振り向く。


「はい、何か御用でしょうか?」


 スレイヤは、丁寧に返事をする。


「いや、あの、俺たちと一緒に旅に出ない?ほら、現地案内人としてでいいから。戦わなくてもいいから。いやだったら断ってね」


 俺はできるだけ物腰を低くして提案をする。

 いやだろうとは思う。

 でも、案内人は必要だ。

 俺たちは、スレイヤがいいと思った。


「断るなんてありえません!!私、この命を賭してでも勇者様のお役に立ちましょう。戦闘に関しては一通り訓練も受けています。この命勇者様をお守りするためなら容赦なく捨てましょう。ぜひ連れて行ってください。お願いします!!盾としてでもいいので私を連れて行ってください!!」


 俺とユイはこの意気込みに引いていた。

 異常だと思った。

 少し恐怖を感じるほどに。

 ユイも何とも言えない顔をしている。


「う、うん。わかった。でも、なんでそこまで?」


 スレイヤは真剣な眼差しを向けてきた。

 すごく悲しい目をしていた。


「私がちょうど六歳のころ村に魔物が攻めてきたのです。私はわけがわからなかったけれど、両親の言う通り目を閉じて耳をふさいでクローゼットの中に隠れました。めいいっぱい耳をふさいでいるのに叫び声が聞こえました。

 耐えられなくなった私は、クローゼットの隙間から様子を見ました。

 そこには、四肢がもげた父と母が横たわっていました。

 私は怖くて固まってしまいました。叫び声すら上げられませんでした。そのおかげで、今生きているんですが。

 そして、ぴくぴく動いている父と母の頭を大きな足が踏みつぶしました。脳みそが飛び散り私のところにも飛んできました。そのまま魔物は帰っていきました。そのあとのことは覚えていません。両親の死骸の横に吐しゃ物にまみれた私が倒れていたそうです。

 私は、この時決めたのです。魔物に復讐することを!すべての魔物を殺すことを!!」


 スレイヤは感極まって泣いていた。この世で最も悲しい顔だと思う。

 こんな人間を前に復讐は何も生まないなんて言えない。そんなことを言える奴は家族を殺されていない人間だ。理屈だけで人を見る最低な奴だと感じる。

 胸糞悪い話だ。ユイも苦い顔をしている。

 だが、所詮は人ごと。ひどい話だなと思ってもそれだけだ。

 そう、それだけなのだ。

 この時は、それをわかっていなかった。

 この悲しみの一パーセントすらもわかっていなかった。

 けれど、わかったつもりでいた。

 だからかな?柄にもなく真剣に答えてしまったのは。


「魔王、絶対倒そうね」

 

 ユイは決意を見せる。


「ああ、そうだな」

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