第12話 ねえ・・・・・・
あの後、俺たちは三十分くらい抱き合っていた。
帰りの馬車もヒールをかけまくっていた。
馬車の中の空気は最悪だった。
ガンゼフは不機嫌そうな顔をずっとしている。
城に着くとすぐに部屋へ戻る。
「ケイってすごいね」
ユイはベッドに寝転がりながら不意に話しかけてきた。
「別にすごくなんてない」
俺は格好をつけて謙遜する。堂々と椅子に座る。
俺もあんなオッサン相手に良く喧嘩売ったなと思っていたところだ。
「かっこよかった」
ユイは布団を丸めて抱き枕のようにしている。泣いた後なので目が赤くなっている。なんというか弱弱しい。その姿にドキッとする。
いやいや、こんな幼馴染にときめいてどうするんだ。
俺は平常心を保つ。
幼馴染って妹みたいで姉みたいなものだよ。付き合いが長すぎるそうとしか見れなくなる。
だから、落ち着け俺。
「何言ってんだ?俺はいつもかっこいいだろう」
冗談で返す。
「それは無いな」
「なっ」
こいつ、言い切りやがった。
少しぐらいお世辞を言ってくれてもいいじゃないの。
とりあえず、落ち着いた様子に安心する。
「ごめんね」
ユイは急に謝る。
俺は少し戸惑った。
「何がだよ」
「虫くらいで泣いちゃって」
申し訳なさそうな顔をする。
「俺も虫は嫌いだ。お前が逃げなきゃ俺が言ってた」
そう、俺も虫が苦手なのだ。
理科の教科書とか嫌いだったな。
適当にページを開くと虫がいるんだもの。最悪。
「疲れて眠くなってきちゃった。寝るね」
「ああ、お休み」
相当疲れていたのかすぐに寝息をしていた。
まだ、一時くらいだというのに。
一人でボヤっと今後のことを考える。
正直、もう無理だ。
なれない生活で疲れが取れない。それに、あまり寝れていない。
これは、ユイも同じだろう。
よく、ユイが椅子に座っていたりする。
魔王を打ち倒す。そんなことができるのだろうか。
それより、俺たちはこの世界で生きていくことができるのだろうか。
先の見えない不安。
勇者という名目がなくなったら俺たちはどうなるのだ。
最悪の場合、殺される。
だからと言ってこれ以上いい生活がこの世界にあるのか?
王様の生活だぞ。
帰ることはできないのか?
帰ったらどうなるのだ?あの交通事故の場面に戻されるのか?
そのまま死ぬのか?
何もわからない。
この現状を受け入れて生活していくほかないのか?
いろいろ考えても結局何もわからない。
考えるのをやめて俺も寝た。
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