第11話 森の中には・・・・・・
俺たちが連れてこられたのは森の入り口だ。
平野と森の間と言った方が分かりやすい。
道らしきものが森の中へと続いている。
少し休憩した後、装備を整える。
と言っても、鉄の胸当てや小手をつけて、兜をかぶる。
この兜、ヘルメットみたいだな。
腰に剣をぶら下げる。
意外に重く感じないのは、異世界転移特典がきいている者らだろう。
ユイも装着し終えたようだ。
「さあ行くか」
ガンゼフは森の中へと入ろうとする。
だが、俺とユイの足は止まったままだ。
この森・・・
絶対虫いる!!
そりゃ虫ぐらいいるだろう。森だから。
「どうした?」
怖いオッサンがせかしてくる。
ユイに目を配る。
二人ともうなずく。
そして、歩き出す。
森の中は薄暗くて気味が悪い。
細かい虫がぶんぶん飛びまくっていく。
ガンゼフは気にせず前へと進む。
俺とユイは、手をぶんぶん振り回して虫をはたこうとする。
ブーン
「「うっわっ」」
蜂らしきものがこちらに飛んでくる。
「どうした!!」
ガンゼフは焦った声を漏らす。
俺たちは反射的に後ろに下がる。
「でかい虫が飛んできた」
ガンゼフが不思議そうな顔をしている。
虫ごときがどうしたって顔だ。
虫をなめるなよ。
病気持ってきたり、全国の教室を震撼させる力を持った生き物だぞ。
正直、俺の心はもうそろそろ限界だ。虫多いし。
それをへし折る光景を見てしまう。
木に幼虫が大量に群がっていた。ぬちゃぬちゃという効果音が聞こえてきそうなまでに群がっている。白いぶよぶよした存在が大量に。
背筋がゾッとする。
ユイは顔を真っ青にしている。
俺たちは黙ってきた道を引き返そうとする。
「どこに行くんだ?」
ガンゼフ(スキンヘッドで怖いオッサン)が言う。戦闘モードにはい言っているのか知らないけど、声が怖い。
俺が帰ろうと言いだそうとしたとき
「もう無理!!もう嫌!!」
ヒステリックな声が森の中に響く。
ユイは俺よりも限界だったようだ。
そりゃ、そうか。女の子だもんな。
ユイは来た道を走って戻る。その速度はめちゃめちゃ速かった。
少し見えた顔は泣いていた。
俺は固まって動けなかった。
何してんだ。
追いかけなきゃ。
俺は走り出した。
ユイは森の入り口近くの平野で膝を抱えて泣いていた。
三角座りをした背中に哀愁が漂う。
肩が上下に動き、鼻をすする音だけが聞こえてくる。
ユイはよくここまで耐えたと思う。
普通に考えて、わけのわからない土地に転移させられて家族とも二度と会えないかもしれないんだ。
夢の異世界。
現代知識でイキってドヤれる世界だと思っていた。
銃作ったり、マヨネーズ作ったり、スマホで何かしたり、国作ったり、美少女奴隷を買ってめっちゃ感謝されたて、なつかれたり。
そう思っていいた時期ありました。
ユイは三日間耐えた。
今まで日本という平和な国で育ってきたユイ。
正直、俺も限界が近かった。
飯はまずい上汚い。絶対ヒールが必須。白飯食べたい。
あと水が飲めない。あるとしてもアルコールが少し入ったエールだけ。魔法でミスを作ろうとしたけど制御がうまくできなくて部屋がびしょになるし。
トイレも水洗じゃないし。便座が温まるって素晴らしい。
体を洗うのだって水で濡らしたタオルで体をふくだけだし。あと、水が冷たい。
こんな日常的な不満が積もりに積もって今、爆発したんだろう。
現代の日本に生まれた俺たちは弱すぎる。
精神的弱さ。
力や魔法なんて手に入ったところでその弱さは克服されない。
俺はユイを後ろから抱きしめた。
かける言葉なんてなかった。
わからなかったといった方が正しいのか?
ユイのしゃっくりが伝わってくる。
幼馴染の暖かさ。長年一緒にいたけどこうして抱き合うなんてなかった。当たり前だけど。
「どうしたんだ?」
ガンゼフが帰ってきた。
俺は立ち上がる。抱きしめていた時間は数秒しかないだろう。
「虫が嫌なんです」
はっきり言った。
「何言っているんだ。いいから、早く行くぞ。魔物の手はそこまで近づいているんだ。虫ごときで何をしているんだ」
ガンゼフは少し説教じみた言い方をする。
お前に何がわかるっていうんだ。
この苦しみは一緒に転移してきた俺にしかわからない。
大体、勝手に転移されたのは俺たちだ。
ガンゼフはいら立ちを隠さずに大きな声を出す。
「この世界の命運がかかっているのだぞ!!立て!!」
鬼の形相をしたガンゼフがそこにいた。今までは優しく接し方とは真逆だった。威圧しよう睨んでくる。
俺の怒りはピークに達した。
「うるっせ、ハゲじじい。ぶっ殺すぞ」
ガンゼフをにらみつける。
「なんだと、この・・・・・・」
「あっち行けよ!!!!」
俺の叫びとともに、突風が生み出される。
そして、ガンゼフに直撃する。
十メーター後方に吹き飛ばされる。
いくら強靭な体を持つガンゼフでもすぐに動けはしないだろう。交通事故並みに吹っ飛んでる。
俺はユイの隣に座る。
すると、今度はユイのほうから抱きしめてきた。
「ありがとう。私を守ってくれて」
俺はきつくユイを抱きしめた。
ユイが泣き止むまで・・・・・・
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