第8話 第一回魔術講座

「アイスロック」


 右手を天高く上げて唱えると、空気が冷たくなり、空中で氷の岩が出来上がる。全長2メーター以上ある。そんな巨大なものが、ぷかぷかと浮いている。太陽光が反射してキラキラと輝いている。


「いっけ!!」


 腕を振り下ろす。

 氷の岩が飛んでいく。まだ慣れていないので速度が遅い。だが、この大きさ物のガ当たれば無事では済まない。


「これはすごい。まさか最初から魔法を打てるなんて」


 黒いローブを羽織った人が感嘆している。

 彼ヨーゼフだ。60歳くらいで白髪も多い。

 彼は、古くからこの国に使える魔術師らしい。魔術の腕は一流だったらしい。どうも魔力も体力と同じように衰えるらしい。彼曰はく、鍛錬していれば衰えを紛らわせるらしい。それは体も同じことだ。80歳でエベレストを登る人だっている。

 なぜ鍛錬しなかった理由は、教える側に回ったからだそうだ。そのため、使うということよりも研究のほうに力を入れいているらしい。


「次はユイ様です」


「あたしできるかな?」


 不安そうだ。それはそうだろう。俺の場合は一度感覚をつかめているから度ってことがないがユイは初めてだ。 

 一通りコツみたいなことを教えたが感覚的なことばかりなので説明に困る。

 俺と同じように右手を上げる。


「アイスロック」


 おお、氷の岩ができる。俺より小さいけど。

 氷の岩の大きさが魔力出力らしい。いわばどれだけ一度に魔力を出せるかというものだ。

ゲームでもよくある魔力量、MPは測るのが難しいらしい。長時間魔法を打ち続けることである程度はわかるが、体調によっても変化する。練習していたらそれなりにわかるそうだ。

 魔法には属性があり、火、氷、雷、風、光、闇などだ。ただ、この属性分けというのはあまり意味がない。要は、氷を打ってきたら火で返すっていうごくごく当たり前なことばかりだ。あとは、この魔物は火に弱いという情報が流れてくるくらいだ。

 右手を振り落とす。

 氷の岩は飛んでいく。

 は、速い。

 俺よりも倍くらいの速度がある。氷の岩は地面にえぐる。そして、砕ける。氷の破片が散らばる。太陽に照らされて、きらきらと空中を漂っている。

 俺よりも威力という面では勝っていた。


「やった!!できた。不安だったんだよね。ケイにできて私にはできなかったら完全にお荷物になっちゃうとこだった」


 ユイは安堵する。知らない場所に来て不安だったけれど自分に力があるとわかって安心した。


「やはり、お二人とも勇者というだけのことはありますな」


 ヨーゼフは感心している。


「正直、これだけできれば実践に出ても大丈夫な気がします」


「いやいや、まだ実戦は無理だよ。まだ何も教わってないし」


「それに、安定して打てるかどうかわからないでしょ」


 俺とユイは首を横に振る。

 それに、不意なことで死ぬなんて嫌だし。


「そうですな。魔を打ち滅ぼすにはこの程度じゃ足りませんな」


 いや、そういう意味じゃねぇよ。


「せめて、ちゃんと一通りのことを学ばないといけないだろ」


 俺は漫画でそれっぽいことを言っていたことをマネする。


「戦闘は知識も必要でしょ」


 

 実戦が嫌なのは、ユイも同じようだ。

 実戦は絶対しなければならない。けれど心の準備がまだなのだ。

 自分が強いか弱いかという自覚すらない。

 そんな状態で実戦なんて御免被る。

 せめて、練習が。練習すれば何とかできるかもしれない。

 俺たちはこうして戦いへの第一歩を踏みだした。

 これで第一階魔術講座は終わりだ。


 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る