第2話 勇者なれって言われたけど。
俺たちを囲んでいた黒いローブの一人がこちらに近づいてくる。
「@@&%$#$&@@@+++」
聞いたこともない言語を話しかけている。俺たちが困惑していると、手を差し出してきた。
手の平には二つの指輪が乗っている。
「着けろって意味かな?」
俺は自信がなかったので由美子に意見を求めた。
「多分そうじゃない」
由美子も同意見のようだ。
俺たちは、恐る恐る指輪を取る。二人とも自分の行動に自信がない。そして、指輪を右手の中指にはめる。
「聞こえていますか?」
聞こえてくる声はさっきと変わらないが、意味だけがしっかりと伝わってくる。今まで感じたことのない不思議な感覚に目を丸くする。
「あ、はい、聞こえます」
「私も」
日本語で返事をする。
黒いローブの人はうなずくと、後ろに下がっていった。
どうやらしっかりと意味が伝わったようだ。
「これすごいね。魔法かな?」
由美子は左手を掲げる。人差し指の独特な青い輝きをした指輪がきれいだ。
「多分、そうだな」
どういった魔法なのだろう。
俺の予想は、相手の言葉に含んだ意味を伝達させるものだ。
情報が少なすぎて何とも言えないが。
ぼそぼそとしゃべっていると、この中で一番目立つ人が近づいてきた。
王様だ。
歩き方だけでも貫禄があり、ピリッとした空気が流れる。
そして、俺たちの目の前に立つ。
雰囲気に圧倒され、思わず息をのむ。
その重々しい空気の中、王は口を開けた。
「召喚されし勇者よ。どうかこの世界を魔の手から守りたまえ」
そういう系か。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい時間が流れる。
王は依然として固い表情をしたままだ。
えっ、何。返事を待っているの?
俺と由美子は見合わせる。
おい、ちょっと話し合おうぜ。
意思が伝わったのか、お互い指輪を外す。
「どうするよ?」
これが本音だ。いきなり勇者だと言われて、魔の手から世界を救えって言われてもどうしたらいいかわからない。
「いや、私に聞かれても」
由美子は困った表情で頭をかく。
「勇者ってなんだ?俺たち勇者なのか?」
疑問を由美子にぶつける。
「だから私に聞かれてもわからないって!!」
それはそうだろう。俺と同じ状況なのだから。
「変に了承したら戦えって言われそうだな。これってすぐに返事をしないといけないのか?」
「わからないって!!王様にきいたらいいじゃん!!」
由美子はわからないことばかりをしつこく聞いてくる俺に苛立つ。
「それ、採用」
「えっ」
「ということで、提案者に任せた」
由美子は焦って、早口で言い返す。
「ちょっと待って。さすがにじゃんけんにしよ」
あんな王様に話かけたくない。雰囲気もいかついし、顔も怖いし。これは由美子も同じなのだろう。
「しゃーないな」
了承する。
大丈夫。俺なら勝てる。給食のケーキを勝ち得た男。それが俺。絶対に勝てる!!
「「じゃんけん、ほい」」
俺は渾身のグーを出す。
恐る恐る由美子の手を見る。
折れ曲がった指がなく、完全に開いていた。
パーだ。
完全に負けだ。くっそぉぉぉぉぉぉぉ
俺があの王様に話しかけないといけないのか。嫌よぉぉぉ
はぁー、ため息が出るぜ。
再度、指輪を着ける。
緊張を紛らわすために大きく息を吸い込む。
よっし!!
覚悟を決めて話しかける。
「あの、その答えって今出さなきゃいけないですか?」
言えた。ちゃんと言えた。
「そうか。わかった。そなたたちも急に召喚されて戸惑っているだろう。従者よ。客室に案内しろ」
王様は気分を害してはいないようだ。とりあえず、良しとしておこう。これからどうするか考える時間稼ぎにはなった。
俺たちは通学カバンを肩にかける。
メイドの後についてき、石造りの部屋を出た。
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