第3話 今後どうしよう
二十畳くらいある巨大な客室に案内させた。
赤い絨毯。
豪華な家具。
真っ赤なソファーが置いてある。肘かけはピッカピカの金色。
真っ赤なカーテンが付いた、キングサイズのベッド。
超高級ホテルばりの部屋。
帝国ホテルやマンダリン・オリエンタル・バンコクのようだ。”ようだ”と言ってもサヨナライツカで読んだのだけで実際の写真とかみたことないけど。
「すげぇ」
「やばいね」
語彙力のなさがにじみ出る感想しか出てこなかった。俺も由美子もともなれない部屋に案内されて戸惑っている。
とりあえず落ち着くために座ろう。
手に持っていた通学カバンを置いて超高級ソファーに座る。
「なんか、高級すぎて座りずれぇ」
「たしかに」
高級だからか知らないが、背筋がピンとなって座りずらい。
昔のソファってこんなものなのかもしれない。現代だと低反発とかいろいろ開発されているし。
しかし、落ち着かない。
なじみのあるものが少なすぎる。日本の民家にはないような赤、金、銀など派手なものばかり。
そわそわした気持ちを落ち着かせるために、窓の近くに行き、外を見てみる。
下には大きな庭があった。緑色の芝生に覆われてる。端には花壇があり、さまざまな花が植えられている。赤、青、黄と色とりどりな花が咲いている。
太陽の上り具合からすると、昼の十二時くらいのようだ。
ポケットからスマホを取り出す。
十七時十三分と表示されていた。
やっぱり、俺らが交通事故にあったのは四時半くらいだったしな。
窓を開ける。
都会では味わえない新鮮な空気がなだれ込んでくる。
爽やかな風。
少し冷たいがそれが心地い。
どうやら、季節は春の始まりか、秋の終わりごろなのだろう。
少し落ち着いたので、ベッドに飛び込む。ふかふかクッションが半身を飲み込んでいく。
「あー私のベッド!」
「いやこれ俺のベッド!」
ほかのベッドを使えばいいじゃん。って、ここベッド一つしかない。
「ねえ、ベッド一つしかないんだけど」
俺たちは少し頬を赤らめる。高校二年生というお年頃なので変な想像をしてしまう。だが、そんな想像をしていると思われたくないので、平然と返事をする。
「そうだな」
由美子は少し悩んだが、吹っ切れた様子で口を開く。
「まあ、いっか。昔も、お泊りしてたしね」
「お前がいいんだったら別にいいけど」
少しほっとする。見知らぬ人に見知らぬの場所、それに一人でこんな場所にいたら、不安に押しつぶされそうなので、由美子と離れたくなかった。
多分、由美子も同じであろう。
「これからどうする」
これは俺の切実な疑問だ。昨日まで、一年半先の進路について悩んでいたのがバカらしいと思えた。
今は、明日のことすらわからない。
不安。
異世界に来れたという実感はないのに、不安だけがある。
「アニメだと私たち無敵になってるんでしょ」
「まあそうなるな」
「現実でもそうだといいなぁ」
本当にその通りだ。
異世界転移特典があればイキり散らして、現代知識でマウントをとれる。何でも想い通りにできる。
だが、俺たちは異世界転移特典がないと生きて行くことすら困難になる。
「無能力だっと分かったら捨てられるかも」
由美子の表情が一気に曇る。
まずいことを言ったと思った時には遅い。嫌な空気が流れる。
それを挽回すべく、俺はベッドの反発を利用して立ち上がる。
「一回魔法打ってみるわ。ほら、想像すると打てるみたいな。創造と想像は似ているみたいな理論で打てるかもしれないし」
「お、やってみて。中二病全開で」
少し空気が軽くなる。本気にしていないので打てなくても落ち込みはしないだろう。
俺は目をつぶり、右手を前に出して、手のひらに集中する。
「燃え盛れ ファイヤーボール!」
目をぱっと開ける。
あれ、なんか赤い球が右手にある。
赤い球は、勢いよく飛び出し、前方にあるドアに当たった。
ボール状が崩れ、中から一気に燃え広がる。
そして、火花が散り、絨毯に引火する。
「うわぁぁぁぁ。やべぇ。どうしよう」
「何してんの!!」
「お前もやれって言ったじゃん」
とりあえず、ベッドから布団を引っぺがし燃え移ったところに当てる。酸素がなくなれば燃えることはないはずだ。
何とか消火できた。
「よかった」
とりあえず、安心する。
危なかった。火事になるところだった。
その安心は長くは続かなかった。
ドアのほうに目をやると、当たった部分が真っ黒こげになっている。
由美子のほうを向く。
由美子は目をそらす。
やっべー。マジでやばい。どうしよう。
どう説明しよう。
考えただけで泣きそうになる。
これからどうなるのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます