第4話 賑やかな相棒

「……小さい蛇がいる」


その蛇はムッとしたのか美紅に素早く近づき、


「小さくない!普通の蛇の大きさだ!」


「……しゃべってる!」


「妖怪なんだから当たり前だ!」


「変身できるの?」


「人には変化できないけど……武器なら。しょうがないだろ、そういう種族なんだから!」


「おお〜!」


その様子を見ていた黒音、黒刃、蒼詩は


「美紅ちゃん、なんとなく楽しそうだね」


「何よりです」


「……」


美紅とその蛇のやりとりは続いていたが、その蛇はこれ以上はめんどくさいと思ったのか、美紅から素早く離れ、蒼詩の近くにいた。


「蒼詩様、私は本当にこの人間に付くのですか?」


ため息でもつきそうな声で言う。


「……ああ。不満か?」


「いえ、滅相もございません!喜んで!」


キリッとした表情で言う。


 ……居酒屋かな?……蒼詩さんの圧力ってすごい。


「おい、人間!……何やるんだ!戦うのか!?」


 ……うん?たたかう?


「……何と?」


「戦うんじゃないのか!?俺、そのために呼ばれたのかと思った!」


その蛇は呆気に取られたような表情になった。ここの蛇たちは表情?がわかりやすい……。


「……動物と戦うんじゃないのかな?食料確保だよ」


黒音が言うと


「えー、だるいです。私は人間や妖怪と戦ってきたんですよ!なんで、そんなーー」


蒼詩の視線に気付いたのか、その蛇は口をつぐむ。


 ……すごい、無言の圧力。怖い。


「はい、蒼詩様、私、頑張ります!」


「……楽瑶らくようくん、頑張れ」


黒音は静かに応援していた。


「それで、後は何が必要なの?」


楽瑶が面白いのかじっと見ていた美紅は、呼ばれてハッと気づく。


「……え、えっと、服とか?あ、そういえば、この頭と手首に巻いてくれた布ってどこから持ってきたんですか?」


黒刃と黒音は顔を見合わせ、気まずそうに


「……それは、そのあたりに転がってる死体から取ってきました。何かの役に立つと思って。……衣服は土に還りませんからね」


美紅は想像していた通りだと思ったようだ。気を取り直して


「……ここってやっぱり自殺しに来る人が多いんですか?自殺の名所って言われてるし」


黒刃と黒音は困ったように苦笑いしている。黒音が蒼詩を見ると


「……不本意だがそうらしい。なぜ、いつからそうなったのかは知らないが、さすがに死体が転がっているのは良い気分ではない」


「そうですよね……」


 ……自分の住んでる近くに死体があったら嫌だもんなぁ。


「その死体を探しに来る人もいないし、ただそこで動物に荒らされるよりはと思って、死体を見つけたら埋めてあげてるんだよ」


「え、探しに来る人いないんですか?」


「ここは人の手が全く入ってないので、かえって危険なんでしょう。人間のことは知りませんが、利点と欠点を考えるのだと思いますよ」


 つまり、その人を探すメリットがないっていうこと?……自殺するような社会不適合者を探すメリットがないっていうことかな。あーまた涙が出てきそう……。私は一度死んだ、そう思おう。


潤んだ瞳になる美紅だが、頑張ってこらえているようだ。


「……そういえば、しばらく水も飲んでないです。このあたりに飲める水はありますか?」


「父上が、美紅ちゃんの意識が朦朧としてるときに飲ませてたよ。さすがに覚えてないかもね」


美紅は蒼詩の方を見ると、目が合う。


「……すみません、覚えてないけど、ありがとうございます」


「……ああ」


「綺麗な水場があるから案内するね。……でも今じゃない方がいい?夜だし」


「……お昼の方がありがたいです」


「そうだよね。夜かせめて夕方に行動するなら、動物獲るのも手伝ってあげられるんだけど。……他の者に案内させようかな。動物獲るのも」


黒音はそう言いながら楽瑶の方をちらっと見る。


「ええっ!?私ですか!?」


「僕、何も言ってないよ」


黒音は蛇の姿なのに、小悪魔のような笑みをしているのがわかった。


「……やります、やりますよ。みんなにも頼んでみます。……おい、人間!仕方なくだぞ、仕方なく!」


「美紅です」


「え、あ、えーと……」


美紅の冷静な自己紹介に戸惑う楽瑶。テンポを崩されたようだ。


「……楽瑶です。じゃなくて!ーー」


「放っておいていいよ、美紅ちゃん」


「ありがとうございます。……あの、疲れたので少し寝たいです」


「まだ、傷が痛いよね。あ、毛皮持ってくる!」


そう言うと、黒音は洞窟の奥に入って行った。


「よし、人間!ーー」


「美紅です」


「あ、えーと……よし、美紅!」


「……なんですか?」


「明日はいつ行く?」


 この蛇、嫌だ嫌だと言いながらやる気だな。


「時計ないですもんね。え、どうしよう……」


「楽瑶がそばにいてあげて、美紅の起きる時間に合わせたらどうですか?あ、私も美紅って呼ばせてもらいますね」


黒刃から提案される。つまり一緒、もしくは近くで寝るってこと?美紅から?が浮かび、しばらく無言になる。


「楽瑶くんはどうせ暇なんだからいいでしょ。近くで寝てあげたら?美紅ちゃんもそうしたら寂しくないよね」


少し遠くから黒音の声が聞こえる。戻ってくるの早いな!……熊の毛皮は思ったより、熊の毛皮だった。美紅はそれをじっと見ていた。話したときに落としたのだろう、黒音の前に落ちている。それを黒音はまた咥えて持ってくる。


「……暇じゃないです!と言いたいところですが暇だからいいですけど。しかし、近くで寝たら潰されそうです」


「誰もそんな近くで寝てなんて言ってないよ……」


楽瑶は気づいてなぜか動揺している。美紅は面白い蛇だなーと思いながら楽瑶を見ていた。蒼詩と黒刃はそんな二人?を何も言わずに見ていた。和やかな雰囲気だ。蒼詩がフッと笑った気がした。黒刃は美紅に聞こえないように声の音量を絞りながら


「父上?どうなさったのです?」


「……いや、このような雰囲気も悪くないと思ってな」


「……そうですね。母上は人間の手で殺されましたが、美紅は関係ないですし。黒音もわきまえてるようですね」


「……ああ、そうだな」


蒼詩は昔を思い起こし、それ以上は何も言わなかった。



 「結局、こうなるのか……」


楽瑶は美紅のそばでぼそっと呟く。


「え、何か言いました?」


「……いや、何も」


洞窟の隅に、岩がゴツゴツとしていなくて光が入るところを見つけた美紅は、今日の寝床と決めたようだ。楽瑶はなんだかんだと言っていたが、結局、近くで寝ることを選んだよう。さすがに2mくらいは離れているが。


 熊の毛皮が本当に毛皮だった。でもあったかい。ここなら朝日が入りそうだし、ちゃんと起きられそう。明日は探検してみようかな。……なんかワクワクしてきた。でも、サバイバル生活って大変だよね……。


暖かい毛皮に包まれ、美紅は怪我をして体力を失っているのもあり、すぐに眠ってしまった。楽瑶は寝息を立てる美紅を見て、やれやれと思いながら自身も眠りについた。

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