3.上位互換
第1話
ふたり子どもが居れば、どちらかが出来が良く、どちらかの出来が良くないなんてことはザラにある。それは、二卵性の双子である私たちにも言えたことで、残念なことに「出来の良くない方」は私だった。そして更に残念なことに、その「出来の悪さ」は学校の成績だけでなく、ピアノやお習字といった習い事、友人の多さ、部屋の片付けができるか否か、といったことにまで及ぶ。
生半可な出来の悪さではない。本当に出来の悪いヤツというのは、なんと血液型レベルで出来が悪いものなのだ。私と、姉の紗友希は、双子だけれど血液型が違う。私がB型、紗友希がO型。俗にいう血液型占いで、B型というのは往々にして「ワガママ」「マイペース」と、悪者にされがちだが、そこまでチンケな話ではない(現に、紗友希は私に負けず劣らずワガママでマイペースだ。ふたり揃って、性悪に育ったものだ)。
父はB型、母はO型。私たちを妊娠している間、母親は大層つわりが酷かったという。
「親と子の血液型が違うと、つわりが酷くなるんだって」
どこでそんな噂を聞いたか知らないが、母親にそう言われた私は憤慨した。
「じゃあママは、妊娠中に具合が悪くなったのは紗友希は全く関係なくて、私だけのせいだって言いたいのね? 悪かったね、双子なのに紗友希と違って」
当時私は小学生だったけれど、口だけは達者だったし、他人の心の機微にも敏感だった。母が、出来の悪い私より、賢く面倒のかからない紗友希のことをより大切に思っていたのはよくよく知っていた。夕飯のメニューの決定権は、基本的に紗友希にあったし、おもちゃや服の取り合いになったら、それとなく紗友希の肩を持つ。幼い頃から、母の膝の上に座っているのは必ず紗友希。ただ、勘違いしないでほしい。母は別に、所謂「毒親」などではない。私のことも紗友希のことも、ちゃんと育ててくれた。お弁当も欠かさず作ってくれたし、高い私立の高校の授業料も、父と一緒に払ってくれた。たくさんのものを与えてくれた、ただ、明確に偏りがあるだけだった。
「ねえ、パパ。ママは私と血液型が違って、紗友希とは同じだから紗友希の方が可愛いんだって。パパは、私と同じB型だから、紗友希より私の方が大事?」
頭の悪い私は、父が仕事から帰ってくるなり、そのような質問をした。――父は私たちを妊娠したわけではないのだから、全く無意味な問いかけだ。
「そんなこと言っちゃいけないよ。紗友希も、有紗も、全く同じように大事だよ」
父は、ほんとうに「出来た」人間だった。私たちのことを平等、公平に扱った。プレゼントも、かける言葉も、課すルールも――そのことがほんとうに不思議だった。男親というのは、特に見た目の良い娘というものにめっぽう弱いと聞いている。私と紗友希、まあまあ似たような顔をしているものの、私の方が目がぱっちりとしていて、鼻筋も通っていた。見た目だけは私の方が勝っていた、それだけはほんとうに救いだった。
しかし、私は不満だった。母が紗友希を重視し、不平等に扱うのであれば、父は私を大事にしてくれないと釣り合いが取れないじゃないか、と。
私は紗友希に不満を抱いていたし、紗友希は私を見下していた。私たちは本当に仲の悪い姉妹だった。
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