第2話
バレンタインデー。
毎年このくらいになると私は、まぁ私だけじゃないって思うけどドキドキだったり、わくわくだったりして、でも楽しみだったりする。
今年もあげる人ももらう人も一緒だけど、やっぱり楽しみなのは変わらない。
ただ、嬉しくて楽しみだけどちょっとだけ困ることもある。
◆
「はい、美奈お姉ちゃん。どうぞ」
お昼を食べてから私の部屋に来てくれた美奈お姉ちゃんに黒と赤のリボンをした包みを渡す。
中身はもちろんチョコレート。
「わー、ありがと、悠里ちゃん」
お姉ちゃんは笑顔で受け取ってくれる。
「ね、あけていい?」
「うん、どうぞ」
美奈お姉ちゃんは丁寧に包みを取り去っていく。
「わ、可愛い。ありがと悠里ちゃん」
(可愛いって言ってもらえたー)
お姉ちゃんにそう言ってもらえて私はひとまず安心。形は型を使って星だったりハートだったりしただけだけど、クリームで顔をかいてて、それがちゃんと可愛いって言ってもらえた嬉しかった。
「それじゃ、さっそく」
お姉ちゃんはハートの形のチョコを手に取るとそれを口に入れた。
「ん~~。甘くておいしー」
「えへへ、よかった」
ほめてもらえるのはもちろん嬉しい。ちゃんと美奈お姉ちゃんが好きな味にしたもん。美奈お姉ちゃんは甘いのが好きだから甘くして、まだ渡してない紗奈お姉ちゃんは少し甘さ控えめなのが好きだからちょっとビターにした。
あ、紗奈お姉ちゃんにまだ渡してないのは別に美奈お姉ちゃんほうが好きだからじゃない。その逆でももちろんなくて、一緒にいるときに渡すとなんだかまた喧嘩しちゃいそうだから別々に渡すことにしてるの。
「悠里ちゃんの愛を感じちゃう」
「う、うん」
好きだよっていう気持ちはこめてるつもりだけど、言われると恥ずかしい。
どうしてお姉ちゃんたちはこういうこと簡単にいえるんだろ。
けど、美奈お姉ちゃんに渡すときは別にいい。おいしいって言ってもらえるまでちょっと不安だし、さっきみたいなのは恥ずかしいけど、あくまで言葉だけだもん。
美奈お姉ちゃんの場合問題なのは渡してくれるとき。
あ、おいしくないっていうわけじゃないよ。そもそも美奈お姉ちゃんは買ってくるんだし。
「さて、じゃ、今度はあたしのをもらってくれるかな」
「う、うん」
ちょっと緊張。美奈お姉ちゃんってすぐ私のこと困らせようとするんだもん。何してくるかわかったものじゃない。
パキ
お姉ちゃんは部屋に来たときに私の机に置いていたチョコを取るとそれを一欠けら折った。
「?」
私はどうしてそんなことするのかわからなくて首をひねった。
「はむ」
それからそのチョコの端を加えると私の疑問はさらにふくらむ。
「ふぁい、ゆうりひゃん」
「え……?」
お姉ちゃんはチョコをくわえたままそういって……
(ええ~~~!!)
そのまま私の唇へと持ってきた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん~」
く、口移しっていうわけじゃないけどこんなの恥ずかしくて食べられるわけないよ。
「ゆうりひゃん~」
でも、お姉ちゃんはそんな私の気持ちなんてお構いなしに近づいてきて……私は少しずつ後ろにさがって……
「きゃ!?」
ベッドに躓いてそのままベッドに倒れこんだ。
「ふふふ~」
お姉ちゃんは楽しそうに笑うとお姉ちゃんもベッドに上がってきてそのまま私に覆いかぶさった。
もうお姉ちゃんの唇(とチョコ)が目の前に迫ってる。
け、けど……
(やっぱりこんなの恥ずかしいよぉ)
私はぐっと体をひねってお姉ちゃんから逃げようとするけど、そんなことできる状況じゃない。
どうすればいいのかわからなくてみるみる顔を赤くしていく私。
「……そっか。悠里ちゃんはあたしのチョコなんて食べたくないか」
けど、お姉ちゃんがチョコをはずして悲しそうにいうと一気に血の気が引いて寒くなった。
「あたし手作りなんかできないからせめて愛をこめたかったのに……悠里ちゃんが嫌なんじゃしょうがないね」
「あ……」
「ごめんね。悠里ちゃん」
お姉ちゃん、悲しそう。
(…………私、ひどい)
お姉ちゃんがせっかく気持ちをこめてくれようとしたのにそれをただ私を困らせるためにしてるんだなんて思って………
「う、ううん。私の方こそごめんね。お姉ちゃん。……頂戴、お姉ちゃんの気持ちも一緒に」
妹として恥ずかしいことをしちゃったって反省するのを重しに恥ずかしいっていうのを心の奥底に沈めていった私は押し倒された形のままもう一度お姉ちゃんがしてくれるようにお願いした。
「悠里ちゃん……」
お姉ちゃんは嬉しそうにもう一度チョコを口に挟むとそれを私に近づけてきた。お姉ちゃんの気持ちと一緒に。
(や、やっぱり恥ずかしい)
それは変わらないけど、でもお姉ちゃんが精一杯に気持ちをこめてくれてるんだもん。それに応えなきゃ。
「はむ……あむ」
私はお姉ちゃんとちゅーしちゃいそうな程近くなった唇からチョコを受け取るとそれを口に入れて舐め始めた。
「とっても、甘いよ。すごくおいしい」
お姉ちゃんの熱で少し溶けていたそれは私の舌の上ですぐに甘くとろけていく。
「コンビニで買えるようなチョコだよ」
「うん。でもお姉ちゃんの気持ちがこもってるんだもん。すっごくおいしい」
「っ~~。悠里ちゃん!!」
「みゅ!!?」
まだ口の中に甘いのが消えないうちにお姉ちゃんは体を重ねてきて抱きしめてきた。
「もう~。悠里ちゃん可愛すぎ!! もっともっとあたしの愛をあげちゃうから」
「えぇ~~」
なんだか変わり身の早いお姉ちゃんにさっきのは演技だったんじゃないのかなって不謹慎なことを思いながらもやっぱり今年のバレンタインもお姉ちゃんに困らせられるのだった。
でも、私のバレンタインはまだ半分が終わっただけだった。
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