橘悠里の大好きなお姉ちゃん
もフー
第1話
私、橘悠里は幸せ者って思う。
思うだけじゃなくて実際幸せ。
学校は楽しいし、友達もいっぱいかどうかはわからないけどそれなりにはいるって思うし。親友って呼べる友達もいる。
それに、家族とだって仲がいい。
幸せなのは間違いない。
ただ……
◆
「ん……ん、うっん」
頭の中にもやっとした雲がかかったような気分。
「ん、は……む、ぃ」
それは時間がたつごとに少しずつ晴れていって
「ん……ふ、はぁ…」
私はまどろみの中、どうにか朝の空気に満たされた部屋で目を覚ました。
(ん……今日も、いい天気みたい)
横向きに寝てたから丁度窓が見えて、カーテンの裏からでも強い太陽の光がわかった。
早く起きなきゃ。ベッドから出て、顔を洗って、着替えて、身支度を整えて、それから……
(けど、その前に)
私は背中にぬくもりを感じて……また……って思った。
「美奈お姉ちゃん!!」
私はぐるりって体を回転させて大きな声を出した。
「おはよ、悠里ちゃん」
そこにはくりっとした大きな目とショートカットの髪が特徴の女の子、……私のちょっと困ったお姉ちゃんがいた。
「もぅ~。また勝手に……」
「違う、違うの」
「もう何が?」
「別に悠里ちゃんのベッドに忍び込んだわけじゃなくて、朝練行く前に悠里ちゃんの顔が見たくなっただけなの」
「……ベッドで寝てるけど?」
「だって、悠里ちゃんが寝てるの見たら我慢できなくなっちゃって」
「……はぁ」
私は困った顔でため息をつくけど、半ばあきらめてもいる。
だって、こんなのよくあることだもん。
美奈お姉ちゃんはいつも勝手に私のベッドにもぐりこんでくる。それが朝だったり、夜だったりするけど私は寝ちゃってたりするから駄目っていえないし、起きてる時でも駄目って言っちゃうと美奈お姉ちゃんはすぐ落ち込んじゃうからあんまり怒ったりしない。
「もう、練習あるんでしょ? 大丈夫なのこんな時間まで……」
呆れたままベッドから出て美奈お姉ちゃんを注意する。
「ん、ちょっとやばい」
「じゃあ、早くしなきゃ」
「わかってるわよー。でも、その前に……」
美奈お姉ちゃんも私のいないベッドに用はないからすぐにベッドから出ると
「ぎゅーーー」
「っ! お、お姉ちゃん!!?」
力いっぱいに私のことを抱きしめてきた。
美奈お姉ちゃんはテニス部で運動してるだけあって、小学生の私じゃお姉ちゃんを振りほどくなんて出来ない。
「悠里ちゃんの体やらかーい」
「な、何してるの、お姉ちゃん!」
「じゅうでーん。悠里ちゃん分を補給しないと部活なんていってらんなーい」
「っ~~~」
抱きしめられるのが嫌なわけじゃないけど、やっぱり恥ずかしいしよぉ。朝からこんな……
「ぎゅーー」
しかももう一分くらいしてるし……
「お姉ちゃん! ほんとに遅刻しちゃうよ」
さすがに注意しなきゃって思った私はしかるようにいった。
「はーい。まだ半分くらいしか補給できてないけど、しょうがないか」
本気にもふざけてるようにも聞こえるようにいって美奈お姉ちゃんは私から離れると、部屋から出て行こうとした。
「あ、悠里ちゃん」
けど、ドアの隙間からぴょこって顔をだして
「行ってらっしゃいのちゅーは?」
「………お姉ちゃん!」
「はーい。いってきまーす」
美奈お姉ちゃんは最後にそういって今度こそ出て行くと、ドンドンを階段を下りていってちゃんと玄関も開く音がした。
「はぁ……まったくもう」
めずらしいことじゃないからもう慣れてるけど、やっぱり……
「はぁ~」
って感じ。
ただ、いつまでも呆れてるわけにはいかないから気を取り直してまず顔を洗おうと部屋から出て行って
「あ、そうだ」
階段に行くまでにある部屋の前を通りかかった私は思い出したようにつぶやく。
それから軽くノックをして
「紗奈お姉ちゃん? 入るよ?」
返事がないのは予測したまま私は部屋の中に入っていった。
まず部屋の何よりも目に付く二段ベッドに近づいていって、下段に寝ている美奈おねえちゃんの双子のお姉ちゃんが、私の一番上のお姉ちゃんがいた。双子だからほとんど同じ顔なんだけど、髪はスポーツしてる美奈お姉ちゃんと違って、肩くらいまでの私よりも少し長い。
「紗奈お姉ちゃん。朝だよ、起きて」
部活動で早くいく美奈お姉ちゃんと違って紗奈お姉ちゃんは何にも予定がないからいっつもぎりぎりまで寝てて困っちゃう。
だから、こうして私が起こしてあげなきゃいけないの。
「お姉ちゃん。起きてってば」
「ん、ん~~。わかってるわよー」
夢の中にいることも多い紗奈お姉ちゃんだけど今日は目は覚めているみたい。
「ほら、早く起きなきゃまた御飯食べる時間なくなっちゃうよ」
「ん~。だいじょうぶ、だいじょうぶ……」
「昨日もそう言って、食べられなかったでしょ! ほら……きゃっ!?」
ボフン。
もう一回紗奈お姉ちゃんの体をゆすろうとしたけど、近づいた私の腕を捕まれてベッドに引き込めれちゃった。
「お、お姉ちゃん」
美奈お姉ちゃんよりもちょっと小さな胸を体に押し付けられて私はまた恥ずかしさ顔を染めた。
「ん~、後三分、ううん~、後二分三十……二十五秒でいいから~」
「わ、わかったけど離してよ~」
「やだ~。悠里と一緒じゃないと意味ないもん~」
「もぅ~~」
ぎゅってベッドの中で抱きしめられた私は観念してお姉ちゃんのしたいままにさせた。
私はお姉ちゃんたちよりも少し遅くていいからこうしても大丈夫だけど、こんなことして困るのはお姉ちゃんのほうなのに。
呆れちゃうけど、こういうのも珍しいことじゃないから慣れちゃってる。それにお姉ちゃんたちって二人ともいい匂いがするから本当はこうして抱きしめてもらうのは嫌じゃないの。
これをお姉ちゃんに言うといつでも抱きついてきちゃいそうだから言わないけどね。
こんな感じで毎日を送ってる私はやっぱり幸せ者だって思う。
思うけど、
「悠里~。可愛いー」
むぎゅってお姉ちゃんの体に押し付けられながら、やっぱり二人の大好きなお姉ちゃんに困らせられるのも本当だった。
◆
学校から帰ってくると、私にはやることがある。
それは別に特別なことじゃなくて、洗濯物を取り込んでちゃんとたたんでおくこと。両親が帰ってくるのが夕飯くらいになるから家事はお姉ちゃんたちと一緒にすることになってる。
でも、美奈お姉ちゃんは部活動で遅くなることも多いから大体は私と紗奈お姉ちゃんがすることが多い。
今日も、友達とちょっと寄り道してから帰ってきた私は洗濯物を取り込んでお母さんのベッドの上でたたんでいた。
「あ、……お姉ちゃんまた新しい下着買ったんだ」
美奈お姉ちゃんのブラジャーを手にとって小さくつぶやく。
最近、胸が苦しいって言ってたけど、新しいサイズにしたみたい。
「…………」
それにしても、お姉ちゃんたちの下着って……私のと全然違う。私なんてまだ全然子供のばっかりでお姉ちゃんたちみたいななんていうのかな、色っぽいのなんて一つもない。
(……そもそもブラジャーだってしてないけど)
「…………」
私は美奈お姉ちゃんのエメラルドグリーンのブラジャーを中々手放さないで見つめてみる。
(……いつか、私もこんなのが似合うよりになるのかな)
何カップとか全然わからないけど、とてもこんなのが似合うようになるなんて想像できない。
「……はぁ」
いいや、変なこと考えてても仕方ないし早く終わらせちゃおう。
私はそう思ってブラジャーから手を離すと他のを終わらせて、お姉ちゃんたちの洗濯物をお姉ちゃんたちの部屋に持っていった。
「あ」
タンスに戻してる途中でまたさっきのブラジャーを落としちゃった。
それと拾う過程であるものを見つめる。
タンスの横にあるおっきな姿身の鏡
「……………ちょっと、試しにしてみるだけ、だから」
なんとなく好奇心にそそられた私は言い訳するみたいにつぶやくと、お姉ちゃんブラジャーを服の上から
「あ、あれ……? ん、ん~」
一応、お姉ちゃんたちがするみたい胸にあてて形だけは出来たんだけど、背中のホックがうまくできない。
初めてだからっていうのもあるんだろうけど
そもそも、背中なんて見えないんだからこんなのできないよ!
なんて、できない愚痴を言って私はブラジャーをはずそうと
「はい。これで、いいわよ」
したところでホックをかけられた。
「っ!!?? お、お姉ちゃん!!?」
「ただいま、悠里」
驚いて振り返ってみると、いつのまにか帰っていた紗奈お姉ちゃんが私を楽しそうな顔で見ていた。
「ふふふ。悠里~。何してるのかな~?」
「あ、あのね!? これは、ね……えっと」
「それ、美奈のよね。どうして悠里はそんなのしてるの?」
「……う、あ」
ど、どうしよう~。
自分でもみるみる顔が赤くなっていくのがわかる。この前国語でならったけど、こういうのを顔から火が出そうっていうんだよね。じゃなくて、
「悠里にこんなの必要かな~」
「みゃ!?」
紗奈お姉ちゃんは私の正面にまわってすかすかなブラジャーの上から私の胸をつついてきた。
「ほら、こんなぶかぶかなのに」
「や、やめてよ~。んっ……ふぁ、……くすぐったいってば~」
「私のだったらいつでもつけていいのに。悠里ってば、美奈のほうがいいの?」
「そ、そういうことじゃないもん」
「でも、美奈が知ったらどう思うかしらね。まぁ、別に怒ったりはしないだろうけど」
「ぅぅ~」
言うとおり怒ったりはしないって思うけど、そんなの関係なく恥ずかしいよ~。
「お、お願い。美奈お姉ちゃんには言わないで」
私は、必死になってお姉ちゃんに訴えかけた。
「ッ!!」
お姉ちゃんは何でか、驚いたような顔して、
「ゆ、悠里、それをもう一回……ううん、ちょっと待って」
「?」
急にあわてたかと思うと私のブラジャーをはずして今度は机の上から、何かを持ってきた。
目薬、かな?
「ちょ~っと、動かないでね」
「え?」
上を向かされて、目を開かされて……
「きゃ!」
その上に目薬を垂らされた。
「な、なにするの……っ!?」
両目に目薬をさされて、目から雫が零れ落ちる。
「も、もう~、なんで目薬なんかするの」
「ね、悠里。それでさっきのもう一回言って」
「え?」
「美奈に言わないでって」
「えっ、と……」
「あ、そうだ。ついでに、こう胸の前で手を組んで上目遣いにしてくれたら絶対黙っててあげる」
「こ、こう?」
よくわからないけど、私は言われたまま胸の前で手を組んで上目遣いにお姉ちゃんを見つめた。
「っ~~!! そ、そう。おっけー」
おねえちゃんは大げさに体を震わせて、すごく嬉しそうな顔をしてる。
「お願い、美奈お姉ちゃんには、言わないで。約束だよ」
「っ~~。押し倒したい……」
「え?」
「う、ううん。何でもない。大丈夫黙っててあげる」
「ありがとうお姉ちゃん」
お姉ちゃんはちょっと変わってるけど、約束を破ったりはしないから私は安心して笑顔になる。
「っ~。悠里~~~」
「ひゃ!!?」
その束の間紗奈お姉ちゃんはいきなり私を抱きしめてきた。
私はいつもみたいにむぎゅぅぅってされながら、紗奈お姉ちゃんはいつも変なことするなぁって思うのだった。
◆
トントンって軽快にまな板が包丁を叩く音。ぐつぐつとお鍋が煮える音。
それは、普通の小学生なら御飯前ののんびりとした時間をくれるものかもしれない。けど、私のところじゃ違う。
その音をだしているのは私たちだから。
って、偉そうなこと言うけど実は紗奈お姉ちゃんが料理を作るのを少し手伝うくらい。
いつも手伝うわけじゃないけど、たまにこうしてお手伝いもする。今日は、手伝いしたい気分なの。
べ、別に、さっきのことが関係してるわけじゃないからね。
「あ、悠里。次はそれね」
「うん」
「包丁、気をつけてね」
「はーい」
手伝うのは野菜を切ることくらいで、細かいことはほとんどお姉ちゃんがやっちゃう。私が一人でできるのは本当に簡単なお料理くらい。味付けなんかも全然できないし。
「つっ!!」
私がにんじんを切ってたら、お姉ちゃんがするどい声を上げた。
「お姉ちゃん? 大丈夫?」
見ると、お姉ちゃんが指を押さえていた。指の先には赤い血が少したれていた。
「っ~~」
「気をつけなきゃだめだよ」
お姉ちゃんは料理はできるけど、たまにこうやって指を切っちゃったりする。そんなに深く切っちゃったことは一回もないけど、妹の身としてはこんなドジをされると心配になっちゃう。
「悠里」
お姉ちゃんが私に向かって指を差し出してくる。
「もぅ、しょうがないなぁ」
ちょっと呆れながら私はお姉ちゃんに近づくと、お姉ちゃんの手をつかんで指を口に含んだ。
「はむ……ちゅぅ…。ペロ」
お姉ちゃんの指の先を優しく吸って、舐めて、お姉ちゃんの指を消毒する。
ちょっと甘くて、しょっぱくて、不思議な味。
こんなのもしかしたら変なことなのかもしれないけど、小さいころ私が怪我したりするお姉ちゃんがこうして慰めてくれたことがあって、それ以来ずっと今でもお姉ちゃんが怪我するとこうしてあげるのが普通だった。
「ん、……ちゅ…」
「ふふ、悠里」
こうしてると、お姉ちゃんが私の頭を優しく撫でてくれる。甘えたいわけじゃないけどこうしてもらうのも嫌いじゃないから、ちょっと嬉しいの。
「ん、はぁ……」
最後に口の中に溜めたつばをお姉ちゃんに指の先につけて、口を離した。
「ふふ、ありがと、悠里。ん……」
私がしてあげた後なのにお姉ちゃんはいつも自分で咥える。お姉ちゃんにするのは私にとっては当たり前だけど、こうするんなら自分でするだけでいいのに。
「……おいし」
それに、指を舐めるのはなれちゃってるからいいけど、こんなこと言われるのは恥ずかしい。
「ありがと、悠里。もうこっちは大丈夫だから、お風呂やってきて。そろそろ美奈が帰ってくる頃だし」
「あ、うん」
そんな恥ずかしいっていう気持ちもあって、言われるままにお風呂に向っていった。
栓をして、蛇口からお湯を注ぐ。
しばらく、お湯の温度の調整をしながら私はさっきの、っていうか、紗奈お姉ちゃんのことを考える。
お姉ちゃんの【消毒】をするのはいやじゃないけど、最近ちょっと思うことがある。
お姉ちゃんって別にドジじゃない。それに、あんな風に包丁で指を切ったりするのって考えてみると私が手伝いをしてるときだけな気がする。
それに、今日はちゃんと血の味がしたけどたまにお姉ちゃんが痛いっていっても全然血の味がしないこともあるけど……
(っ、ううん)
お姉ちゃんが嘘つくわけないよね。大体そんなことしても意味ないんだし。
疑ったりなんかしたらお姉ちゃんに悪いもんね。
「よし」
適度な温度がちゃんと出てるなって確認した私は一言頷くと、立ち上がってお風呂から出て行って、
「ただいまー」
丁度、美奈お姉ちゃんが帰ってきた声が聞こえた。
◆
「お帰りなさい、美奈お姉ちゃん」
とっとっとって玄関に向っていって美奈お姉ちゃんを出迎えに行った。
「悠里ちゃん! ただいまー」
「わっ」
美奈お姉ちゃんは帰ってくるなり、私にぎゅーって抱きついてきた。
(あ、胸当たってる……)
セーラー服の上からでもはっきりわかるくらいやっぱり、お姉ちゃんのって大きい。
(今もあんなブラジャーしてるのかな……)
って違うよ! そんなこと考えてどうするの。昼間のことがあるせいでちょっと意識しちゃうけど、そんなことしちゃだめ。
「ん、悠里ちゃんどうかした?」
「う、ううん。なんでもないよ」
「そ。あ、お風呂沸いてる?」
「うん、今汲んでるところだから、準備してるくらいにいっぱいになると思うよ」
「ありがと、さっすが悠里ちゃん。んじゃ、着替えとってくる」
「うん、いってらっしゃい」
お姉ちゃんは部活動で疲れて帰ってくることが多いから、帰ってくると先にお風呂に入る。今日も、いつもと同じような会話をして美奈お姉ちゃんは自分の部屋に上がっていった。
「美奈は今日もやかましいわね」
紗奈お姉ちゃんの様子を見に台所に戻ってくるとちょっと呆れたように言ってきた。
「ん?」
「な、なぁに?」
紗奈お姉ちゃんはお鍋の火を止めると、私に近づいてきてクンクンと匂いをかきはじめた。
(や、やだ、何か変なにおいするのかな……?)
って、不安に思ったけど、
「ちょっと、汗の匂いがするけど、また美奈に無理矢理抱かれたの?」
「え、えっと、べ、別に無理矢理じゃないよ」
「まったく、汗かいてきてるんだから少しは自覚しなさいよね。美奈は」
紗奈お姉ちゃんはちょっと怒ってるみたいだけど、私はあんまり。そりゃ、汗の匂いがしたらやだけど、美奈お姉ちゃんは一生懸命頑張ってきてるんだからそのくらい許してあげないと。
ガララ、
その後もちょっと紗奈お姉ちゃんが美奈お姉ちゃんの悪口を言ってたけど、少しすると脱衣所のドアが開いた音がして、あれ? 閉じる音はしなくて変わりにこっちに足音が向ってきた。
「悠里ちゃん、お風呂はいろー」
「え?」
台所にやってきた美奈お姉ちゃんは急にそんなことを誘ってきた。
「だめ」
「……なんで姉さんが断るわけー」
「悠里の気持ちを代弁してあげただけよ」
「悠里ちゃんはそんなこと言わない。ねっ、悠里ちゃん」
「え、えっと……」
「ほら、あたし帰ってくるのにちょっと汗かいちゃってたから悠里ちゃんにもにおいうつっちゃったかもしんないし、お風呂入ったほうがいいよ」
「……最初から、理由つけようとしてただけのくせに」
「姉さんが何言いたいのか知んないけど、姉として妹を可愛がるのは当然じゃない。ほら、悠里ちゃんいこ」
美奈お姉ちゃんはそういって私の手を引っ張っていこうとした。
「あ、ま、まって美奈お姉ちゃん」
美奈お姉ちゃんとお風呂入るのが嫌じゃないけど、やっぱり恥ずかしい。それに、お風呂に入るって言うと一つ問題がった。
「ん? どしたの悠里ちゃん」
「美奈となんかお風呂入りたくないって」
「ち、違うよ。えっと、着替えないから……」
「大丈夫、一緒に持ってきてあげたから」
「あ、そう、なんだ」
「ほら、じゃ、いこ悠里ちゃん」
「あ、う、うん」
やっぱりちょっと恥ずかしい、けど、断っちゃ悪いよね。それに、いえないけど、昼間のことがあるから美奈お姉ちゃんに応えたいっていう気持ちもあるし。
そんなちょっと悩んでいる合間に私は美奈お姉ちゃんにお風呂へ引っ張られていっちゃった。
◆
「でさー、悠里ちゃん」
「うん……」
(ぅぅぅ~~)
美奈お姉ちゃんとお風呂に入るのはやっぱり恥ずかしい。美奈お姉ちゃんとじゃなくて、紗奈お姉ちゃんともだけど……。
体を洗いっこするのは小さい頃だからいいって思ってたけど、最近じゃお姉ちゃんにしてもらう嬉しさもお姉ちゃんにしたいっていう気持ちも、恥ずかしいって思っちゃうのがッ強くなってきてる。
けど、美奈お姉ちゃんも紗奈お姉ちゃんもしてくれるっていうから断っちゃお姉ちゃんたちに悪いし、
(でも、やっぱり恥ずかしいよぉ……)
そんな恥ずかしさのせいで私はお風呂に入ってもお湯以上に体が熱いような気がしちゃってた。
「ん? 悠里ちゃんどうかした?」
「う、ううん。なんでもないよ」
「でも、顔赤いよ?」
「ちょ、ちょっと、お風呂が熱いだけだよ」
「そ、じゃ。水入れよっか」
美奈お姉ちゃんはそういうと蛇口をひねって水をお風呂に注ぎだした。
「ほら、悠里ちゃんこっち」
「あ、」
今までお風呂の両端にいたんだけど私のそばから水が出てくるから、冷たくないようにってお姉ちゃんは私のことを引っ張った。
(あ……)
引っ張られた勢いでポヨンってお姉ちゃんの胸が腕に当たる。
それでつられるように見ちゃったけど
(やっぱり、お姉ちゃんって胸おおきぃ……)
私がお姉ちゃんみたいじゃないのは年が離れてるんだから当たり前だけど、当たり前って思ってもちょっと気にしちゃう。
思わずぺたーんな胸を見つめて
(はぁ……)
心の中でため息。
紗奈お姉ちゃんは昼間、私もそのうち大きくなるって言ってくれたけど、本当になるのかな……
また、ちらりとお姉ちゃんの胸を見る。
(美奈お姉ちゃんみたいなんか……)
「ゆうーり、ちゃん!」
「みゃ!?」
バシャってお風呂の水が大きく波立って、私はお姉ちゃんに抱きしめられていた。
「な、なに? お姉ちゃん!?」
「なにはこっちの台詞かな~」
「え?」
「さっきからあたしの胸ばっかり見つめちゃって、なに考えてたのかな~?」
「そ、そんなことしてないもん」
……してた、けど。
「それに、服脱ぐときにもちらちら見てたよね?」
「っ!!?」
言われると、それもしてた。昼間のことがあるから、今日はちょっと気にしちゃうことが多いのかも。
「触ってみたい?」
「う、ううん」
「あら、残念。悠里ちゃんにならいいのに」
「も、もぅ~」
美奈お姉ちゃんはすぐこうやってふざけるんだから~。
「そ、じゃあ」
「?」
私を抱きしめていたお姉ちゃんの手が私の体をすべっていって、
「きゃ!!」
「代わりに悠里ちゃんのさわっちゃお!」
背中越しに胸を触られていた。
「ふふふ~、悠里ちゃんの可愛い~」
ムニュムニュってお姉ちゃんの指が私の胸を揉んでくる。
「や、ぁ……ん」
私はくすぐったいのと恥ずかしいのが混ざり合って体中がかぁって燃えるような気がしちゃった。
「や、やめてよぉ…お姉ちゃぁん……」
あまりにも恥ずかしくて涙目になった私は首をひねってお姉ちゃんに訴えかける。
「ふ、ふふ……」
(あ……)
そうしたら、お姉ちゃんの指が止まった。
「っ~~~。悠里ちゃん!!」
のに、安心する暇もなくお姉ちゃんは手を胸に当てたままもっとぎゅって私を抱きしめる。
「お、おねえちゃぁん」
「悠里ちゃん! もう、たまんない!」
お姉ちゃんは私をぎゅってしたままほっぺとほっぺをこすり付けてきた。
「大丈夫、悠里ちゃんは胸なんかなくても十分すぎるくらい可愛いよ。お肌だってこんなにすべすべで」
「み……~~」
「それに……んっ」
「にゃぁ!!?」
(ぺ、ペロってしたぁ……)
お、お姉ちゃんが私の首筋をペロってぇ……
「こんなにおいしいし」
「あ、味なんてないよぉ」
「そんなことない。悠里ちゃんを舐めるとあま~く感じるよ。ん……ちゅ」
ま、またペロってぇ……
「そ、そんなことないもん」
お姉ちゃんが私を舐めるたびに体にゾクゾクって不思議な感じが駆け抜けるけど、なによりも私はとにかく恥ずかしい。
バシャ!
「あ、悠里ちゃん~」
恥ずかしさが極まって、私はお姉ちゃんの手から離れてちょっと距離をとった。
「はふぅ……」
まだ胸がドキドキしてるよ~。
「お姉ちゃん! もうっ、すっごく恥ずかしかったんだからね」
ドキドキは止まってないけど、私はキッっと目に力を込めてちょっと大きな声を出した。
お姉ちゃんのこと大好きだからほとんどのことは許しちゃうけど、こうして怒るときはちゃんと怒らなきゃ。
「悠里ちゃん……」
「大体、美奈お姉ちゃんはね……」
怒らなきゃって思ってるのに
「怒ってる顔もかわいー!」
「みゃぁあ!?」
またお姉ちゃんに抱きしめられちゃってそんな暇もなくなっちゃうのだった。
◆
「だから、今日悠里とは私が一緒に寝るの。あんたは出て行きなさいよ。ねぇ、悠里?」
「え、えっと~」
「なんで姉さんがそんなこと決めるの。悠里ちゃんは今日私と一緒に寝るの。ね、悠里ちゃん?」
「あ、あの……」
お風呂も入って、紗奈お姉ちゃんが作ってくれたお夕飯を食べて、宿題したりおねえちゃんとお話しなんかして後は寝るだけになった頃。
私はベッドの上で、大好きな二人のお姉ちゃんに片方ずつ腕をとられていた。
「どうせあんたは朝悠里のところに忍び込んでたんでしょ。なら、もういいじゃない。夜の悠里は私のもの」
「姉さんこそ、どうせ起こしに来た悠里ちゃんをベッドに連れ込んだんでしょ。そんな乱暴な姉さんに悠里ちゃんを預けらんない」
お姉ちゃんたちは普段は普通に仲がいいんだけど、私のことになると少し仲が悪くなる。私はお姉ちゃんたちのこと大好きだから二人にも仲良くしてもらいたいのに。
(もぅ~、お姉ちゃんたちは何で喧嘩なんてするんだろ?)
「大体今日あんたお風呂で悠里に何したのよ。悠里ってば、ゆでだこみたいに真っ赤上せちゃって」
「悠里ちゃんが姉さんにはさせてあげないこと。ね、悠里ちゃん」
「え、と……」
うぅぅ、お姉ちゃんが無理矢理したくせに~。けど、ここで言うと紗奈お姉ちゃんだけに味方するみたいになっちゃうし……あ、でも、否定しないとまるで私が美奈お姉ちゃんのほうが好きみたいに思われちゃうの?
「どうせ悠里がやだって言っても聞かないで無理矢理したんでしょ」
「違う。悠里ちゃんとちゃんと同意の上でよ」
「はいはい。ま、いいわよ。悠里とは二人だけの秘密があるものね」
「え……」
そ、それって、昼間のブラジャーのこと、だよね?
紗奈お姉ちゃんが約束を破るわけないってわかってるけど、さすがに血の気が引いちゃう。
……ここだけでの話、昼間のことだけじゃなくてどっちのお姉ちゃんとも恥ずかしくて知られたくないことは結構あるんだけど……
そんなのいえないよね。
色々ややこしくなっちゃいそうだし。
「そっちこそ。何勝手なこといってんの。悠里ちゃんがあたしに隠すようなことあるわけないじゃない」
「ま、好きに思っておけば」
というか、お姉ちゃんたちは話し合いするのはいいんだけど。
「とにかく悠里から手を離しなさいよ」
グイ、
「そっちこそ」
グイ、
私の手を離してよ~~。お姉ちゃんたちが話すたびにそっちに引っ張られて目が回っちゃう。
「離しなさいっての!」
「きゃ!?」
紗奈お姉ちゃんは今までより一番強く引いてきて私は紗奈お姉ちゃんの胸にぶつかちゃった。
お風呂上りの紗奈お姉ちゃんはオレンジみたいな甘くていい匂い。
「姉さんこそ!」
今度は美奈お姉ちゃんが引っ張って、美奈お姉ちゃんの体に引き込まれた。
美奈お姉ちゃんはお花みたいな心がふんわりしてくるような匂い。
紗奈お姉ちゃんの匂いも、美奈お姉ちゃんの匂いも大好きで抱きしめられるのももちろん好きなんだけど……
「もぅ~~~。お姉ちゃん!」
二人の間で行ったりきたりしてた私はちょっと頭にきて、しかるような声をだした。
「なに悠里?」
「どうしたの、悠里ちゃん?」
ピタってお姉ちゃんたちの引っ張る手が止まる。
「喧嘩しちゃだめっていつも言ってるでしょ。私はお姉ちゃんたちのこと大好きなんだから、喧嘩なんかされたら悲しいの。あんまり喧嘩するとお姉ちゃんたちのこと嫌いになっちゃうよ」
『う……』
二人を交互に見ると二人ともちょっとしゅんってなった。
もちろん、本気で嫌いになんかなるわけはない。でも、こういえばお姉ちゃんたちは言うことを聞いてくれるってわかってる。
「ごめん、悠里」
「悠里ちゃん、ごめんなさい」
ほら。
「今日は三人で一緒に寝よ。それならいいよね?」
「わかった。悠里がそうしたいいんだったらそうする。いいわよね美奈」
「悠里ちゃんの頼みなら聞かないわけないよ」
「えへへ、お姉ちゃん。大好き」
とりあえず丸く収まって安心した私は笑顔になった。
『っ~~』
「悠里!」
「悠里ちゃん!」
けど、安心したところにお姉ちゃんたちは左右から私のことを抱きしめてきて私はまた顔を真っ赤にする。
こうして私は今日も幸せだったけど、大好きなお姉ちゃん二人に困らせられちゃう一日が終わっていく。
明日も、明後日も困らせられちゃうのかもしれないけどお姉ちゃんが大好きな私はやっぱりこんな日々を幸せに思っていた。
◆
そして二人が寝静まった頃。
「……ん、ぅ…悠里……くぅ」
「……すぅ…悠里ちゃん……」
大好きなお姉ちゃんたちが私の横で幸せそうに寝息を立てている。
「ふふふ……」
私はそんなお姉ちゃんたちを交互に見つめて嬉しそうに笑いをこぼす。
二人とも半身になって私の方をむいてて、腕を片方ずつ体に押し付けてる。
(ほんと、可愛いんだから二人とも)
私はお姉ちゃんたちには見せない笑顔を作った。
お姉ちゃんたちってばほんとに可愛い。起きてても眠っていても大好きだけど、こんなに無防備に寝顔を見せられちゃったら……
(いたずらしたくなっちゃうよ)
「ん……ペロ……」
頭だけしか満足に動かせない私はまずは紗奈お姉ちゃんのほっぺを
「ふふ、ペロ……」
次に美奈お姉ちゃんのほっぺを交互に舌でくすぐった。
今日は紗奈お姉ちゃんからだったけど、たまたまなだけで美奈お姉ちゃんからのときもある。
けど、お姉ちゃんたちはぐっすり眠ってるから私がこんなことしてるなんて知らない。
どっちのお姉ちゃんにも内緒の私だけの秘密。
「……今日も可愛かったよ」
【私の】お姉ちゃん。
明日も、明後日も、ずーーっと可愛がってあげるからね。
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