第21話 勝利を掴む乳揉み

「あぶねぇっ! くそっ……これじゃ防げないぞ……」

 間一髪横に避けて回避した。液体だけを避ければいいが、そう簡単に避けられるものではなさそうだった。


 エンヴィールの足元には無数の小瓶が落ちており、まだまだ攻撃は出来そうだ。出店は酒関係の店だったらしい。


 しかし運がないな……俺に対抗する手段を持たずにここを襲撃したらしいが、まさかこの町に俺の弱点の一つが転がっているとは……


 俺の動きに合わせて移動しているアリンが不満そうに話しかけてきた。


「ちょっと! なんでそんな弱点持ってんのよ!」

「しょうがないじゃないか! そういうもんなんだから!」

「万能の盾だと思ったのに!」

「人を勝手に盾にするな! というか俺の盾としての信頼の高さはなんなんだよ! ってうわっ!」

 俺とアリンが口喧嘩する暇なんてなく、エンヴィールから放たれた容赦のない引火したアルコールが俺を襲う!


 とにかく走って避ける。だが逃げる訳にもいかず、エンヴィールを中心にして回るように走り、アリンと会話する。


「おいっ! これからどうする?」

「どうするって……私が隙を見て攻撃する! それしかないでしょ!」

「それしかないって……でも隙なんてなさそうだぞ!」

 エンヴィールは常に魔法を撃っているため、隙が無い。その魔力は魔石から供給されているからおそらくまだまだ出せるはずだ。


 挟み撃ちもダメ。盾投げ戦法もウォッカで迎撃されるからダメ。正直お手上げ状態だ。魔石一つでここまで強くなるとは思ってなかった。このままいけば俺達が疲弊して倒されるだけだ。なんとかしなきゃとは思っているが解決方法が思いつかない。


 するとアリンが急にエンヴィールに近付くように方向転換をする。


「隙は自分で作るのよっ!」

 アリンは素早く近場に落ちていた小瓶を二つ拾い上げると、そのままエンヴィールに向かって投げた。


「私に熱いのは効かないわよ! 見てわからないのかしら?」

 すぐに反応したエンヴィールが小瓶を魔法で割る。

 炎が広がり、その炎がエンヴィールにも届くが、痛くもかゆくもない様子だ。

 だがアリンの目的は小瓶に入った液体をぶつける事ではなかった。


「今度こそ! はぁ!」

 炎の奥からアリンが突撃する! 炎は視界を遮るためだった!

 エンヴィールがアリンに注目している今なら近づける! 俺もすかさずエンヴィールに近付く。


「ちぃ! 舐めるんじゃないわよ!」

 エンヴィールは両手を使い、まるで巨大な爆弾が爆発するような火力の魔法を近付いたアリンに放った!


「きゃあぁぁ!」

 アリンは吹き飛ばされる! 地面で転がり、その場から動けない様子だ!


 まずい……が、俺はすでにエンヴィールに近付いている! 今度は俺の攻撃だ!


「ちっ! こっちもか!」

 エンヴィールが俺に気が付いた時はすでに手が届く距離! やれる! 今なら!


「もらったぁっ!」

 俺の手はまっすぐ、迷いなく、一点に向かった。


 おっぱいに。


 もにゅ。もみもみもみ――

 ふむっ……やはり胸は良い。やや硬い感じのIカップ。だが弾力に定評のあるおっぱいだ。


「ほぉ……ナイスおっぱい。だが何度触ろうが熱いもんは熱い! 10点中6点のおっぱい! 点数据え置き!」

「これで二回目よ……この野郎!」

 エンヴィールに思いっきり蹴り飛ばされる! 前は常識的だったが、今回のはアリン並に重たい。


「ぐほっ!」

 そのまま吹き飛び、地面に転がる。


「まったく……何をしてくるかと思えば胸を触るとはね……頭が沸騰しているの?」

 前に食らってるはずだが今回も想定外らしかった。


 そしてエンヴィールは倒れている俺とアリンを見ると笑みを見せた。


「ふふっ。けどこれでおしまいみたいねぇ。種馬の娘と、変な能力の男……倒してもそんなに嬉しくないけど、楽しかったわ。さようなら」

 アリンは何とか動き、頭を上げエンヴィールを見る。しかしそれだけで、まともに立ち上がれもしない。


 エンヴィールは余裕そうにゆっくり俺とアリンに手を向けた。どうやら止めを刺すらしい。



 これで終わり……な、はずがない。だって俺はまだ動けるからな!



「くっくっくっ……あっはっはっ! 馬鹿め! まだ終わってないぞ!」



 すっ、と立ち上がり、エンヴィールに指を差す。


「倒れてたほうが楽よ!」

 エンヴィールは再び小瓶を投げ、魔法を放ってくる!


 ふっふっふっ……もうそんなの当たらん!

 俺はアリンのスピードを超える速さでエンヴィールの視界の外に回り込む。

 走っている最中はスローモーションのように見えていた。尋常ではないスピード感だ……炎を避けるなんて造作もない!


「はっ! な、何故そこに?」

 エンヴィールは俺を一度見失った。あまりの速さに追いつけていないようだ。


「ありゃ? おっぱいを揉んだのに魔力を失っていないようだな。あぁそういえば魔石を使っているんだったな」

 いままの経験から、おっぱいを揉んだら魔力がなくなるはずだ。だがエンヴィールはまだ元気に魔法を撃てている。おそらく魔石のおかげだろう。


 まだまだ魔力を使えるのはやっかいだが……いける!


 俺は冷静さと余裕を取り戻し、魔王っぽくかっこつけて話を続ける。


「そういえば俺の能力についてまだ知らない事あったな。いや、忘れていると言ったほうがいいな」

 俺も全部完璧に把握している訳ではないが。


「はぁ!? な、なんなのよ?」

 明らかに動揺した表情で俺を見る。


「おっぱいパワーだよ。おっぱいパワー。俺はな。おっぱいを揉むと無敵になるっ! 力が湧いてくるんだ! 無限の力がな!」

 力いっぱい、腕を振り上る! 俺のおっぱいパワーを見るがいい!


 おっぱいパワーのおかげで走れているし、おっぱいパワーのおかげでダメージもなく、元気だ!


「「はっ?」」

 エンヴィール。そしてアリンまで何言ってんのこの人みたいな表情で俺を見る。


「俺のおっぱいパワーを信じてないな! いいだろう! かかってこい! おまえにおっぱいパワーの本領を見せてやろう!」

 笑顔で手で招くポーズをして煽る。もうこうなったら勝てる気しかしない!


 エンヴィールは憎らしそうに俺を睨み、再び俺に手を向ける。


「ちっ……どんな魔法を使ったのかは知らないけど、高純度の魔石の力を借りた私が負けるはずないのよ!」

 ウォッカと魔法を同時が同時に放たれる。しかし俺には当たるはずもなく、ちょっと走るだけで火の粉も当たらない。


「そこっ!」

 エンヴィールは俺の動きを読んだようで俺が向かう場所に攻撃する。

 だが感覚が研ぎ澄まされている俺には通用しない! すぐさまそれも華麗に避ける。


「はぁ……なんなのよ! 何がおっぱいパワーよ! このっ!」

 ついには怒りだしたエンヴィール。低空飛行のまま、とにかく全方位に魔法を放ち始める。


 やけくそな攻撃だ。このまま見ていてもいいが、アリンに当たったら大変なので止めに行くことにした。

 俺はエンヴィールに向かってまっすぐ走る。全方位と言っても魔法なので俺には通じない。わかっていない訳ではないだろうが相当焦っているのだろう。


「くっくっくっ……おっぱいパワーの前には敵はいない! とうっ!」

 あっという間に少し浮いているエンヴィールに近付くと、手を掴む。おっぱいパワーさえあれば少し浮く事だって出来る!


「ちっ! 何を?」

「魔石は頂いていく!」

 手に持っていた魔石をひょいっと頂戴する。


「か、返せ!」

 エンヴィールは近くにいる俺になら当てられると思ったのか、急いで小瓶と魔法を俺に向かって投げた。


 もちろんそんな攻撃を食らってやる道理もないので素早く距離を開いてそれを避けた。


「これが魔石か……綺麗だな」

 指ぐらいの大きさの青い石だ。まるで磨いたように透き通っており、キラリと光っている。見た目は宝石と言ってもいいだろう。


 魔力とか俺には感じないが、確かに他の石ころとは何か違うモノを感じる。

 一応俺の目標はクリアした。魔石が手に入ればエンヴィールの事は正直どうでもいい。いや、どうでもいいっていうよりもせっかくのIカップを大切にしたいという気持ちと、俺には殺傷能力がある武器がないためこれ以上どうする事もできないという事情がある。殴り合いという手もあるかも知れないが、それだと万が一負ける可能性がある。


「ぐっ……私は魔王になるのよ……こんなところで躓くわけには……いかないのよっ!」

 エンヴィールは俺を憎たらしく見ながら両手で魔法を撃つ構えを見せた。


 しかし今までのように魔法は出てこなかった。ちょろっと小さい火が出るだけだ。明らかにガス欠。魔力不足だ。


「くっ……またか……」

 悔しそうに歯を食いしばる。


「やっぱり今までの力は魔石のおかげだったか。魔石ってすごいんだな」

 魔石による魔法の強化に随分手こずった。今度からは魔石を持つ奴には気を付けないと。


「こうなったら、戦略的撤退をっ……」

 エンヴィールは周りを見渡すと逃げ道を見つけたのか走って逃げ始めた。

 俺は目的の魔石も手に入ったし、走るたび揺れるおっぱいに視線が釘付けになっていたため動けない。

 だがアリンはそれを見逃す訳もなかった。アリンはふらふらしながらも剣を構え、エンヴィールに向かって跳躍する!


「逃がすかっ!」

 魔力がもうわずかもないエンヴィールは逃げる術がないらしい。目を見開き、アリンと対峙した。


「こ、こんな変な奴らに負けるなんて……絶対に――ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!」

 アリンは飛んだ勢いのまま一閃。腹部を切り裂く一振りが決まり、エンヴィールは膝から崩れた。


「こ、こんな事って……私は魔王に……」

 エンヴィールの体中から炎が発火し、体を焼き尽くし始めた。

 そのまま激しい炎が体を焦がしていき、最後は灰となって消えた。

 普通の人間では考えられない死に方だが、魔力がある肉体はこういう死に方もあるのだろう。


「魔王の手先、エンヴィール。討ち取らせてもらったわよ……」

 アリンはそう言うと大剣を背負った。


「おい、アリン。大丈夫か?」

 若干元気がなさそうに見えるが、しっかりと立っている。


「ええ……もう大丈夫だわ。無事に魔王の手先を倒せて良かった」

 アリンは安堵の表情を見せた。

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