第20話 弱点は突くもん

「魔石がなんだっていうんだ。俺に魔法は効かないぞ! それにおっぱいを揉んで強くなってやるからな!」

「はっ? 何を言っているのかしら? この魔法で口を塞いでやるわ!」

 エンヴィールはアリンに向かって炎の魔法を放つ! ギリギリの所でアリンの前に出られた。


 手を前に出して魔法を防ぐ! このまま耐えきってやる! と思ったが異変に気が付いた。いつもより熱く、力強かった。


 風圧が俺を押し出し、後ろにのけ反る! 魔法はどうにかなるが、風はどうにもならない! この前はこんなに強くなかったのに……エンヴィールとの距離を詰めなきゃおっぱいが揉めないのにここから動けない……これが魔石による魔法強化なのか!?


「ちょっと! エンヴィールとの距離を縮められないの?」

 アリンが急かす。しかし動けないのだから仕方ない。


「魔法が強くて前に行けないんだ! 多分魔石のせいだ」

 協力してエンヴィールを倒す作戦が早くも暗雲が立ち込める。俺が防御に徹し、アリンがエンヴィールを倒すなんて作戦を考えていたが、どうやらそう上手くはいかないらしい。


「くっ……あの魔法じゃ私も近づけないわよ」

「あっはっはっ! いつまでそうしてるつもり?」

 エンヴィールは愉快そうに魔法を撃ち続ける。


「こうなったら挟み撃ちだ。アリン、向こう側に行ってくれないか?」

 二人だからこそ出来る戦法を取るしかねぇ。どっちかが攻撃されている最中にフリーになった方で倒すしかない。ちなみに俺は胸を揉む事しか考えていない。


「しょうがないわねっ」

 アリンが初めてと言っていいくらいに素直に意見を聞いてくれた。

 俺が炎を無効化している最中にアリンは素早く反対側に向かい、挟撃の構えになった。エンヴィールは俺に注視しているためアリンに視線が向いていない!


「チャンスッ!」

 アリンが地面を蹴り、一瞬で接近する。

 行けるかっ? と期待した瞬間――


「気づいているわよっ!」

 エンヴィールがもう片方の手をアリンに向け、アリンの剣が届く前に激しい火炎がアリンを襲う!


 二人を同時に攻撃している! まさか両手で別の敵に魔法が撃てるとは……これも魔石の力なのか?


「うわっ!?」

 アリンは間一髪のところで大剣で防ぐ。アリンは後ろにジャンプし、エンヴィールと距離を取る。距離を取られると、火炎の球を放たれるがアリンはそれを避けていく。


 しかし距離は開いたままで一向に近付けない。結局攻撃がこない俺の背中まで戻ってきてしまった。


「無理無理! あんなの近づけない!」

 アリンが悔しそうな表情をしている。


「じゃあどうすれば……」

 困ったな。挟み撃ちもダメだとすれば他に何か手は……

 するとアリンは思い出したように口を開いた。


「あ、そうだ。元々私がしようとしていた事があったんだった!」

「ん? しようとしていた事?」

 そんな作戦言ってたか? と記憶を手繰り寄せていると、突然、アリンが俺の襟を掴んだ。


 嫌な予感がする。この襟を掴まれる感じ。憶えがある。確かあのとき俺は……

 アリンは襟を掴んだまま俺を持ち上げると、即座に横にジャンプした。

 一瞬ではあるが魔法が俺を捉えきれず、隙が生まれた

「うわっ!? また俺を盾に?!」

 そうだ。この感じ! 俺を盾にする気だ! やめてくれっ! 結構怖いんだぞ!


 するとアリンは何故か俺を背負うような形で後ろに持った。え? これから何を?


「これしかないっ! いっけぇぇっ!!」 

 アリンは勢いをつけて、俺を投げた。目標はもちろんエンヴィール。


「うわぁぁぁっ!」


 あの女やりやがった! 戦う前に俺を盾に使って、投げたりするとか言っていたが本当にやるとは!


 放射線を描いてエンヴィールに飛んでいる。このままいけばエンヴィールに近付けるが、それを見逃してくれる訳もなかった。


「ふふっ。そんな事で!」

 エンヴィールは焦る様子もなく、炎で迎撃した。


「ちょっ! いてっ!」

 魔法は防げたものの、その威力のせいで押し返され、その場で尻餅をついた。

 ケツが痛い……と思っていると、俺を乗り越えるようにアリンが跳躍した!


「はぁっ!」

 アリンは俺の影に隠れように接近していたためエンヴィールに気づかれずに接敵出来た!

 エンヴィールが手を向けようとした瞬間にはすでに大剣が届く距離だった!

 アリンはエンヴィールの頭部を狙い、大剣を横に振る!


「ちっ! バカな真似を!」

 エンヴィールは身体を大きく反らし、何とか剣先を避けた。

 エンヴィールは後ろに低空移動し距離を取った。アリンはさらに距離を詰めようと前に走るが、炎の魔法に邪魔され、身動き出来なかった。


「おしかったわ……もうちょっとだったのに……」

 アリンが考えた俺をぞんざい、アンド酷使する方法が一番上手く行っているのはとても受け入れられないが、それは事実なのだろう。嫌なもんは嫌だが……


「俺を投げる方法が上手くいくなんて……」

「さぁキョーブ。もう一度やるから来て!」

「はいはい……」

 不承不承に俺がアリンの目の前に立った。


「ちっ……ヘンテコな作戦だが厄介ね……何かないのかしら……あら? これは……」

 エンヴィールは何故か近場の小瓶を拾い、それをまじまじと見ていた。


 どうやらその小瓶はエンヴィールが移動した先にあった出店の品物だったらしい。木造の出店は燃えている最中だが、小瓶は溶ける事もなく残っていた。


「それじゃ。もう一回!」

 何故か嬉しそうな声色で俺の襟を持った。楽しんでないかこいつ……

 だがエンヴィールを見ると、さっきまで見ていた小瓶を開いていた。とても嫌な予感がする。このまま行ったらまずい気がする……

 もう投げる体勢になっているアリンに急いで話しかける。


「待った! なんか様子が変だ」

「えっ? 何?」

 アリンは理解していない様子だが、何とか動きは止めた。


 するとエンヴィールはおもむろに瓶の中に入っていた液体を俺達に向かってばらまいた! それと同時に魔法も放つ!

 俺はいつも通り右手を前に出し、防御の姿勢を取る。魔法は拡散して届かない。しかし――


「魔法は効かないって……って熱っ!?」

 突然俺の右手の袖口が燃え始めた! えっ!? もしかして俺の能力がなくなった!? と心配になったがそういう訳でもなさそうだ。

 魔法はいつも通り防げている。しかし何故か俺の服が急に燃え始めた。

 幸い手で叩いただけで火は消えたので軽傷だった。一体何故……

「えっ? なんで燃えてるの?」

 アリンは不思議そうに俺を見ている。


「知らない! いや……あっ、まさか! エンヴィールが持っているのってアルコールじゃないのか?」


 エンヴィールの姿を見て気が付いた。あの瓶の中身が俺の袖に当たって燃えたんだ。つまりあの瓶に入っている液体に引火して俺に掛かったんだ。それなら俺にダメージを与える事が出来る。そしてエンヴィールはそれが出来る事を知っているはずだ。


 するとエンヴィールは優位に立てた嬉しさからか笑顔で小瓶を振りながら応える。


「御名答。まぁこれはウォッカだけどね。あなた、魔法は与えられないけど、引火した物ならあなたに届く。そうよね?」

「そうなのキョーブ?」

 ついでにアリンも聞いてくる。


「……それがどうした?」

 ほぼそうです、と答えているようなもんだが、わざわざ弱点を言いたくもないのでそう言った。


「ふふふっ。私はついているわ。これは私が魔王になれと、運命がそう言っているに違いないわ! さぁ私の前で消し炭になりなさい!」

 エンヴィールは小瓶を拾い、投げると今度は炎の魔法の威力で瓶を割り、中身のアルコールが引火し、俺を襲う!

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