第18話 町も燃える
日が落ちる前に何とか森は脱出し、道がある開けた場所にたどり着く。道の先にはうっすらと月光に照らされている町の影が見えている。
アリンと俺達は町に向かう。アリンと話す事もなくここまでの道のりは静かなモノだった。
エンヴィールと倒すために共闘すると言ったものの辺りはもう暗い。もしかしたら今日は戦わないんじゃないかと思い、それを確かめるために話しかけた。
「アリン。もう暗いけどエンヴィールは今から倒しに行くのか?」
「そうよ。あいつはまだ遠くに行ってないはずだし、無駄に炎を身にまとっているから暗闇でもすぐに見つかるはずよ」
「まじか……こんな夜中に戦えるか?」
月光があるから何とか目的の場所に向かえているが、この暗い中で果たして戦えるのか不明だ。
「だったら共闘やめる? 私一人でいいんだけど?」
「やめはしないけど……」
ここでやめたら魔石手に入らなそうだし、ここはアリンに従って戦うしかないだろう。幸運にもおっぱいパワーが残っているのかまだまだ体は動きそうだ。
「ここで一旦休憩とるよりもたとえ不利な条件で戦う事になっても、早くあいつを倒す事が重要よ。エンヴィールを放っておいたら力なき民が犠牲になるわ」
「仕事熱心な騎士様だな」
人の話を聞かなかったり、男嫌いな所もあるが、一応騎士として人々の敵を倒す事には熱心ならしい。
そして次に話しておかなきゃならい事はどうやって戦うかだ。何も考えずに戦うっても負けるだけだろう。
「それでどうやって戦うかだが……」
「キョーブを盾に使って私がエンヴィールに近付いて倒す。それ以外何かある?」
こやつ……まだ俺を盾として使う方法しか考えてないぞ!
「いや、俺がエンヴィールと闘って、アリンはエンヴィールの味方を倒してくれ」
俺の問題はエンヴィール本人ではなく、その味方だろう。エンヴィールの魔法はどうにかなるはずだが、味方については俺だけではどうにもならない。アリンに頼るしかないだろう。
「エンヴィールに味方なんているの?」
「言ってなかったか? あいつに魔族の協力者がいてそいつのせいで俺が捕まったんだよ」
「ふ~ん。でも何が来たって私が蹴散らせばいいのよ。という訳で盾役お願いね」
アリンが自信たっぷりに言っている。それだけの実力はあるのだろう。
が、戦術だけは下の下だ。俺を盾として使うなんて勘弁してくれ。弱点も知られているから怖いんだよ!
「嫌だ! 俺にエンヴィールは任せてくれ! エンヴィールはおっぱい大きいし俺が適任だ!」
エンヴィールの良い所はIカップな所だ。そこだけは褒められるだろう。
「意味不明な理屈を言わないで! キョーブが良い盾になってくれれば全て私がなんとかするから!」
「いや待て! 第一俺が魔力吸うから盾として使えないんじゃなかったか?」
逃げる前に盾として俺を使っていたが、魔力が吸われるからと言って手を離したはずだ。つまり俺は盾として使えない!
「ちょっとの間なら大丈夫だから! それにヤバイと感じたら投げたり、飛ばしたりすればいいだけだし!」
「おいっ待て。まさか俺の使い方が投げたり飛ばしたりする前提だったのか!?」
「みんなのためなの! それくらい我慢しなさいよ!」
「我慢できるかっ! そんな事したらエンヴィールを倒す前に俺がどうにかなるだろうが!? 俺の耐久性についてまったく配慮がないんだが!?」
「大義のためなんだから仕方ないじゃない!」
「良くない!」
俺とアリンの口論はヒートアップしていく。俺を盾としてしか考えていないアリンに負ける訳にはいかない。
するとユリィが必死に絞り出した大声で口論を止めた。
「あのっ! キョーブさん!」
「ん? どうしたユリィ?」
ユリィは俺達の前方。町に向けて指を向けた。
「町の様子が変なんです」
「町?」
ユリィの真剣な様子に俺とアリンは口論を一旦止めて、町に視線を向ける。
「何か光ってんなぁ……なんか祭りでもやってるのかな?」
町に明るい火が灯っている。夜中だから余計に目立っている。やたらと燃えているからけっこう大きなお祭りかも知れない。
するとアリンが呆れた様子で俺を見た。
「バカッ! 町が燃えているのよ!」
「えっ!? 燃えてるのアレ!? 火事なの!?」
町が燃えてる!? 確かによく見ると大きな火が町を包んでいる!
「雷もないしあんなにすぐに火が回っている……エンヴィール! 間違いない。エンヴィールが原因よ!」
「エンヴィール……町を燃やしているのか?」
まさか魔石の次は町を襲っているのか!?
「早く行くわよ!」
「あ、ああ!」
突然の事で驚いたがエンヴィールが絡んでいるなら立ち止まっている暇はない。
俺達は急いで燃えている町に向かった。
町に近寄ると家が燃え盛っている様子が広がっていた。人々の悲鳴が飛び交っている。
住民は火の手がない場所に必死に逃げていた。俺達は逃げる住民達を尻目に町の中に進んでいく。
この先にエンヴィールがいるのだろう。だが、この惨状を見るとエンヴィールの脅威度は俺が思っている以上に高いのかも知れない。
すると逃げているおじさんが燃える町に突き進む俺達に向かって驚いた表情で話しかけてきた。
「おいっ! 炎の魔族が襲っているんだぞ! お前らも逃げろっ」
おじさんはそれだけ言い残すととっととその場を去った。
「やっぱりエンヴィールね……さてどこかしら……あそこね!」
アリンの視線の先。炎が吹き出し、あらゆる建物を燃やしている場所が見えた。炎や家が遮っているため何があるのかは見えないが、おそらくあそこにエンヴィールがいるのだろう。
アリンは俺達の事は気にする事なく一人で突き進んで行った。
「ちょっ! 一人で勝手に……」
倒壊する家を潜り抜けるように進んでいるアリンのスピードに追いつけるはずもなく、俺達は置いていかれている。
このままでは共闘しようと言ったのにも関わらず、アリンが一人で戦う事になる。
俺も急がなくては……と走り出した瞬間、後ろから悲鳴が聞こえた。
「きゃっ!?」
ユリィの声だ。どうやら建物の一部がユリィの前に落ちて来たらしく、それに驚いたらしい。
「ユリィ! 大丈夫か?」
見ると運が良い事にユリィは無傷の様子だ。
「は、はい。なんとか……」
ユリィはどれだけ戦えるのかはわからない。わからない以上、これ以上付き合わせる必要もないだろう。
「二人は逃げてくれ! エンヴィールは俺とアリンで何とかするから」
元々二人で戦う予定だったのだ。ユリィには逃げてもらおう。
「ここは致し方ないな……キョーブよ。すまないが二人に託す。無事にエンヴィールを討ち果たし、魔石を取って来てくれ」
鼻を上下させてバーストは言った。
「役に立てなくすみません……ですがキョーブさんならきっと倒せます! 遠くから祈ってます!」
「あぁ! じゃあな!」
ユリィとバーストが踵を返して、町の外に走って行った。俺はアリンを引き続き追い始めた。
もうアリンの姿は見えない。しかも次第に火の燃え上がりが勢いを増しており、不安を掻き立てる。
「くそ……どこだアリン……」
あのデカ乳なら10キロ離れていても目視出来る自信はあるが、この燃え上がる町では見つけるのは困難だ。
煙が喉奥に入りそうになり、ゲホゲホと咳をする。長居は出来ない……早くアリンを見つけなければ……
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