第13話 ユリィの昔話

 するとユリィが前方を指さして、口を開いた。

「あ、町につきました。あそこを抜ければすぐに採掘場につきますよ」

 バーストとの会話していたらいつの間にか町についていた。


 その町には木造の家が立ち並ぶ景色広がっていた。

 町とはいえ、道路は舗装されている訳ではなく、家も年月が経っている見た目だ。町の周辺には何かの農場が見えている。田舎町という感じだ。

 そして町に入った瞬間、何やら道端で口論しているような声が聞こえた。思わずその現場を見た。


「ふんっ、噂をすればなんとやらだ」

 バーストが呆れた様子になった。そこにいたのは大剣を背負っているアリンと太ったおじさんだった。


「アリン! アリンじゃないか!」

 その姿を見ると何故か嬉しくなった。


「な、なんで嬉しそうなんですか?」

 ユリィは不可解な面持ちで俺を見た。


「いやぁ。やはり良いおっぱいに育ったなぁと。良いオッパイと出会えて嬉しくなってさ」

「そ、そうですか……」

 若干引いているユリィを尻目にアリンのおっぱいに視線を向ける。


 どうらやらアリンと太った男が言い争いをしており、主にアリンが大声で責めている様子だ。


「どうして! 私を治す方法がないのよ!」

 治す? 何を? どこも怪我はしていない様子だが……


「分からないから治しようがないと言っているでしょう!」

 太った男がアリンの剣幕に気圧されて身を縮こませて、必死に言い返している。


「私の胸! どうして元に戻せないのよ!」

 おっぱいを戻すだと!? そんなもったいない事をしようとしているのか!?


「だってカップアッパー? とかいう魔法も知らないし、胸を大きくしたいという相談は受けた事はあるが、胸を小さくしたいとかいう相談は受けた事がない!」

 そうだ! 小さくするのは意味が不明だ! というかやっぱりカップアッパーとかいう魔法はマイナー魔法らしい。


「あんた何でも治す、治療魔法使えるんじゃないの!?」

「確かに私は治療薬やら魔法については詳しい! だが治せないものは治せない!」

 どうやらあの太った男はこの世界では優秀な医者らしいが、それでもおっぱいは元のサイズには戻せないらしい。


「じゃあ治す方法考えなさいよ!」

「無茶言わないでくれ! そんな金にならなそうな事を……」

「はぁ!?」

「ひぃ!? わ、私はこれから用事がありますので失礼します!」

 太った男はそこから逃げるように駆け足で離れた。俺達の横を通り過ぎる時に「やはりあの種馬の息子達は無茶苦茶なのばっかりだ……」と捨て台詞を吐いてそそくさとその場を去った。

 俺はアリンに向かって歩き出す。


「大剣少女。もとい、アリン」

 アリンは俺を見た瞬間、ますます眉間にシワが寄った。


「あぁっ!? あの男!?」

 アリンは乳を揺らしながらこっちに来ている。おそらくブラをしていないため揺れに制限がない。

 とても暖かい気持ちになった。ニコニコしながらその揺れを観察していると、あっという間にアリンに詰め寄られた。

 すると挨拶代わりといった感じで、胸倉を掴まれ持ち上げられた。


「良い所に来たわね! 私の言いたい事わかるでしょ? どうにか元に戻しなさいよ!」

「な、治す? 最高の形になったじゃないか! 元に戻すとかまったく意味がないっ! ぐえっ!」

 アリンは強引に揺らし始める。首が少し閉まり苦しい。


「何でもいいから治しなさいよ!」

「だからその方法は知らないって!」

「うぅ……ちくしょう!」

 揺らした勢いそのままに、俺を投げ飛ばした。3メートル離れた位置にいたユリィの隣まで飛ばされた。


 体が痛い……おっぱいパワーがないと普通に痛いな……

 アリンは少し涙目の瞳で俺をキッと睨み、踵を返した。


「こんな事している場合じゃないのに……治してやるんだからぁ!」

 アリンはその場から走り去って行った。

 ……何か用事でもあったのだろうか? でも助かった。あのままだともう一度戦うハメになっていたかもしれないからその手間が省けた。


「まったく、あのおっぱいが良いのに……何故わからないんだ?」

 あのおっぱいは最高だというのに元に戻すなど芸術をわかってないな。


「キョーブ。今はアリンの相手をすることでない。今は魔石回収を急ぐそ」

「わかってますよ。ユリィ。行こう」

「は、はい。では採掘場はこっちです」

 先導するユリィに付いていく。


 田舎町なのもあるだろうが、静かな場所だった。さっきのアリンの声がなくなると小鳥の鳴き声ぐらいしか聞こえない。


「ユリィ。この町、なんか静かだね」

「今は働きに出ている時間なので、町にはいないですね」

「そっか。じゃあ畑とか?」

「そうですね。それと採掘場に人がいると思います。さっき訪れた場所以外はまだモンスターは現れていないので」

「へぇ。詳しいねユリィ。この辺りに住んでいるから?」

 バーストの家とこの町はそんなに離れてはいない。だから詳しいのかも知れない。


「最近はたまにしか来ませんけど……ちょっと前までここに働きに来ていたんです」

「木彫りの仕事じゃなくて?」

「いえ、バーストさんに会う前の話ですね。これから向かう採掘場で働いていたんです……えっと、聞きたいですかこの話? あまり面白い話でもないんですけど……」

「うん。暇だしね」

 異世界の風景を楽しむのもいいけど、それだけじゃ飽きるからなぁ。


「そうですか。私はこことは他の場所で生活していたんですけど生活に困って、この町に男と偽って働き来たんです」

「男と偽って? 胸がないからバレないの?」

 可愛らしい服のせいもあるが見た目は完全に女の子だ。胸は小さいが。


「胸は関係ないです! この世界……いえ、魔族が働く技として結構よく方法で、バレても見逃される事が多いんです。若い男を募集しているけど働けば誰でもいいらしくて……」

「なるほど……」

「それでこの辺りの採掘場で働き始めて……とにかく大変でしたね。掘る事がメインなのでそればかりで、腕が辛くて……」

「その小柄な体で良く働けたね……」

 胸も何もかもちっこいこの少女がそんなガテン系の仕事をこなせていたとは到底思えないが……


「私は魔力が使える魔族なので、魔力に頼りながら仕事していたんです。足りない魔力は取った魔石からちょっと拝借させてもらいましたけど」

 魔力をこっそり魔石から貰っていた事を苦笑いで語るユリィ。


「魔力って便利だな。身体能力も上げるのか」

 すごい動きを見せたアリンも、恐らく魔力を使って身体能力を上げているのだろう。


「はい。普段は使ってないですけど」

「それでなんでバーストと木彫りをするようになったの?」

 まさかバーストの仕事の方が賃金が良かったとは思えないが、何か理由があるのだろうか?


「それは……お友達が仕事を辞めたからですね」

 ユリィは急に気分が落ちたようだ。良い記憶ではなさそうだ。


「あぁ、友達がいなくなったから」

「……キョーブさんに聞いてほしい事なんですけど。聞いてくれますか?」

 ユリィは真剣な表情で俺を見つめた。真面目な話が来ると思い身構える。


「あ、うん。聞くよ」

 そんなに見つめられると断る事も出来ない。


「ありがとうございます。採掘場で働いている時に出会った女友達がいたんです。その子は同じ年くらいで、ショートカットが似合う子でした。その子も男と偽って来ていたんですけど似たような境遇ですぐにお友達になったんです」

「似たもの同士の友達か」

「はい。あ、その子と出会ったのは監督って呼ばれていた魔族の人の計らいなんです。監督っていうのは作業員を仕切っていた人なんですけど、その人が優しい人で私が女って事を知っていて、女性だけのチームに入れてくれたんです。その時一緒のチームにいたのがお友達だったんです」

「監督のおかげで出会ったと。それでどうしてその友達は仕事を辞めたの?」


「それが……そのお友達、出会った時は元気だったんですけどだんだんと弱ってきて、ある日突然倒れたんです。倒れる直前まで笑顔を見せていたので私も安心していたんですけど、カラ元気だったようで……お友達には魔石の採掘場には合っていなかったようで病気になってしまって。それで監督に指示をしている人間に休ませるように頼んだんですけど、聞いてもらえなくて……このままでは死んじゃうと思って私がお友達を背負って逃げ出したんです。すると人間達が脱走している私達を探していたんです。その時は怖かったですけどなんとか逃げて森の中に入ったんです……採掘場から遠ざかったお友達はなんとか回復したんですけど、その後人間達に見つかって、最初は一緒に逃げていたんですけど途中で分かれてしまい、その後どうなったかはわかっていないんです。私は逃げ切って、その時にバーストさんに出会って今の私になったんです」

 ユリィは悲しい瞳で明後日方向を見つめながら語った。


「そうか……友達、元気だと良いね」

 そのお友達がどうなったかはわからないが、元気にしてほしいものだ。


「はい……その事件があって人間は魔族に対してひどい扱いをしている事に気が付いたんです。魔族融和政策とか言ってますけど、それは魔族をコキ使うための口実にすぎないんです……人間であるキョーブさんに文句言っている訳ではないんですけど……」

「人間と魔族……色々問題があるんだな」

 一見魔王がいない平和そうに見える世界ではあるが、種族の問題があるらしい。


「それで私、キョーブさんに期待しているんです!」

「えっ!? なんの期待? おっぱい関係なら期待してもらって構わないけど」

「魔法を避けるキョーブさんの技……あれは伝承で伝わる偉大な魔王の特性なんです!」

「えっ? そんなに凄いんですか? バーストさん?」

「ああ。あくまで伝承に過ぎないがな」

 おおっ! 何か知らんが凄い技なのはわかる! ありがとう女神様!


「だから私はキョーブさんが魔王になってくれたら世界が良い方向になるような気がするんです。魔族が安心して暮らせる世界を作ってくれる。そんな気がしているんです。勝手に期待しているだけなんですけど……」

「くっくっくっ……安心するがいい。俺はおっぱいに満ち溢れた世界を実現したいだけだ。おっぱいは豊穣と平等、それに平和の象徴だからな。俺はそれを尊重する世界を構築してやろう」

 すべてはおっぱいのためだ。そのために平和を作り上げてやろう。


「な、なんだかわかりませんが、期待させてもらいます! キョーブさん!」

 ユリィは期待に目を輝かせて俺を見る。

 その少女の純粋な瞳を見て、改めて爆乳楽園を構築をしなくてはいけないと思った。


「ああ! 俺が魔王になるまで期待しててくれ!」

「はい! 絶対魔王になってくださいね!」

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