第12話 恐ろしい種馬の子供達
「おぉい! モンスターが来たぞっ!」
後ろを振り向く、姿は見えないが知らない男の声がする。
「くっ、覚悟しておけっ!」
目を離した瞬間、エンヴィールが走り出し、通路へと逃げて行った。
「お、おいっ……行ったか……」
おっぱいでももう一度揉んでやろうかと考えたが逃げてしまった。
別に追うつもりもないから見送った。目的は魔石であり、エンヴィールをどうこうする事ではない。
「あ、あの……モンスターが来るらしいですよ」
後ろの方で見守っていたユリィが来た。
「ここには魔石はないようだ。行くぞ」
バーストが戻り道に走って向かう。ここにいたのは炎のおっぱいだけだったか……おっぱいがあっただけ収穫はあったといえよう。
俺とユリィはバーストを走って追いかけた。
戻り道。モンスターがいると誰かは言ってたが、なんの気配もない。来た時と同じでモンスターはいない。
外に出た。エンヴィールの姿はもう見えず、モンスターの警告をした男の姿もどこにもない。結局安全に外に出れてしまった。
「あれ? モンスターは? どこにもいないぞ?」
「ふんっ……どこにもおらぬな……」
バーストは鼻をひくひく動かして周りを見ているが、バーストも見つけられないらしい。
ところであの警告は一体誰からだったのだろうか? 何かを考えているユリィに話しかける。
「ユリィ。警告しに来た人を見た? どんな人だった?」
「え? あ、いえ……私も声だけしか……でも聞いた事あるような?」
「誰?」
「う~ん……すみません。思い出せません……」
勘違いというのもあるし、まぁいいか。
「そう……バーストさん。それで魔石はなかったですけど、他に当てはあるんですか?」
この場所には高純度の魔石はなかった。大量の魔力を抱えているであろうIカップの姉ちゃんがいただけだ。
「この辺りに高純度の魔石がある事は確かなはずだ。現に常に強大な魔力を感じる。ユリィ。この他に採掘場はないか?」
「ありますけど……そこはまだ人が居るはずです。行きますか?」
「人が居るか……だが見るだけ見てみよう。間違って人の手に渡ったら面倒だ。行くぞキョーブ」
バーストは迷ったが魔石を優先して他の採掘場に行くらしい。
「別にいいけですけど、人はどうするんです? 魔石を勝手に持ち帰るの難しくないですか?」
採掘場はおそらく勝手に掘っていい場所ではなく、土地の権利やら持っている人間のモノだから見張りもいるはずだし、簡単にはいかないだろう。一体どうするんだろうか?
「行ってから考えればよい。作戦を立てるには現地を見なければ……さぁ行こう。ユリィは道案内頼む」
「はい。わかりました。もう一個、採掘場が町の傍にあるのでそこに行きましょう」
バーストはユリィの肩に乗り、俺はユリィの背中を追うように歩いて行った。
森の中を進むと、開けた草原に出た。平らな道が続いている。
ようやくファンタジー感漂う空間にたどり着いたな、と少し感動を覚える。俺がどんな世界で暮らしていたのかはもうすでに記憶にないが、この風景は間違いなく俺が暮らしていた世界とはかけ離れた景色だろう。
するとバーストがユリィの肩に乗りながら体を反転させて、顔を俺に向けながら話しかけてきた。
「キョーブよ……貴様の能力について話しておきたい事がある」
「なんですかバーストさん? 俺のおっぱいパワーについての話ですか?」
「先ほどのエンヴィールの戦いを身近で観察し、理解したことがある。あくまで推測の話だが、貴様の能力は魔法が効かない事以外にもあるらしい」
「おっぱい、パワー?」
それしかないと思うんだけれども。しかしバーストはおっぱいパワーに関しては無視をして話しを続ける。
「キョーブがエンヴィールに触れた瞬間、エンヴィールは明らかに弱体化していた。あの弱まりは魔力が急激に下がった事で起きる現象だろう。強大な魔法を放つなどをしない限りは魔力は基本的に大量に外に出る事はない」
「……それは、つまり俺が魔力をなくしている?」
エンヴィールを触った瞬間に魔力が急激に減ったというなら原因は俺しかいない。
「いや奪っていると言ったほうが正しい。触れた後、キョーブ自身に魔力を感じたからな。何か心当たりはないか?」
「ないですよ。ただ俺はおっぱいを揉みたいっ! ただその一心でしたから……はっ! もしやオッパイモミタイ、という魔法があって無意識で発動していたのか?」
そんなエッチな魔法がこの世にあるのか!?
「……それはない。だが、無意識で何かやっているのは確かだ。キョーブには魔力を奪う能力があるのかも知れん。ただそれが何がトリガーになっているのかがわからん」
「接触する事じゃないんですか? 二人とも……あの……触ったようですし」
ユリィは恥ずかしそうに言い難そうにしている。おそらくおっぱいを触っていたと言いたかったのだろう。
「いや、我がキョーブを担いで家に帰宅した時があった。その時も我と接触したはずだが、さほど魔力は奪われてはいない。知らない内に奪われていたのかもしれないが、弱体化するほどは持っていかれていない」
「元々魔力がそんななかったんじゃないんですか?」
俺はバーストの能力は懐疑的だ。大剣少女にあっさり負けた所を見ているだけに、強い印象はほとんどない。
「失礼なっ! 我を見くびるでない!」
バーストが鋭い牙を見せて怒っている。だが見た目が小動物が故、そんなに怖くない。
「じゃあやっぱりおっぱいパワー。それしか考えられないですよ。バーストにはおっぱいがない。他の二人はおっぱいがあった。そして俺はおっぱいを揉んだ。証明終了」
やっぱりな。おっぱいパワーなんだ。
「くっ……いや、そんなはずは……もしや素手で触れていないからか? うむ……」
バーストは頭が痛そうに俯いた。いい加減おっぱいパワーを認めてもいいんじゃないか?
バーストは何とか顔上げて、話を続ける。
「……キョーブ。理論については後でいい。今はただ、魔法を弾く能力、それと魔力を奪う能力があるのを憶えてくれ」
「はいはい。魔法が効かないのと、おっぱいパワーがあるって事ですよね。よぉぉく理解しました」
バーストは俺の言葉にツッコミを入れる訳でもなく、真剣な眼差しで俺を見る。
「召喚で呼ばれた者の素性は聞いてはいけない決まりがある。故、キョーブが本当に記憶喪失なのかは我は追及しない。しかし、その能力……本当に身に覚えがないのか?」
迷う。確かに俺もびっくりの能力があるらしい。だけどこれは女神様から与えられた能力だ。
これから魔王になるって男が女神様から能力を与えられた! と言ったら、どんな反応が返ってくるだろうか? おそらくいい顔はしないはずだ。少なくとも俺のファンタジー知識がそう言っている。女神と魔王は大抵敵対同士だ。
ここは女神様については黙っておこう。そうしよう。
「……ないですよ」
「ふむっ……そうか。ならいい」
バーストは諦めたように瞳を閉じた。
あっ、おっぱいパワーの話で思い出した事があった。大剣少女についてだ。あの少女についてバーストは知っているようだったが、どんな人間なのだろうか? おっぱいも大きくしたし、気になる。
「そういえば、俺達に斬りかかって来た、あの元Dカップの……大剣背負った少女は誰なんですか?」
「むっ……あの剣士か。我も詳しい訳ではない。しかし有名人ではある」
「有名人? そんな有名なんですか?」
「正しくは最近有名な人間の一人だな。名前はアリンと言う」
「アリン……なんで有名人なんですか?」
元Dカップの大剣少女はアリンというのか。
「貴族の血族でもないのに異例のスピードで王国の騎士となった……一人だ」
「えっ、じゃあ他にもいるんですか?」
「あぁ、最近は異例の出世する人間が多い」
「人材不足でとかで?」
「いや、才能一つで這い上がって来た人間達だ」
「なんか……黄金世代って奴ですか?」
スポーツとかで才能のある若者が多い世代をそんな風に呼ぶ事があるけど、この世界でもありえるんだろうか?
「最近は凄まじい能力を持った青年が多い。これもあの種馬のせいだ……」
「種馬?」
「実はその才能を持った青年というのは皆同じ父親なんだ。例外なくな」
「同じ父親!? という事は腹違いの兄弟が多いのか……流石異世界」
つまりはその種馬はハーレムを築いたというのか!? 羨ま……けしからん。
「そしてその種馬……厄介な事に魔王を倒した英雄だ。つまり英雄の血を引く息子、娘が大量にいる」
「えぇ!? 英雄は死んだんじゃ……」
英雄が居ない事に安心していた魔王候補の俺だが、そうじゃないのか?
「確かにもう英雄はいない。しかし魔王討伐後、死ぬまで尋常じゃない性欲で子供を作り続けたそうな。そして出来たのが英雄の才能を引き継いでいる子供達だ」
「……それってやばくないですか。魔王的に! だって英雄のコピーみたいなのがこの世にいっぱいいるんでしょ!? 不利じゃないですか!?」
英雄の子供がどれほどの才能があるのかはまだ知らないが、少なくとも英雄に匹敵する可能性がある人間が大量にいるって事だ。
「そうだな……あまり好ましくない状況だ。だが、アリンもその英雄の子供の一人。そのアリンを退けたお前ならなんとかなると思うが?」
「そうか、アリンも英雄の娘。ならなんとかなる……のか?」
疑問ではある。おっぱいがあれば勝ち目はあるが……
「なるはずだ。それに流石に英雄の子供達とは言え、父親並みの才能はいないらしいから安心するがいい」
「そうですか……でも要注意人物が多いってのはわかりました。というか、前任の魔王が倒されてだいぶ経っているんですね」
「ああ……もう20年は経っている……我も魔王復活に色々尽力していたな……」
バーストを過去を思い出すように遠い目をしていた。
魔王不在で20年経っているのか。エンヴィールみたいなのがいるなら魔王になりたい奴なら多いはずだ。それでも20年いなかったという事は魔王になるにはそれほどまで難しいという事なのか……
バーストが思い出したように話を続ける。
「そういえば、聞いた話ではアリンは重度の男嫌いだそうだ」
「あぁ……なんとなくそんな気はしてました」
男は信用出来ないっ! とかなんとか言ってたが、予想通り男嫌いらしい。
「その男嫌いは有名になるほど嫌いで、原因は種馬にあるらしいが……詳しい事は知らん」
「ふ~ん、英雄のせいで男嫌いと……」
まぁ、この世界的には英雄で称えられる存在かも知れないが、良い父親ではなかったのかも知れない。
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