第10話 魔石は洞窟の中にある。はず!

 土の匂いが鼻を通り抜けると共に目覚めた。

 透き通るような空。鳥っぽい鳴き声と、涼しい風が流れる森の中。これが普通の家の中で感じたら心地よいと思ったかもしれないが、俺が目覚めたのは野ざらしのただの地面。正直不機嫌だ。


 布団も何もないため土の上で寝た。初めての体験だったが、何故人間が布団を発明したかを身をもって知った。

 夜の森は冷たく、聞いた事もない鳴き声や、地を這う謎の虫に恐怖しながら寝るのは至難の業だった。ほぼ気絶するように寝た。

 他の二人も土の上で寝た。バーストは見た目小動物だから心配してないが、ユリィは少し可哀そうに感じた。寝る前にここで寝るのは大丈夫か? と聞いたが慣れているから大丈夫。と言っていた。どうやらユリィはあまり良い生活は送っていなかったらしい。


 疲れが残っている体を何とか起こして、立ち上がった。体中がバキバキと軋んでいる。


 肩を回すなど、柔軟体操をしながら辺りを見渡すと、すでにユリィとバーストは起きていた。


「あ、おはようございます。キョーブさん」

「ふんっ、目覚めたか……」

 挨拶してきた二人。よく見ると何か食べてた。


「おはよう……何食べてるの」

「あっ! キョーブさんも食べてください」

 ユリィに手渡されたそれは芋のような食べ物だった。


「芋?」

「はい。これ家の中で貯蔵していたんですけど、家が燃えた時良い感じに焼かれたみたいです。もう冷えちゃったですけど食べれるので食べちゃいましょう」


 昨日の火事でどうやら焼き芋が出来たらしい。もう冷めているが鼻を近づけると香ばしい良い匂いはしている。

 芋が置かれている場所を見ると、数個の芋が積みあがっている。あれ全部焼き芋になったのか……


「我が貯蔵庫の品だが、旅に出るのには重すぎる持ち物だ。食べるだけ食べておけ。そこの焼け残っているタルの中に水が入ってる。木彫りで使う予定だったがもう必要あるまい」

「そうですか……じゃあさっそく。いただきます」

 ぱくっ、と食べてみるとパサパサしていて、味も旨いとは言えないが、腹が減っているのか食べるスピードは速かった。

 3人の食事が終わると丁度食べられる芋がなくなった。芋を食べたのは俺が一番多かっただろう、ユリィは小食で、バーストは小動物なのでさほど多くは食べられなかったらしい。


「さてと、それでどこに……えっと、すごい魔石? があるんですか?」

 バーストに昨日聞いた魔石について聞いてみる。それがどんなものかはわからないが、魔王になるために必須な石らしい。


「高純度の魔石だ。今日からそれを探す旅になる。覚悟せよ」

「それってどこにあるんですか? まさか遠いんですか?」

 遠いのは面倒だ。モンスターとかうじゃうじゃいそうだし、出来るだけ楽に魔王になりたいもんだけど……


「遠いのもあるが……かなり近いポイントに高純度の魔石があると聞いた事がある」

「そんな近い場所にあるんですか?」

「魔石採掘場。そこにある」

 魔石採掘場……いかにも魔石がありそうな場所だ。


「町の近くにある場所です。遠くはないですよ」

 ユリィも知っているらしい。町の近くか……異世界の町も気になるな。


「ふ~ん。じゃあ魔王になるために早速行こう!」

「はい。私が道を知っているので付いて来てください」

 ユリィは肩にバーストを乗せて、森の中を歩き始めた。俺はそれに付いていく。



「ここです。この場所が魔石採掘場です」

 ユリィに連れられて採掘場にたどり着いた。本当に近くて、20分程度でたどり着いた。


「魔石採掘場か……案外静かな場所だね」

 森の中と言っていい場所だ。誰の気配もせず、何の看板も建物もない。小さな山のふもとに数人が行き来出来る穴が開いているだけだ。木で出来た入口が頼りなくそこにある。


「ここは小規模な場所ですからね……このような場所が世界各地あるんですよ」

「それでここに高純度の魔石があるんですか? バーストさん?」

「そうだな……ここに高純度の魔石があると聞く」

「でもそんなすごい魔石ならもう取られてたりするんじゃないんですか?」

 ここは採掘場だ。魔石を取っていたなら高純度魔石なんて真っ先に取って行きそうだが。


「かもしれんな……」

「まじですか? ない可能性があるんですか!?」

 なかったら来た意味がない。徒労で終わる可能性があるのか……


「でも、ある可能性の方がありますよ。この辺り採掘場は魔石もさほど取れず、モンスターも寄って来たので、廃棄された採掘場が多いんです。それに一際輝く魔石を発見したけどモンスターが現れて取れなかったって話を聞きます」

 ユリィが説明している。


「へぇ。それじゃその魔石を頂いて……って! モンスターがいるの!? おっぱいがないモンスターに勝てる気がしないんだけど!?」

 おっぱいパワーが得られないなんて俺に勝ち目がないじゃん! スライムにも勝てなかった俺だぞ!


「勝てるか勝てないかはおっぱいがあるか、ないかなんですね……」

 ユリィが何とも言えない感じで苦笑する。するとバーストが口を開く。


「安心するがいい。ユリィには我が授けた魔法がある」

「えっ? ユリィは戦えるの?」

「はい。モンスターなら何とか戦えますよ」

「それならいいけども……」

 ユリィは実は戦えるらしい。どの程度強いのかはわからないが、今は頼りにするしかない。


「むっ? あれは……」

 バーストが採掘場の穴を見ながら何かに気が付いたらしい。


「何かありました?」

「松明に火が灯してある。誰かがもう入っているらしい」

 見ると、穴の壁に取り付けてある松明に火が灯っていて、暗闇に光が広がっている。

 確かに誰かがこの穴に入っているらしい。ここに来るまでに人に出会う事はなかったから今まさに誰かがいる可能性がある。


「誰かもういるんでしょうか? でもこの辺りの採掘場はもう人はいないはずですか……」

 ユリィ不思議そうに採掘場を見ている。


「はっ! もしや俺達の目的と一緒で、誰かが高純度魔石を取りに?」

 競争相手がいるのかも知れない! 誰かはわからんが魔石は奪われる訳にはいかない!


「ふむっ……それはやっかいかも知れんな……」

「早く! 早く行かないと! 魔王が遠のく……爆乳楽園が遠くに! 今すぐ行こう!」

 俺の目指す爆乳楽園が遠のくと思い気持ちが焦る。早く行かなければ爆乳が逃げる!


 そう思うと足が勝手に動いていた。穴の中にモンスターが居ようとも俺は行かなければいけない! 全てはおっぱいのために!


 俺は穴に向かって駆け出した。すると突然――


 ドンッ――と、大きな地響きが穴の中から聞こえた。音の恐怖で俺の足は止まった。


「うおっ!? な、なんだ?」

「中に入っている者が何かしたんだろう。おそらくモンスターか何かと闘っている」

 もう人が居るのは確定らしいな……だがそれはそれで助かるかもしれない。


「げっ! でもそいつがモンスターを追い払ってくれるかもしれないから、そいつの後を付いていけばいいんじゃないですか!」

 進んでモンスター退治をしてくれているなら、俺達がモンスターに怯える必要がなくなるという事だ。

 するとバーストが納得したように頷いた後、話始めた。


「好機か……もしも魔石を手に入れていたとしてもそれを拝借すればよい。うむ、良いかも知れない」

 拝借……出来るかはわからないが、とりあえずモンスターの脅威がない今しかないな。


「よしっ、行こう!」

 俺が一歩踏み出した瞬間ユリィが言葉で制した。


「待ってください! 誰かが来ます」

 ここに入った人間だろうか? 高純度の魔石を持って出てきたらどうしよう……


「隠れろっ」

 バーストの言う通り俺達が大きな木材の後ろに急いで隠れる。隠れつつ顔を少しだして、採掘場の穴を注意深く監視した。

 すると男が穴からゆっくり歩いて出てきた。見た目普通の成人した男だ。服装はよれよれの長ズボンに長袖。人と違うのは額辺りから大きな角のようなものが出ている。恐らく人間ではなく、魔族側の人間だろう。


「あの人は……」

 ユリィが出てきた人間に何かを感じららしい。知っている人間だろうか?

 その人が、俺達に気が付く事もなくその場から離れて行った。


「まさか、あの人が魔石を持った行ったのか?」

 あの角の人は手ぶらで、何か持っている訳でもなさそう。だが高純度の魔石はさほど大きい訳でもなさそうだから隠し持っているかも知れない。


「違うな、それほどの魔力は感じない。まだあの中にあるのかもしれない」

 バーストが視線を採掘場に戻す。


「ユリィ。今の誰だか知ってる?」

「はい。採掘場で働いていた人です」

「ふ~ん……働いていた人ならここに居ても不思議ではない……のか?」

 モンスターが現れたから採掘場から撤退したとかいう話だったが、なんの用だったんだろうか?


「おいっ、他人が高純度の魔石を狙っているのかも知れない。我に続け」

 バーストがユリィの肩から降りて、穴に向かって駆けている。


「待ってくださいバーストさん! ユリィも行こう」

「は、はい」

 足が速い小動物の後を俺とユリィが必死に追った。


 穴に入ると、湿った土の匂いが通り抜ける。おそらく崩落を防ぐためにある木材で補強されている壁と天井。しかしその補強もどこか雑さが感じられ、不安にさせる。

 普通に怖い。この世界の坑道の恐ろしさは理解していないが、安全ではない事は見て分かる。

 しかし、モンスターの気配がないのと、坑道の松明に火が灯っている事で多少は安心出来た。


 坑道は水平の一本道だ。バーストが小さな体を動かして先頭を歩いている。俺とユリィがそれに付いていっている。

 するとユリィが不思議そうに辺りを見ていた。


「この坑道……暖かいような……」

「えっ? あ、そういえばあったかい……洞窟の中ってこんな温度なの?」

 むあっ、とした熱気を感じる。それは松明からではなく坑道の奥から流れてくる感じだ。洞窟って寒いイメージがあったが違うのかな?

 

「いえ、そんなはずはないですが……」

 ユリィに否定される。じゃあこの熱気はいったい……


 すると木の補強が途切れている場所に到達する。そこを超えると開けた場所にたどり着いた。

 松明が途切れており、奥が良く見えないため憶測だが、半径15メートル程度はある空間だろう。


 目的の物のために掘ったが存在せず、そこから先は放棄されたような場所。どうやらここでこの坑道は終わりのようだ。

 突然、最奥から熱風が吹いてくる。それは一瞬だったが強風で、押し戻そうとするほどの圧を持っていた。


「なんだ?」

 どさっ、とその風で何かが飛んできた。俺の目の前でそれが止まった。


「うわっ!? モンスター!?」

 飛んできたのは大きなクモだった。モンスターだと一瞬でわかるほどの大きさで、人の胸元に届くほどの高さだ。初めての見た目が恐ろしいモンスターで少し逃げ腰になる。


 だがもうそのクモは動いておらず、どうやら死んでいるようだ。体が燃えており、焼死したらしい。一体何が……


「むっ貴様はっ!」

 先頭にいたバーストが奥に誰かいる事に気が付いたらしい。モンスターか? 毛を逆立てている。


 奥を見ると火が動いている。ように見えるだけで、よく見るとそれは人の形をしていて――


「あら。その姿……あぁ、わかった。バーストじゃない。何かあったの?」

「えっ、エンヴィール……」

 バーストの家を燃やしたエンヴィールだった。今までの熱風とかの原因がこの人か。

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