第3話 創造主と世界の仕組み:下(説明回)

神は、二種類の<世界>を創造することができる。

まずは、自分の管理する『銀河』の創造。


創造主の行使できる力は無限だが、使えるエネルギーは有限だ。

一度創造した世界、特に銀河に、あとで修正を加えるには、初期創造とは比べ物にならないエネルギーが必要となる。

いっそのこと全部消して最初から作り直した方が、はるかにコストカットとなる。

現実的に創造主ができるのは、初期配置及び初期設定、そしてスタートボタンとリセットボタンを押すことだけだ。


例に例えるなら、ビリヤード台の上にボールを並べ、ブレイクショットを撃つまでが、創造主の出来る範囲だ。 

その結果、球がどう転がり、他の球に干渉し、いくつポケットに落ちるのか、予測は出来るが、結果は成り行きに任せるしかない。

転がるボールに手を当てて、ポケットに誘導するなどとんでもないことなのだ。


関与できることといえば、『使徒』と定めた者に神託と少しの力を与え、間接的に影響力を行使することぐらい。

使徒に任命できるのは、その星に住む生命体だけという縛りもあり、神託を授けるにも力を行使する必要があるため、その回数には限りがある。


ちなみに、ヒトが住む地球という星にはすでに二度も使徒を派遣しているが、その権威を利用しようとした人々の間で宗教対立が激しくなっただけで、効果的な結果は未だ残せていない。


何が問題になったか。

ヒトという種族のほとんどは、知性向上に伴い肥大化した己の欲望を、コントロールする事ができなかったのだ。


動物は環境に適応し、自らを進化させる。 

しかしヒトは、知恵を進化させ環境を変化させる。


知性は欲求より生まれ、欲望を叶えるために発展していく。

ヒトはどの生物より欲望に忠実であり貪欲で、欲望を満たすため多種多様な生物を滅ぼし、生物の生態系ピラミッドを歪に作り替え、挙句には同族で争い共に滅んでいった。


精神エネルギーは基本的に、生物が生を全うすることで、より多くを回収できる。

しかし、食物連鎖によって途中で散ってしまう命が圧倒的多数な事も確かだ。

生物が生きるために他の生物を補食するのは、システムとして当然だ。

その場合、捕食された分の精神エネルギーは、捕食者に吸収され後に還元される。

捕食者である高位の生命体が生を全うすることで還元される量を考えれば、充分にバランスは取れている。


だが、無闇な殺戮によって途中で散ってしまった生物からは、大した量は回収できないのだ。

ましてや、生きるためではなく欲望のために、次々と種族を滅亡させてしまうなど言語道断である。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



創造主が作り出せるもう一つの<世界>。

創造した『銀河』のパーツを使い、異なった時の流れの中で組み立てる疑似世界。

いわゆる『箱庭世界』である。


さらに、その2つの『世界』のほか、自らの生み出した膨大な異次元空間に、自らの管理する銀河にて過去に生み出した、全種類の生命体を一定数保管する『保管庫』のようなものを持っている。

『箱庭世界』の生命体は全て、ここから補給され配置される。

そしてそれぞれの世界に配置されるとき、原子レベルの再構成を施され、設定された環境に適応した生命体として定着する。


ヒトの発生に気をよくした創造主が、この先、力をいくらでも得ることが出来ると調子に乗って、自らが今蓄えている力の限界まで使い、疑似世界を濫造した時期があった。


創造主はこの疑似世界を使い、己が作り上世界が更なる繁栄をもたらすための方法を模索していた。

そして幾度にも及ぶシミュレートの結果わかったのが、いずれ人類は滅びるという皮肉な結果だった。


箱庭世界の多くは、ヒトを中心とした世界作りを模索した結果、失敗の末破棄したり、上手く生命体が定着しないまま消滅を迎え、今や現存している箱庭世界は3つにまで減っていた。


遣わされた『神の使徒』がいくら頑張ってみても、あとに残るのはいつも、せいぜい微生物ぐらいしか生き残ることができなくなった、壊れた星と多くの骸だけ。

時の流れが異なる疑似世界がもたらすのは、決まってこの結末ばかりだった。


突然の地磁気変換により電子機器が暴走し、世界単位の核戦争が起こって星が消滅なんてのまであったが、それ以外で星の寿命が尽きるまで生命体が生き残れた例を生み出す事はついぞなかった。


「ヒトはやはり欠陥品なのだろうか・・・」

創造主はそうつぶやいた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『箱庭世界』は、環境の設定が容易であり、中途介入のハードルも低い。

また、新しいを『世界』創造する目安とするための実験場的な意味合いも持つため、それぞれに現実世界とは違った、いくつかの特色を持たせたりもできる。


その代わりに、そこから得られる「力」は従来の0.0001%以下と言うデメリットがある上、箱庭世界において発生・進化した生物を、保存庫に保管することもできない。


この世界は、あくまで疑似空間なのだ。


しかしながら、世界の維持にかかるコストは現実世界と同等なのだから、むやみやたらと増やす訳にも行かない。

一つの『世界』を覗くにも、干渉するにも、力は消費されるのだから。


『彼』から見れば、そこに住む生命体たちは、ケージで飼われてるペットのようなものだろう。

しかし、そこに住む多くの生命体にとっては、この地こそが自分たちの住む『世界』であることに変わりはない。


そのうちの一つ、創造主が一番新しく作った『世界』である『フィフス』。 


とある理由により『創造主』はこの世界を、最初から失敗であるとしてずっと放置していた。

自らの最大の発明品である「ヒト」が繁栄するには、過酷すぎる世界だと思っていたからだ。


いくら疑似世界とは言え、『世界』の創造と消去にはかなりの力を使う。

もはや、失敗したからと気楽にリセットボタンは押せるだけの余裕は無い。


今後の見通しに暗雲が立ちこめた今、これ以上力の無駄遣いをする訳にはいかなかくなってしまったのが、フィフスが消去されずに残れた大きな理由だろう。


長い年月放置し続けた今となっては、生命体がどんな進化を遂げ生態系を形作っているのか、それすらもわからない。

しかし、ヒトが思いのほか扱いにくい生命体だと知った今、この過酷な世界でヒトがどうなっているのか、今更ながらに興味が湧いた。


久しぶりに覗いて見た『箱庭世界』。

そこには、意外な結果が待ち受けていた。


『創造主』は、この『箱庭世界』の中にこそ、理想世界創造のカギがあるのではないかと思うのであった。

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