第2話 創造主と世界の仕組み:上(説明回)
人は『それ』を、創造主もしくは神と呼んだ。
誰も会った事が無いのに、人はその存在をなぜか確信し、深く深く崇めていた。
人々がそう信じているように、『それ』が出来る事は全能に近い。
しかし『それ』が力を振るうには明確なルールが存在した。
創造主はその名の通り、天地を創造する。 詳しくは、一柱の神が一つの銀河を作り上げている。
銀河創造にて創造主が求めたるは、生命体を作ること。
究極の目標は、自分たちに限りなく近い精神生命体もしくは知的生命体を生み出すことにあった。
生命体の発する精神エネルギーは、大地に流れる龍脈を通じて創造主へと流れ、創造主が行使できる『力』へと変換される。
そして蓄えられた『力』は、創造主が『奇跡』を行使したり、新たな天地を創造するためのエネルギー源となる。
更に言うなら、新たな銀河を創造させる新しい創造主を生み出すのも、膨大に集まった精神エネルギーのなせる技である。
しかし創造主がその存在を維持しつつ、過不足なく『奇跡』を行使するには、とてつもない保有エネルギーが必要となるのだ。
そのため多くの創造主は、一定の力を蓄えるまでは力の行使どころか活動すらせずに、休眠状態に入っている事がほとんどだ。
数千年を眠り続けることなど、不滅の存在である創造主たちからすれば、つかの間のうたた寝に過ぎないのだ。
その星に住む生命体が『銀河系』と呼ぶ恒星及び惑星群を管轄する『創造主』は、奇跡と偶然が生みだした、高い知性と精神エネルギーを持つ『人類』の価値に歓喜した。
『精神』とは、意志を持つエネルギー。
ヒトの思考も感情も、精神からの指示を受け発せられた電気信号と、化学反応による反射が生み出す産物に過ぎない。
経験や記憶による情報のパーツは、断片化され脳内の細胞に記録・保存される。
そして、そのパーツの組み合わせによって創造力が生まれ、思考が発達していく。
全ての生命体は、より優秀な次代を産み育て、繁栄することを目的とする。
その為の手段として、生まれ出る時から細胞に記憶された『本能』と言う情報を持つ。
ありとあらゆる生命体は『本能』と言う命令に従い、生まれ育って死んでいく。
ならば、その命令は一体どこから来ているのか。
それを与える事が創造主の一番重要な仕事であり、生命体が生を全うすることによって増幅され還元される精神の力を吸い上げるのが、創造主の目的である。
当初、様々な環境の変化や進化を経て『ヒト』が発生した時、『創造主』は彼らもすぐに絶滅するだろうと思っていた。
生物は、生物としての基礎値(基礎パラメーター)と成長値(成長時加算ポイント)を持つ。
ヒト種はその基礎値はともかく、成長値の偏りが異常であった。
生命力・筋力・耐久力・瞬発力・知力。
ヒト種はこの5つのパラメーターのうち、知力だけに極振りしたような成長値を持っていた。
知力だけに突出した分、他の成長値が低くなっている。
それは、裏を返せば生命体として非常に貧弱であることを示唆していた。
身体能力や生物としての頑強さは、同属の小型霊長類にすら遥かに劣る。
そのためヒトは生物的に弱者に振り分けられ、発情期などの繁殖制限からも除外された。
弱者は他の生物にとって捕食対象でもあるため、多く生まれる事が望まれるのだ。
しかしヒトは、知恵と道具を使うことにより、圧倒的な身体的不利をも覆し、あっという間に生物の頂点へと上り詰めてしまった。
そして何よりの嬉しい誤算が、高い知能と好奇心によって生み出される、他の生物とは一線を画すほどの放出精神エネルギー量だ。
精神エネルギーは、生を全うすることによって蓄積されたエネルギーが還元される仕組みとなっている。
だが、存命中にも常に放出される精神エネルギーがある。
神はそれを『感情エネルギー』と呼んだ。
生存時に放出される感情エネルギー量が一番多い感情は、信仰・祈り・恐怖の順になる。
単純な知性や精神を持つ生命体も本能的な畏怖や崇拝心を持つが、ヒトの持つそれは、他の生物とは比べ物にならないものであった。
「創造主」はこれを最大の成功例として大事に育て、他の創造主たちにも広く認知させるべく、複数の疑似世界を用いて、今後の行く末を様々なパターンでシミュレートを行った。
だがしかし、ヒトには致命的な弱点があることを後に思い知ることになる。
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