第3話 霊験
そのカヒが七つを数える頃、奇異な出来事があった。
それは油菜の咲く候。
朝方、幼子たちが戯れているところに大鷹が舞い降り、童女をひとり拐った。
知らせを受け、族長はすぐに男衆を集めて大鷹が飛び去った方面をできるかぎり捜索させた。
しかし容易く見つかろうはずもなく、誰しもがその顔に悲嘆と諦めを滲ませた。
すると日が南天に差し掛かる頃、今度はカヒが屋敷からふつと消えた。
声を持たぬカヒが付き添いもなく家を出たことなどそれまでになかったことだ。
養子の名目とはいえ、将来の族長候補である。
よもや神隠しと慌てた女たちが辺りを探し回ると、日暮れになってようやく見つかった。
そのときカヒはひとり水神の池のほとりにたたずみ、ただ静かに茜色の空を映す水面を眺めていたという。
そして、その見つめる先には不明の童女が浮かんでいたのだった。
引き上げられた童女には息があり、そのまま三日三晩眠り続けたものの、やがて不意に起き上がり腹が減ったと呟いた。
しかもその体にはあるべきはずの大鷹の爪痕はおろか擦り傷ひとつなかった。
大人たちは誰しも首を捻り、問うた。
すると童女は拙い言葉でこう話したという。
高い樹の上で泣いていると翼を持つ真っ白な大蛇が現れてその背に乗せてくれたのだ、と。
伝え聞いた族長の肌は泡立った。
白い蛇との交わり。
鼓膜に娘の言葉を蘇らせた族長は、カヒを戦慄のまなざしでしばし見つめた。
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