第2話  秘匿

 

 カヒは声を持たなかった。

 産声さえも上げなかった。

 三つを過ぎて、ひとつとして言葉はなく、けれどいつも穏やかな笑みをたたえていた。

 当初、族長は娘の死を悼みながらも、この素性の明らかでない幼子を持て余し、秘かに遠縁の集落へ流そうと考えていた。

 けれど時を経るにつれ、日々向けられるカヒのやわらかな微笑に、またその娘の面影に不憫を覚えた族長の決意は揺らいだ。

 かくして彼は親交のある部落からもらい受けた養子ということにして、カヒを家に留め置いた。

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