召命

那智 風太郎

第1話  降臨

 

 いにしえの集落に一人の男児が生まれた。


 その透けるように白い肌の赤子はカヒと名付けられ、産み落とした女は日ならずして死んだ。

 女は巫女、そして族長のひとり娘であった。

 晩秋の夕暮れ、娘は水神を祀る池のほとりで祈祷をしていた。

 するとそのとき淵から霞を纏った白い大蛇が現れ躰に絡み、ついには胎に潜って消えたのだという。

 やがて娘は懐妊し、父母にその顛末を打ち明けた。

 族長は信じなかった。大蛇など偽言で、おそらく相手は流れ者に違いない。

 彼はその不祥事の露見を恐れ、人目に触れぬよう娘を母家に囲い、そして臨月を待った。

 しかし奇妙なことに娘の腹がはち切れんばかりに膨れて三月が経っても、いっこうに産まれる気配がない。

 そのうちに娘は疲れ果てて、ついには立つことすらままならなくなった。

 そして初冬。

 ある宵のこと、物見櫓に立つ若衆のひとりが奇怪な星があると声を上げた。

 見上げると砂粒を散りばめたような星空の片隅に、たしかに青白く尾を引いた光芒がある。

 やがて集落の誰もがその面妖な星を眺め、吉兆だ、いや災いをもたらすと口々にささやき始めたちょうどその頃、族長の耳は母家から漏れる娘の呻き声を聞いていた。

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