第21話無職でもパーティでクエストに行ってもいいですか? その3

 ネビアはボソリと呟く。


「ムショ、一緒に来てくれ」


「へっ? うわぁぁぁ……!」


 ネビア俺を軽く持ち上げ、背中に背負いカナの方へ向かって全速力で走り出す。俺を肩に背負って走っていた時より遥かに速い。疾風と呼ばれても遜色ないほどの速さだ。坂道を下るネビアの勢いは止まることなく、更に加速されてゆく。


「スレン! いつでも魔法を打てるように準備しててくれ!」


「任せて下さい! 2人とも気をつけて下さいね!」


 すでに遠くの方で立っているスレンに叫んで指示をする。スレンは親指を立てて了解の合図をしてみせた。


 ネビアと俺はカナが追いかけられているバッファローの後ろへと徐々に近づいて行く。傍から見れば運動会のリレー種目をしているように見えるかもしれない。ネビアは物凄い速さでカナとバッファローへ追い付いている。


「何か策があるとしても、あの数のバッファローを相手にするのは流石に厳しいかもしれない……」


「分かっている。だからスレンに魔法の準備をするよう指示したのだろう? 正しい判断だと私は思うぞ」


 不安を隠せなかった俺はもしもに備えてスレンに魔法の準備をさせた。その判断が正しいと肯定し、安心感を与えてくれるネビア。もしその言葉が嘘だとしても嬉しさを感じられずにはいられなかった。俺は思わずネビアの背中で顔を俯かせる。


「ん……どうかしたか?」


「気にしないでくれ。よし、カナを助けてバッファローも倒すぞ!」


「承知した!」


 顔を上げて前方に目を向けると、先ほどまでバッファローの後ろにいたはずが、バッファローを追い越してカナと並走していた。


「カナ。大丈夫そうだな! 安心した!」


 俺は必死で走っているカナに労りの言葉をかける。すると、カナは鬼の形相でこちらを睨みつけながら怒鳴る。


「この状態を見て分かるでしょ! 大丈夫じゃないわよぉ……! 早く助けなさいよ!」


「そうは言ってもな……お前がハープを落とさなければ今頃のんびりバッファローを倒せてたんだから」


 怒鳴るカナに対し、俺は先程のこいつの失態を言って責める。カナはしばらく黙り、再び大声で懇願する。


「ごめんなさい! もう謝ったから早く助けてよぉぉ!」


「2人を抱えて走るのは流石に私でも厳しいな。ムショ、カナを頼めるか? 私がカナの代わりを受け持つ」


 ネビアは背中にいる俺に少し振り向いて質問する。「分かった」とネビアに言うと笑顔を見せる。と、次の瞬間、背負っている俺を横に放り投げてバッファローの戦勢から離脱させる。


「痛ってえええ……なんの合図も無しに投げ飛ばすなよ!」


 痛みに耐えながらネビアに怒る。

 勢いよく投げ飛ばされた俺を見たカナ。自分もあんな風に投げ飛ばされると感じたのか、ネビアに恐る恐る問う。


「ねぇネビア? 私はもう少し優しく投げ飛ばしてくれない? ほら、私って柔肌だからあんな勢いで飛ばされたら傷ついちゃうと思うの。だから……ね?」


 ネビアはカナの顔を見ながら笑顔を浮かべる。そして一言「期待はしないでくれ」と告げると、カナの襟元を掴んで俺のいる方へ向かって空高く放り投げる。


「ネビアのバカぁぁぁ! ムショさんお願いだから受け止めて!」


「っバカ! こっちはお前を受け止められるほどの技量は持ち得てない! 来るなぁぁぁ!」


 空中浮遊するカナは手足をバタつかせ、俺目掛けて勢いよく飛び込んでくる。轟音と共に俺の上に綺麗に突撃したカナは傷ひとつ付いていない。代わりに俺の方はボロボロだ。


「イタタ……あれ、痛くない。ムショもたまにはやるじゃない。大丈夫?」


「…………早く……退いてくれ」


 俺を踏み潰しているカナはヒョイと横に退き体に着いた土埃を払う。

 腰をさすりながら立ち上がり互いの無事を確認する。カナは心配なさそうだ。俺もボロボロだが問題はない。

 問題はネビアの方だ。早く助けないと!


 急いでネビアの方を見ると、ネビアはスプリントバッファローより遥か先で立ち止まっている。

 何で立ち止まってるんだ! もしかして俺を背負って走ったから疲れてしまったのだろうか? もしそうだとしたらスレンに魔法を打たせて助けないと!


「ネビア!」


「大丈夫だ。ムショとカナはもう少し休んでてくれ!」


 ネビアはスプリントバッファローの方に体を向けて静かに構える。

 ネビアは大丈夫と言っているが本当に大丈夫だろうか? 心配しつつもネビアの様子を見守る。


 スプリントバッファローは勢い止まらず、ネビア目掛けて距離を詰めて行く。ぶつかりそうなその時。


「数は10頭……相手の流れを読んで確実に決める……軸足を……」


 ネビアはブツブツと独り言を言いながら何かを確認していた。

 と、次の瞬間ネビアは洗礼された動きでスプリントバッファローの突進を軽やかに受け流す。先頭のリーダーを始め、1頭ずつ確実に眉間やら頭にカウンターを決めていた。見たところ、スキルを使っているようには見えない。ネビアの身体能力のみで対応しているのだろう。


 鈍い音とともに気を失っていくスプリントバッファロー。最後の1頭に脚でカウンターを決めて倒してしまった。

 ネビアは気を失って伸びているスプリントバッファローに向かって構え直し、静かにお辞儀をした。


「ふぅ……いい鍛錬になった。ありがとう」


 一瞬の出来事に驚きながら、俺とカナはネビアの元へ歩いて行く。それに気がついたネビアは晴れやかな笑顔でピースサインをした。


「クエスト達成だな!」


 元気よく言うネビアに俺とカナは静かに地面に座り土下座をする。


「「ありがとうございました」」



 [★★☆☆☆ スプリントバッファローを5頭討伐せよ 討伐数10頭 クエスト達成!]



 続く

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異世界転生なら無職(すっぴん)でも素敵な日常を送れますか?〜無職スタートの冒険勇者は無双の条件をまだ知らない〜 那雪尋 @Nayukichika

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