第20話無職でもパーティでクエストに行ってもいいですか? その2
俺とカナはスプリントバッファローが活動している付近まで行き、草むらに身を潜めてバッファローの様子を伺う。バッファローは数頭で行動しており、どこかに移動しているようだ。
そのまま観察を続けていると、バッファロー達の目の前に大きな岩が行手を塞いでいた。
避けて通ればなんの問題もない岩に見えたのだが、先頭のバッファローはそれが気に食わないのか、荒い鼻息を立てながら片方の前足を数回地面から擦り上げて土煙を上げ、角がついた頭を低く構える。邪魔だと言わんばかりに威嚇をして警戒を行う。
と、次の瞬間、バッファローは岩に向かって猛突進して止まることなく岩を破壊している。突進の勢いで砕かれた岩の破片が俺たちが身を潜めている草むら近くまで飛び散ってきたことが、スプリントバッファローの力強さの証明ともいえるだろう。
岩を砕き終えたバッファローは勝利の雄叫びと共に空に顔を上げて猛々しく振る舞う。その様子を草むらで見ていた俺とカナは青ざめた顔で互いを見合わせ。
「ね……ねぇ。本当にあの牛なの……? あれどう見てもヤバイわよ! あんなのに突進されたら流石の私でも即死よ! 即死! さっきまでは囮の役に納得したけど、アレ見た後に囮なんて無理よ!」
「…………ガンバレ。じゃ!」
涙目で鼻水を垂らしながら訴えるカナ。それに対して親指を立てて応援の意を見せてすぐさま立ち去ろうと腰を上げる。それを食い止めるようにカナはこちらの袖を掴んで離そうとしない。
「なっ、離せ! お前は囮に納得したんだからちゃんと役目を果たせ!」
こいつ! どんだけ力強いんだ! 全っ然離れん!
「ムショさんはアレを見てよくそんな鬼畜な事言えるわね! 最近私の扱いが雑じゃない? こう見えて私は女神なのよ! もっと優しくしてよ!」
訴え続けるカナを尻目に袖を勢いよく上げて手を振り解く。これ以上訴えられると流石の俺も情に負けてしまいそうだ。カナを残して早々に立ち去ろう。
そう考えた俺は立ち上がりその場から離れる。その時、
危険をいち早く察知した俺は猛ダッシュでスレンたちの元へ走り出す。
「カナ! 早く走って逃げるんだ!」
「そんなぁぁぁ!」
叫び声をあげながら走るカナ。それに合わせてバッファローたちも一斉にカナに向かって突進を始めた。
スレンたちの元へ戻った俺は息を整えながら上手くいったことを伝え、走っているカナの方に指を差す。
「ハァ……ハァ……これで後は待つだけだ」
「本当にあれで上手くいくんでしょうか? なんだか不安になってきました」
「私もスレンと同意見だ……大丈夫なのか?」
不安を隠しきれない2人。そう言われるとなんだか不安になってきてしまう。だが今更どうしようもできない……カナの頑張りを信じるしかない。俺はスレンの横に腰を下ろし、体育座りをしてカナの様子を見守る。
〜現在〜
一向に止まる気配のないスプリントバッファロー。走っている態勢から疲れが見え始めているカナ。そして、その様子を遠くから傍観している俺たち。
「ムショ……君が言っていた情報は確かなのか? かれこれ20分くらい見てると思うが、一向に止まる気配はないぞ?」
心配し始めるネビア。スレンも無表情ではあるが激しく頷く。
確かに。冷静に考えてみると不安になるな。情報と言ってもギルドでいつも酔っ払っている酒飲みのおっちゃんからの情報提供だ……あれ? もしかするとヤバイんじゃない? これ。焦り始めた俺の額からじんわりと汗がにじみ出る。
「別の方法考えた方がいいかな? これ……」
恐る恐る横にいる2人に聞いて振り向いてみると、口を開け信じられないとでも言いたげな表情でこちらを見て時が止まっている2人がいた。
「何も考えてなかったんですか!? どうするんですか! カナがバッファローに轢かれちゃいますよ!」
切羽詰まった声で状況を伝えながら俺の肩をブンブン揺らして急かす。
こうなったら……。俺は立ち上がって遠くで逃げ回ってるカナに向かって叫ぶ。
「カナ! 走りながらでいいからサイレントハープを使え! 20分以上走り続けてるんだ、バッファローたちも疲れているはずだ!」
「分かったわ! やっとハープの出番ね!」
返事をするカナは足を止めることなく腰に掛けているハープに手を伸ばす。だが、走りながら掴むのは大変なのか中々ハープを持つことが出来ないカナ。
「カナ! 早くハープを持て! バッファローが追いついてきてるぞ!」
「言われなくてもやってるわよ! 急かさないで! よし取れた! あっ……」
俺も含め、みんなが同じ顔をしたと思う。
腰元のハープを取ることに成功したカナ。しかし、手元が狂ってしまったのか、取ったはずのハープはカナの手から消えていた。ハープは地面に向かって落ちたか思えば、バッファローの群れの脚の下に消えていった。
「何やってるんだこのポンコツ!」
「あたしのハープが! あたしのハープが……! ムショさん助けてぇ……!」
泣きじゃくりながら足を動かし続けるカナ。こんな事態になることを想定してなかった俺は別の方法はないかと頭に手を当てて考える。
スレンに魔法を打ってもらい一網打尽にするか? ダメだ……スレンは威力の制御が出来ない。カナに当たるかもしれない。
ネビアのジョブは確か……モンクだったよな。でも1人であの数は厳しいかもしれない……。
「だぁぁぁ! 何も思い浮かばない!」
「ムショさん! もう私の宇宙と魔法でどうにかしてみます!」
痺れを切らしたスレンは立ち上がり杖を構えて詠唱の準備をする。慌てて止めようとスレンの前に立ち塞がり詠唱の邪魔をする。
「ムショさんどいて下さい! 魔法が打てません!」
「打っちゃダメなんだ! カナに当たるかもしれないだろ」
「そんなこと言ってる場合ですか! 私は打ちますよ。なんとか制御してみます! 保証はできませんが!」
「保証できないなら打たないでくれー!」
スレンとの攻防を続けていると、横で静かに座っているネビアが立ち上がる。
「私が行く」
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます